第102話:本心
「竜ヶ崎くん、少し待っててね」
そう言って小百合は、スマートフォンの通話ボタンを押した。
「もしもし? どうしたの中野さん?」
『あ、西浦先輩。今大丈夫ですか?』
「ええ、今は大丈夫。どうしたの?」
『ちょっと……ね。西浦先輩、今どこです?』
「え? ………今は竜ヶ崎くんと……」
『……そうですか』
電話の向こうで紗枝が何か言いたげなのを察して、小百合は尋ねる。
「……どうしたの? 何か用事があるのでは?」
『……いえ。すいません』
そう言って、紗枝の電話はプツリと切れた。
◇◇◇◇◇
駅に着くと、小百合は降りてキャップ型ヘルメットを外して和弥に渡す。
「じゃあ、ここでお別れね。ありがとう、竜ヶ崎くん」
「ああ。じゃあまた明日な」
和弥は小百合に軽く手を振る。そして和弥のNinja400は駅を後にした。
(……竜ヶ崎くん)
ヘルメットを右腕に装着しながら、和弥は自分のマンションへとバイクを走らせていく。
駅に入らず、その姿をずっと見送る小百合。
(私、やっぱり貴方の事……)
和弥の父・新一に母・双葉が惚れていたように。やはり血は争えないのか。
先ほどの紗枝の電話を気にしながら、和弥が視界から消えるまでいつまでもその姿を見つめていた。
◇◇◇◇◇
「ふー。やれやれ」
マンションに到着し、地下駐輪場に入ろうとしたその時。立っていた人物に和弥は驚愕する。
制服姿のままの、部長である綾乃だったからだ。
「………白河先輩か。何か用か?」
「え……? あ、うん」
和弥はヘルメットを脱ぐと、綾乃は遠慮がちに尋ねた。
「その……会場から、小百合ちゃんを乗せてたの?」
「そうだが。立川南はバイク禁止だから、注意に来たのか?」
和弥がいたずらっぽい笑みを浮かべたので、綾乃はムッとする。
「そ、そんなんじゃないわよ!! ただちょっとね!!」
慌てて言い訳する綾乃に、和弥は苦笑する。
「いいん……西浦に用があったわけでもなさそうだな。今ごろはいるんじゃないのか。電話してみたらどうだ?」
串を出し髪を直す和弥だったが、綾乃がそれを制した。
「あ……いや! そうじゃないんだ!! 明日も頑張ろうね!! それじゃあ!!」
作り笑いを浮かべ、その場から小走りで立ち去る綾乃。
「?」
和弥は綾乃の後ろ姿を、不思議そうに見つめるのだった。
(もう……。私って、どうしてこうなんだろう……)
タクシーエリアでタクシーを拾い、急いで乗り込む綾乃。
(竜ヶ崎くん……)
小百合が初めて部室に和弥を連れてきた時の事。そして初対局、トレーニングマッチ、サシウマ。ベスト8を決めた戦い。
(………間違いない。小百合ちゃんの気持ちは分かっている。でも、私も彼の事が……)
先輩でもなく、部長でもなく。一人の女性として。綾乃は心の中で呟いた。
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