第111話:縮まる距離
「……終了だな」
「参ったな。役満和了って勝てなかったって、これが初めてだよ」
恵は眼鏡を直しながら、ゆっくりと立ちあがる。
「あンただって2位だったろ。ベスト4には出れそうじゃないか」
「あー、時間だね。すまないが、ここは退散させてもらうよ」
10分の休憩のあと続いて2回戦が始まるが───
2回戦から5回戦まで。2位になった3回戦以外、全てトップは和弥だった。
準決勝進出を決めたが、いつものように顔色を変えず控室に戻った和弥。
「竜ヶ崎くん!」
和弥が控室に戻ると、小百合に声をかけられた。
「何だ?」
「今、いいかしら……?」
「……ああ」
そう返事をすると、和弥は控室の隅に座った。小百合も隣に座る。
「………」
しばらくの沈黙の後。小百合が口を開いた。
「……そ、その……竜ヶ崎くん。準決勝進出、おめでとう……」
見ると小百合の表情は、誰が見ても真っ赤である。
「ああ。サンキューな」
和弥は表情も変えず、小百合にそう返す。
「……きょ、今日もバイクの後ろ、いいかしら?」
何か言いたげだが、うまく言葉が出ない様子の小百合。そんな小百合を横目で見ながら、和弥は心の中で呟いた。
「構わないぜ」
実は和弥も小百合に声をかけられるのを期待して、キャップ型ヘルメットは持って来ていた。
いいムード───になりかけたところで、龍子がやって来た。
「準決勝進出おめでとう、竜ヶ崎!」
「……ありがとうございます」
小百合は和弥に対する態度とは打って変わって、つんけんした口調で恵に答えた。
龍子は苦笑しながら、続ける。
「次は準決勝か。不慣れなルールにも、あっという間に適応するとはな」
いいムードだったところを龍子に邪魔され、小百合は少々不機嫌を隠し切れない。
さらにそこに。
「はあ…ベスト8どまりかぁ」
「あたしも。イケルと思ったのに~」
どうやら敗退したらしい由香と今日子も、ドカドカと入ってくる。
小百合は更に不機嫌になった。
「竜ヶ崎」
龍子が和弥に向き直る。
「準決勝、頑張れよ。応援しているぞ」
「ありがとうございます」
龍子は控室を出て行った。
「……さてと」
もうそろそろ時間である。和弥も立ち上がった。
「んじゃ、委員長。また駐輪場まで歩くけどいいか?」
小百合の顔がパアァ、と輝く。
「えぇ、勿論!!」
和弥は小百合と共に控室を出て行く。
(頑張れよ……竜ヶ崎)
龍子は一人、心の中で呟くのだった。
◇◇◇◇◇
駐輪場にてヘルメットを被った和弥に、キャップ型ヘルメットを付けた小百合は、ジッと和弥の顔を見つめる。
「どうしたんだよ? 委員長?」
「竜ヶ崎くん……私、今日このまま貴方のマンションに行きたいんだけど…」
小百合はか細い声で呟く。
「!?」
和弥は小百合の真意が分からない。いや、敢えて気付いてないフリをしている、という方が正しいだろう。
「竜ヶ崎くん……私、西浦小百合は……貴方の事が好きです」
思った以上に直球な、小百合の告白であった。
「いや、それは…」
「お願い! どうしても!!」
「……お袋さんにはちゃんと言ってあるんだろうな?」
コクリと頷く小百合。
和弥がヘルメットのシールドを下ろすと、小百合も慌てて自分のヘルメットの顎紐を嵌める。
「じゃ、行くか」
「うん!」
2人を乗せNinja400は、和弥のマンションへと向かうのだった。
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