第110話:決着
「………やるな」
「九種九牌で流したら、あなたに反撃のチャンスを与えてしまうような、そんな気がしたから」
和弥の下家、恵から見て上家は顔面蒼白になり、和弥は薄笑いを浮かべながら8,000点を支払った。
「おい、発岡恵が国士を和了ったぞ!」
再びザワつくマスコミ陣に、係員が再び注意をする。
いよいよ南4局である。ドラは七萬。
(でもこのオーラスが、一番問題なのよね)
そう。オーラスは自分が親なのだ。牌山が上昇してくる時間が、非常に長く感じる。
相変わらず表情を変えない和弥からは、焦りは全く感じられない。
和弥の爆発力と的確な牌読み、そして綾乃には劣るものの驚異的な記憶力、そして何よりもマシーンのような冷徹さと勝負度胸は、2度の対戦で後ろで恵が一番分かっている。だからこそ、好配牌が自分に入ってくれるのを祈った。
(差は4,200………。2位でもベスト4だけど、それじゃ皆に示しがつかない………)
しかし理牌する前から、ガタガタな配牌なのは一目で分かる。
(なんなのこの配牌っ!?)
もう手ナリで字牌を残しつつ無理矢理混一色を狙い、最悪和弥以外になら3,900までなら差し込んでもいい。そんな選択しかない配牌だった。
和弥の第一打はなんと、ドラ表の六萬である。
(新一さんの息子さんも、あんま配牌は良くなさそうな事か)
恵の第一ツモは五筒である。
(役牌は絞った方がいいわね)
オリると決めた場合には、相手の捨て牌を見てリーチや副露をされる前に、多く安全牌を確保しておくのが重要である。
麻雀ではどっちつかずの中途半端な打ち方はかえって傷口を広げる事も多いのだが、とにかく和弥の狙いが読めない以上、下手に動くことも出来ない。
(いくらなんでもお返しに国士とか狙ってないわよね? だとしたら全帯公か、七対子か、ホンイツか………)
和弥の対子処理の上手さは、恵も初対決から実感してきた。恐らく麗美にも負けないレベルだろう。その和弥が第一打でドラ表を手出ししてきたのだ。また七対子の可能性は十分にある。
本来は攻めの役ではない七対子。しかしオリ打ちにも強く、リーチをかけて裏ドラが乗ると必ず2枚。バランスを重視する和弥好みの役なのだろう。少なくとも恵は、綾乃からも彼が対子選択を失敗し、捨て牌に重ねた場面は見たことがないという情報は得ている。
和弥が次に切ったのは四索である。
(もう完全にタンピン系ではないわね)
紅帝楼で初めて和弥を見た時は、役牌の後付けなども平然と使ってきたのが、恵の脳裏に蘇った。
(牌効率重視か、手役重視かの違いはあるけど、こういうところの考えは似てるわよね新一さんの息子さんと花澤さんって。粘りに粘って相手のチャンス手を潰し、逆にここ一番での自分のチャンスは絶対に逃さない………)
とはいえ、全員手は遅いようだ。特に恵は未だに字牌処理に苦しんでた。10巡目。
「リーチッ!」
上家が白を切り、勝負に出る。
(通るのね)
恵も続いて白を切ろうと決めた瞬間。
「ポン」
(!?)
和弥のポン宣言が入る。
(マズイわね………ポンテンかしら?)
再び上家のツモとなり、上家はツモ切りして牌を再び横に曲げた。
恵は最終的に上家に差し込もうと決断し、白を合わせ打ちする。
「現物」
下家が現物の一索を切ったその時だった。
「チー」
(食い直し!? この子、初めからチャンタ狙いだったのねっ!?)
恵も上家に差し込もうと無スジを切るが、上家からの反応はない。
「ツモ」
和弥はツモ牌を置き、パタリと手を開けた。
「チャンタ・白・ドラ。1,000・2,000」
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