さようなら、妹と伯爵
あれから数日後。
わたしの住んでいた家に不幸があったらしく、一家離散したようだ。
噂によれば、伯爵のエルズワースが家を乗っ取ったとか何とか。妹は……エレインは、伯爵と何か企んでいるようだけど。
父も母もどこへ行ったか分からない。行方不明だ。
「エゼル様、わたし……」
「ご両親が心配だね」
「いえ、これはわたしが望んだこと。もう家に帰らないと誓ったあの日から、こんなことも覚悟しておりました」
「しかし……」
「良いんです。今のわたしはエゼル様と一緒に過ごせるだけで幸せなのですから」
「そう言ってくれると嬉しいが。……本当に良いんだな?」
「……はい。わたしは過去は振り返らない。未来だけを見ています」
エゼル様の瞳を見つめる。
その瞳の中には、わたしの姿が映し出されているようだった。
「なら、一緒にこのエル・ドラードを経営していこう」
「本当ですか。とても嬉しいです」
「もちろんさ。これからも同じ時間を過ごし、君を幸せにするよファウスティナ」
なんて嬉しいお言葉。
この上ない幸せ。
けれど、邪魔者はこんな時にやってくる。
「いるんでしょ、ファウスティナお姉様!」
「まだこんなお店にいたのかい、ファウスティナ」
エレインと伯爵だ。
外からわたしを睨む。
近づけないのは、エゼル様の張り巡らせた“罠”のおかげだ。彼等が一歩でもお店に近づけば電撃が走る。そして、彼等は深刻なダメージを負う。
それはもうエレインで実証済み。
わたしが追い返そうとすると、エゼル様が宝石を弾き飛ばした。あれは、貴重で価値の高いルビーね。
赤い軌道を描くルビーは、二人の目の前で爆発。死なない程度に丸焦げにした。
「「…………」」
エレインも伯爵もその場に倒れて、煙を上げていた。
周囲の人たちは何事かと集まってきて、二人を見下ろす。……これで終わりね。
「おい、この二人!」「エレインと伯爵じゃねえか」「コイツ等、最近俺たちから巻き上げてよォ!」「いい加減に食べ物や金品を奪うのは止めろ」「貴族ばかり得しやがって!」「この二人をボコボコにしちまおうぜ」「弱っている今がチャンスだ」
十、二十と集まってきた市民がエレインと伯爵へにじり寄り、ついに足を伸ばした。
ひとりが伯爵を踏むと、別の誰かがエレインを踏んだ。ボコボコにされていく二人。
「きゃ、きゃあああああああ……やめてええええええ!!」
「うあ、うあ、うあああああああああ……わ、私は伯爵だぞ!! お前達を食わせてやっているんだぞ!!」
「ふざけるなあ!!」「この悪徳貴族!!」「死ね、死んでしまえ!!」「この二人を追い出せば、このエリアは平和になる!!」「そうだ、少なくともここは平和になるんだ」「みんな、やっちまえ!!!」「ぶっ殺せ!!」
ついに民の怒りは爆発。
エレインも伯爵も完膚なきまでに殴り蹴り飛ばされていた。
その状況を見て、エゼル様も一安心していた。
「二人が連れ去られていく。きっとあのまま運ばれて、どこかに捨てられるのだろう」
「もう二度とここへ来ることはないのですね」
「ああ。我々の勝利だ」
「……良かった。これで安心してお店を経営できますね」
「そうだね。そうしよう、愛しの人ファウスティナ」
「まあ、嬉しいです! わたしもエゼル様をお慕いしております」
手を取ってくれるエゼル様は、わたしだけを見つめてくれる。宝石のような瞳で。
これからも、わたしはエゼル様とお店を支えていく――。




