第99話:自分の麻雀
「ウソでしょ………。最後の一枚じゃん………」
「しかもドラ待ちペンチャン…」
モニターを見ながら今日子と紗枝は、唖然とする。
「お前も牌効率重視だったな、北条」
ペットボトルのミネラルウォーターを一口飲んだ龍子は、少々考えてから口を開いた。
「確率はあくまで可能性の事だ。75%の確率と言っても、25%のハズレがあるという事もある。読んだって止めたって負ける事もある。それが麻雀だ」
何も言えない今日子に対し、龍子は続ける。
「お前は今、私にこう言われて動揺しただろう、北条?」
「は、はい………」
自分の心の中を見透かされて、今日子は目を逸らして返事をするしかなかった。
それは同じく牌効率重視打法の小百合も同じである。
「…………竜ヶ崎の凄いところは、あの状態でもブレないところだ」
確かにそれは小百合が一番良く知っている。粘りに粘って勝利をモノにする。逆に対戦相手の心を折りにいく。それが和弥の麻雀な事も。
(竜ヶ崎くん………大丈夫よね?)
小百合は再びモニターを見つめた。
南2局。ドラは二萬。
(張った。一盃口確定だが…リーチして出る牌じゃない。でもこれを3,900で和了ったら、もうギブアップしたも同然だ)
「リーチ」
リーチ棒を置き、五萬を横に曲げる和弥。『リーチです』という女性の電子音が鳴り響く。
(大したもんだね。残り3局だっていうのに。歯を食いしばって自分の麻雀を打ってるわ。でも…)
恵は自分の出来面子から二筒を抜き取り、河に置く。
(これならどうかしら?)
「ロン。5,200」
和弥の対面、恵の上家が手牌を倒した。タンヤオ・ドラドラである。
「はい」
相手に点棒を渡す恵。
「またリー棒が無駄になったね」
「ドラドラは余計だったんじゃねえのか? 差が14,600に縮まったぜ?」
収納口に牌を落としていく和弥。
「あと2局よ」
プレッシャーを感じながらも、笑顔を崩さない恵だった。
南3局。ドラは一筒。
「上家は国士よねあれ。オイシイとこばっか切って………」
モニターを見ている今日子も紗枝ももう、気が気ではない。
「どんどんキー牌が切られていきますね…」
和弥のツモは文字通り、撚れてるような状況である。
(手牌が揃わないのは仕方ない………。与えられた状況で、最善の手を和了るんだ)
8巡目。
「ポン!」
現在親の対面が、連荘狙いで恵から八索を鳴く。
(クソ………。捨て牌に二索が2枚…。もう索子の三面張はほぼ意味がなくなったな)
「ど、どうすんのあれ………」
9巡目。和弥は二筒をツモって聴牌。
(俺はまだ………正常な判断が出来てるだろうか………)
ほんの少し考えたが、和弥はそっと牌を切った。
「リ、リーチにいかないんですかね………」
同じく不安そうな紗枝だが、誰もそれには反論しない。
「………二・五・八索はほぼ死んでるわ。竜ヶ崎くんもそれが分かってるんだよ」
とはいえ、流石に綾乃も不安でいっぱいだった。
11巡目。和弥は四索を引いてくる。
「よし、今度こそシャボでリーチよ!」
由香が自分の事のように握り拳を作る。
「もう五萬しかアタリ牌が無いわ、南野さん」
「んな事言ってる場合じゃ…裏が乗るかも知れないし、リーヅモ・ドラ・赤なら和了らないと!」
いつも自分が大物手狙いなのも忘れ、小百合に食ってかかる由香。
和弥は三索を切り、シャボ待ちダマテンを選択。
一方局を進めたい恵だが、鳴かれて以降は無駄ヅモしか来ない。
(未だに手出しか、陵南渕の部長……。鳴かせたせいで対面のツモが全部、そっちにズレ込んでるのか………)
12巡目。ツモ牌に手をかける和弥。
(まだチャンスはある!)
ツモは六萬だった。
「やっとまともな形で聴牌出来たよ……。リーチ!」
(こ、このー…!?)
凄まじい和弥の粘り腰に、恵も思わず卓の下の拳を握りしめる。
「チー!」
(牌の左端と2枚目から三・四でチーか。食い延ばしだな。間違いなく同テンだろうな。
もしかしたら先に引かれるかも知れないし、あと3枚あるかどうか………。
いや、それでも俺はやるだけの事はやった。この局がダメなら、南4局でまた倍満以上を狙うだけだ)
13巡目。
「……ツモ」
裏ドラを確認する和弥。表示牌は表ドラと同じ、九筒である。
「4,000・8,000」
「き、きたー!!」
「高目よ高目!!」
和弥のツモと同時に、立川南麻雀部は大歓声に包まれた。
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