第9話:全く別の視点
「なんだよ?」
卓に歩み寄り13枚の牌を集めた小百合は、手牌形を見せる。それは小百合が『紅帝楼』で見た、和弥の最後の和了りの二向聴だった。
「貴方、ここから六・七萬の両面塔子を捨てて、平和も三色も放棄したわね。理由があるなら教えてもらえないかしら?」
「………知らなくても。委員長の今後の人生には、何の影響もないだろ」
この連中を相手に“種明かし”をしても仕方がない。そう思って帰ろうと思ったその時だった。
「今後の人生に影響あるのか、ないのかは私が決めるわ。お願い、教えて」
(こりゃ、説明するまで帰してくれそうにねぇな)
諦め気味に卓の付近まで戻って来た和弥も、またカチャカチャと牌を集め始める。
「ひょっとして………引っ掛けリーチの布石とか?」
由香が能天気に尋ねるが、和弥は首を横に振り、牌を集め始めた。
「あの時の上家、対面、下家の捨て牌だ」
「まず下家だが。タンピン系の捨て牌で早々と四萬切りだ。ようするに三萬は使っていない」
「あの時のドラは白だったが、おそらく対面が対子以上で持っていたんだろう。ここも早々と一・ニ萬のペンチャン落とし、三萬はない。
しかも五萬切りのあとに手出しで九萬だ。八・八・九萬の形から八萬を暗刻にしたんだろ。この時点で八萬は残り0、五萬があと2枚あるかどうかだ」
「上家も678の三色狙いだろ。ここも二萬を早々に切っている、三萬は使っていない。最後に五萬を切ったのは赤五をツモっての入れ替えだろ」
小百合も、由香も、今日子も、そして綾乃も。言葉を無くして聞き入るばかりだった。
「片側が0になり、もう片方も1枚残っているかどうかの両面じゃ意味が無ぇ。だったら山に4枚残ってるカンチャンの方がいい。そう判断しただけだ」
茫然とする4人を後目に、学生カバンを持って部室から出ていく和弥。部室内には当然ながら、重苦しい空気が充満していた。
「な、なーにが山の残り牌よっ! ホントは引っ掛けリーチで意表ついてやろうかとか、せいぜいその程度でしょ!?」
精一杯の作り笑いを浮かべ、乾いた大声を張り上げたのは1回戦目で5分で飛ばされた今日子である。
しかし小百合、そして綾乃の評価は全く違っていた。しばらく何かを考えていた小百合だったが、卓に手を突いて立ち上がった。
「部長。私は竜ヶ崎くんを絶対に入部させたいと思っています。皆さんも協力して下さい」
「そりゃもちろんっ! 私もメッチャ彼に興味が出て来た。もう何がなんでも入部してもらおうっ!!」
綾乃も満面の笑みを浮かべた。
「あたしは反対ですっ! あんな奴、絶対認めないっ!!」
和弥にコテンパンに叩きのめされた今日子は、立ち上がって声を張り上げる。
「認めないも何もさー。それは今日子が決める事じゃないじゃん。第一、カレシが入らなかったら選手権の団体戦どーすんの?
綾乃先輩以外の3年生は抜けて、ここにはもう4人しかいないんだよ?」
呆れた目で見る由香に諫められ、今日子は下を向いてしまった。
「あっとっと。そろそろ下校時刻だね。片付けようか」
部室には窓から射し込む夕日が、空間そのものをオレンジ色に輝かせていた。
月・水・金曜日に更新していきます。
「面白い」「続きを読みたい!」と思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします。
していただいたら作者のモチベーションも上がりまます!