第107話:消耗戦
(チ………俺が親満和了ったのに、全然動じてねぇな。何とかこの女にトドメを刺さないと。ラッシュをかけられるのは目に見えている)
和弥も流石に、雰囲気的に微妙なモノを感じていた。こちらが親満をツモったのにも関わらず、恵がサーフィンでいう“波に乗った”状態なのが周囲にも分かったようだ。
(いや、始まってからウダウダ考えてもしょうがない)
しかし後悔先に立たず、とはまさにこのような状態なのだろう。全員が配牌を取り終え、南1局が開始された。ドラは九索。
(手は悪くはない………)
実際和弥の手はドラもあるし、發の対子もある。上手くいけば索子の混一色まで持っていけそうだ。五筒はあるが周辺の牌がくっつかないなら、序盤で切ってもいいだろう。ダブ南も重なればハネ満まで育ってくれる。
第一ツモは八索。一番欲しかったカンチャンが、ズバリ入ってくれた。
ここは打九萬でスタート。他家───と言っても真に警戒すべきは恵のみだが。鼻歌を歌いながら牌山に手を伸ばす彼女が、どうにも怪しく思えて仕方がない。
そんな小百合の心配を他所に、なにかが起こることもなく8巡が経過した。
肝心の發だけが一向に出てこないまま、メンホンの一向聴である。ダブ南はすでに2枚切れだが、安全牌として持っている状態だ。
(ニ・五・八索が入ったら迷わずリーチに行くぜ)
和弥が4巡目に切った五筒だが、それは下家が四・六のカンチャンでチーをし、続けて恵が切ったニ筒をポンした。筒子の連続仕掛けだが、捨て牌を見るに染めてはいなさそうだ。おそらくはタンヤオ・三色といったところだろう。
6巡目には、和弥が切った中を恵がポンした。恵の捨て牌には萬子が一枚も見えていない。おそらく恵も、まっすぐ染め手に向かっているようだ。
そして今度は、下家が捨てた八筒を井上がポンし、打・四索。上家も初心者ではない。和弥が索子で染めている状況での四索切りが危険ということは分かっているはず。聴牌と見るのが妥当であろう。
(困ったな………)
和弥の手も高い打点が望める一向聴ではあるが、対局者達も既に聴牌しているなら、不利と認めざるをえない。さらにこの中では和弥と拮抗した実力の恵なら。萬子でなくても和弥の手の中から必然的に切り出される、索子以外の色で受けているハズだ。
和弥は湧き上がってくる嫌な予感を必死に振り払いながら、牌山に手を伸ばした。ツモは二索。引いた瞬間、じっとりと指にくっついてきた。
「リーチ」
恵にトドメを刺すべく、リーチにいった和弥。普段はダマだが、押し通すならダマテンの意味はない。
しかし次にツモったのは、四萬だった。
「ロン」
恵が手牌を倒す。
やはり打点は安かった。チャンス手を潰されてしまったのは痛いが、大きな失点にならなかっただけよかったと言えるか。
「一本場で1,300」
「ほれ」
1,300点とリーチ棒を回収すると、恵は牌を中央の収納口に流し入れる。
(やはり敵はこの女一人)
上家と下家には失礼だが、そう思わざるを得ない。和弥は改めて気合を入れ直した。
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