執事の男
ふかふかのベッドに横たわると、眠気に襲われた。アロマオイルの良い香りが心地よくて、わたしは眠った。
*
ふと目が覚めた。
外を見るとまだ夜だった。
明け方のような空気感を感じる。
朝前なのかな。
疲れた体を起こし、周囲を見渡すとエゼル様の姿はなかった。
気になってわたしは部屋を出た。
一階へ降りると、人の気配があった。……誰かいる。
「――エゼル様。辺境伯令嬢であり、聖女でもあるファウスティナ様を匿うなどリスクが高すぎるかと思います」
この声……若い男の人の声だ。
気になって顔だけ出してみると、受付テーブルの前に執事服の男性がいた。
もしかして、専属の執事――とか。
「フォックス、僕の気が変わることはない。彼女の面倒を見ると心に誓った以上、中途半端に投げ出すことはできない。この信念を最後まで貫き通したいんだ」
「そうでした。主様は一度決めた事は曲げない性格でしたね」
「分かっているなら下がれ」
「……ですが」
「なんだ」
「彼女は“黄金”を生成できるのですよ。公爵家をより盤石にできるかと」
「そのようなことは二度と口にするな。
僕は、ファウスティナに本気なんだ。嘗て、全身でこれほど稲妻を浴びたことはない。青天の霹靂だった。
彼女と出会ってから、今日は一日ずっと心が落ち着かなかったよ。なぜなら、ファウスティナの瞳は宝石のように綺麗で、純白で……全てが愛おしかったからだ」
エゼル様ってば、そんな風に思ってくれていたんだ。……嬉しい。
彼は真っ直ぐな人なのね。
あの悪徳貴族の伯爵とは大違い。
黄金なんて気にも留めず、一点の穢れもなく、わたしを気遣ってくれる。
……あぁ、そうか。
彼こそ、運命の王子様なのかもしれない。
これ以上の立ち聞きは悪い。
わたしは静かに部屋へ戻った。
――時間は経過し、朝。
「おはよう、ファウスティナ」
「おはようございます、エゼル様」
あれから少し寝て、また起きると傍にはエゼル様がいた。
変わらない微笑みを浮かべて。
「少し、足を診せてくれ」
「……はい」
挫いた足を出すと、彼はゆっくりとした動作で指を動かした。……痛みはない。昨日よりは良くなったみたい。
「うん、これなら歩けるよ。でも走ってはダメだよ」
「分かりました」
朝の空気と甘い空気が交じり合う。
自然と見つめ合って、ドキドキする。
けれど、それは唐突に起きた。
『――――!』
窓ガラスが割れ、煉瓦のようなモノが飛び込んできた。わたしにぶつかりそうになったけど、エゼル様が身を呈して守ってくれた。
「ファウスティナ!」
「あ、ありがとうございます……。エゼル様はお怪我は……」
「大丈夫。僕は宝石魔術で身体を強化したからね」
パラパラと砕け散るエメラルド。
そうか、あの魔術は体の強化も可能なんだ。凄い。
わたしも身を守れる力があればいいのに。
いや、それよりも外……。
「いったい、誰が……あ!」
外には、妹のエレインの姿があった。あのコ……また性懲りもなく!




