プレゼントに脅威を感じる
蔵前は先日誕生日を迎えた。
私はもともと、パンが無ければケーキを食べ、ケーキが無ければパンを食べようという、お菓子が食べられれば満足な人間である。よって、自分への物的なプレゼンとなど当初考えていなかった。
だが、サボテンが欲しい、という衝動に突き動かされるまま行動し、結局サボテンを二個手に入れる、という結果になった。
そしてここで私は、贈り物、という問題を考える事になる。
サボテンが二個になったのはサボテンを買ったお店の厚意によるものであり、素晴らしいサボテンをおまけで貰えた私は、まるで誕生日のサプライズプレゼントだと純粋に喜べた。
ところが、職場の友人から誕生日プレゼントを貰った時、私は実は彼女から嫌われていたのかな、そんな風に感じてしまったのである。
それは単に病気のせいだろうか。
彼女は私が持ち運べるようにと気遣いもしてくれて、プレゼントの箱にはショッピングバックまで付けてくれた。それを彼女からハイどうぞと笑顔で手渡されたのだが、背の低い私にはその箱がとっても大きな脅威にしか感じなかったのである。
笑顔で受け取ったはいいが、幸せな気持ちが湧き出るどころか両腕にずしんと重みが来るばかり。私は箱の中身がライトなんじゃないかと思った。サボテンの為の育成ライトはもう買ってあるんだよ!
反射的に心の中で、いらない、と言ってしまうぐらい、そのプレゼントの箱は私には大きすぎて重すぎる代物だったのである。
そして、自宅に戻って中を開けて泣けたね。
人魚のマークのコーヒーショップのギフトで、マグカップ一個と三種のコーヒードリップが一個ずつ入っているだけのセットだったんだ。
元気な時だったら何てことない重さのものだろうし、チョコレート風味っぽいコーヒーのチョイスは私がそういうのが好きだからと言う心遣いだもんね。
マグを付けたのは私が陶器好きだからって知っているからだろうし。
そんな優しいだけの彼女の気遣いが、重い、迷惑、そんな風にしか受け取れなくなった自分こそ極悪だよ。いいや、自分の体の変化を改めて知って愕然だ。
自分はそれほど変わっていなかったと思ったのに、マグカップ一個の重さを植物育成ライトの重さに感じるようになってしまったんだね、と。
入院前よりもかなり悪化していたんだ、と。
私はプレゼント受け取った時、きっと彼女が期待した行動、箱を開けるね、わーい、ありがとう!それをしなかった事を心の中で謝りながら、人魚マークの渋い色合いの箱の潰しにかかった。
くそ重い。
マグカップ以上の重さあるんじゃないか?これ?
どうして厚紙がこんなに重いんだよ。
重石入ってんのか?
やっぱ普通に重い贈り物、だった?嫌われている?私ってば?
本気で箱が重かったですよ。
マグカップも今の私にはコーヒー淹れたら持ち上げられないぐらい、大きくて重たいもので、今度人魚マークのお客様の声に「このギフトは多発性筋炎の人には重すぎます」と注意書きをお願いしよう、そう思ったぐらいである。
箱をぺら紙にしてコーヒードリップあと二個増やした方が贈られた方に喜ばれんじゃないの?
本当に純粋にそう思った。
喜ばれない贈り物の連想で、私は職場のプレゼント男を思い出した。
職場で飴一個大袋のお菓子一個を配り合う、そんなのはよくある光景で、そういったお返しの必要のないものは互いに気を使わなくて良い物であり、チームで仕事していくうえでの潤滑油ぐらいのものである。
それを彼は勘違いしているのだ。
お菓子を渡すと喜ばれる、だから自分が好かれる。
また、わざわざ自分の席に来て、ありがとう、と喋って貰える。
彼はお菓子にラッピングをし、大袋のお菓子どころかデパ地下の有名店のお菓子を配り始め、上司が部下への気遣いでの「お疲れ様」お菓子がそれなりだった場合、さらにそれよりも上か同等の物を配るのである。
なんという馬鹿行為。
どうして馬鹿行為なのかと言うと、彼が贈り物をする相手は女性ばかりであり、男性には贈らないという所と、それなりの金額のお菓子を貰ったならば貰った相手がお返しをしなければいけない、という常識どころか、お返し返しそれもさらに高いお菓子、という非常識行為をするからである。
さらに彼のいやらしい所は、朝一で人のデスクの上にラッピングされたお菓子を勝手に置いていくところだ。
「お菓子を貰えるのは嬉しいじゃない。私は嬉しいわよ」
上記の台詞で彼の行動を好ましいと受け取る同僚もいるが、大体は上司にやめさせてほしいと苦情を言いに行く人が多数である。またこっちがお菓子を配れば更なるお菓子配り攻撃を受ける。お陰でみんなで飴を配り合い労わり合う、という習慣が消えた。
それなのに上司が動かないのは、彼にできる同僚との唯一のコミュニケーション方法だから強く言えないから、だそうだ。
彼は誰とも付き合った事が無く、独身のまま五十代後半になったからじゃないか、と彼の身の上を聞き出した同僚は推測するが、そんなの知ったことない。
私には彼の行為が女を見下しているようにしか見えないのだ。
男性同僚にお菓子を渡さないのは、男にお菓子を渡しても意識変化が無いから?女はお菓子を貰ったら嬉しいばかりで相手に好意を持つ性質だと思っている?大体人がいないときにお菓子を置く行為は、あとで絶対に彼の席まで御礼を言いに来てもらえるという、犬への取ってこいみたいな行為じゃないかって。
そう思ってしまうので、私は本気で彼の行為は大嫌いである。
そこで私は彼から高価なお菓子を貰った時、すぐにお返しを渡した。
同等の金額のもの。
二倍返しは「二度としてくれるな」という絶交ぐらいに拒否感のあるものだから、同僚相手にはできないと思ってその程度にした。
「わざわざ買って来て下さるなんて。お気遣いさせて申しわけないです。勝手にやっていることですからこういうのはもうしないでください」
「それ!私が貰う時のいつもの気持!やっとわかってくれた?いらないの。だから、私には二度とお菓子を下さらなくて結構ですから!!」
とりあえず、上司が見ている状況で、笑顔を崩さず大き目の声で私は言い放っていた。
これは三年前ぐらいの話だ。
私には彼はお菓子を持って来なくなった。
ついでに挨拶も返して来なくなった。
よって彼の行動など今の私には全く関係も無い。
それをわざわざどうして今頃というのは、前述した嬉しくない贈り物連想で思い出した事と、彼の最近の行動の話を聞いたからだ。
厳密には彼ではなく、彼が纏わりついているAさんの話。
彼女は彼の隣の席となった時に、常ににこにこの彼女らしくいつでも優しい受け答えをしていたそうだ。周囲の人達は彼が彼女に長々話しかけ贈り物を次々にする様が少々度が過ぎると感じていたようだけど、彼女が変わらず笑顔であったので彼に注意も出来ずにいたそうだ。だか彼女は密かに上司に席替えを申し出ていた。そして、席が離れても彼女を忘れられない彼は手が空くとAさんの席に行き、しつこく長々と話しかけるようになったというのである。
「大変だねえ。それでさっきも仲良く喋っていたのか」
「え!Aさん、ひと目がありますから席に来ないようにって彼に言ったって。それ聞いて、誰のことも否定しないあの優しいAさんがねって。よほど辛かったんだねえという話を今しているのよ」
私は同僚の驚き顔を見ながら、自分が数分前に目撃した事を伝えた。
「周囲に誰も座っていない状況で、楽しそうに二人でおしゃべりしていたよ」
「たいへん」
大変だね。
プレゼントは本当に面倒を運ぶ時もある、という話でした。
お読みいただきありがとうございます。
マグカップって何グラムでしたっけ?
なんか落ち込んだまま書きましたが、元気な時って人は馬鹿な行動が出来るんだなあ、そんな風に三年前のことを思い出しました。でも、Aさんは現在進行形らしい。大変だねえ。
ひと目がありますから、なんて、人目のない夜道で、とか、自宅に、とか考えたら、絶対に言えないと思うけど。
もし困った人に付きまとわれている場合、優しいあなたが人を傷つけたくないのはわかるけど、ちゃんと自分は相手を拒否しているという意志表示をしてください。死人に口なし。刺された後に、この人は自分に好意を持っていたのに裏切られた、なんて証言されたくはないでしょう。
この間まで平気で人様に色々言って来た私が最初に刺されそうですけど。