第109話:逆転の一手
「ツモ。ピンヅモ・ドラドラ。ニ本場で1,500・2,800」
和了ったのは下家だった。平和とはいえアタリ牌は3枚しかない、苦しい待ちである。
(リーチをかけなかったのはそのせいか………)
とはいえ、恵以外なら誰が和了っても良かった訳であり、和弥からすればこれは“最小限の被害”である。
(どの道2位は確保出来るが………どうせならトップ通過したいよな………)
そんな和弥の気合が周囲にも伝わって来たのか、マスコミ連中もザワザワと騒ぎ始めた。
「竜ヶ崎新一の息子、発岡恵をリードしてるぞ!」
「おいおい。プロ団体も注目の発岡恵が、敗北する瞬間が見られるのかよ………」
表情の変化の激しい雑誌記者達は、通しをしてるのと一緒である。
「すいません皆さん。余計な事は口に出さぬようお願いします。次の注意で退場及び次回からの取材拒否もあり得ると思って下さい」
見かねた大会係員が、すかさず釘を刺した。瞬時に黙り込んでしまうマスコミ達。
南3局。親は下家、恵から見た上家。ドラは九索。第一ツモの瞬間、恵は全身に鳥肌が立った。
(九種九牌で流すべき……? それとも………)
恵の頭の中に「ある役」が浮かび上がる。
(ここで国士無双を和了れたら、一気に逆転出来るわ………)
少々の熟考をした恵は、まず北から切り出した。
(九種九牌で流した方が良かったのか、それは分からない。ただ、彼も早手で来るだろうし、ここで安手を和了っても延命策でしかない。残り2局のテーマは『大きな手を和了る』ことなんだから………)
対面の和弥も、ここが勝負どころ、と見たのだろう。4連続で手出しだ。ツモは好調なようである。
(やれやれ。捨て牌が明らかに異常だな………)
厄介な事に、ドラの九索をまだツモれていない。
(この捨て牌じゃ、誰もが七対子か全帯公、国士の可能性を疑う………。聴牌したとしても、ロンアガリは無理でしょうね)
しかし、恵の心配を吹き飛ばすかのように10巡目───
(ドラが来てくれたわ!)
一番出にくそうなドラの九索を、恵は自力でツモってきた。これで一向聴。とはいえ、流石にここまでくるともう、国士を疑わない者はいない。
(誰かの放銃なんて最初から期待していないわ。そもそも役満よ。簡単には和了れない事なんて、麻雀を始めた時から分かってる)
そして11巡目。ついにラス牌の白をツモり聴牌。
「………リーチ」
迷う事なくリーチに行く恵。下家と上家はギョッとした表情を見せるが、和弥だけは不敵に笑うだけだった。
「本当に必要なのか? そのリーチ?」
「必要かどうかは私が判断する事よ。あなたが決める事じゃないわ」
不敵に微笑む恵。
14巡目。
「ツモ」
恵は静かにツモった牌を置き、手牌を倒す。
国士無双であった。
「8,000・16,000」
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