間違
同窓会から帰宅後、綾姫との約束もすっかり忘れて酔っ払い寝てしまった。
「お兄様、お兄様…」眠っていると綾姫の声が聞こえた。
「綾姫…、ごめん…今日は…」睡魔に負け起きることができず明日にして欲しいと伝えたと思う…
「…はる…さま。」
綾姫の声がやたら近くで聞こえた。そこまでは覚えている。
そして今…綾姫が横で眠っていた。艶やかな長い黒髪が顔を少し覆っているが見慣れた顔を間違えるわけがない。
「…あやめ?」
何故綾姫がここに?というより自分が全裸であることにぞっとする。
ベッドで全裸で横に女だなんて十中八九やってる。相手は15歳で、それより何より妹以上に妹だと思っている綾姫だ。いやいや、それはないだろう!
今日初めて綾姫が朝弱いことに感謝した。毎朝起こすのが面倒だと何度か思ったが、そんなこと一瞬で吹き飛ぶくらい感謝しかない。
綾姫が服を着ていれば心配している事柄が起こった可能性が格段に下がる。そっと掛け布団をめくると綾姫の谷間が見え慌てて掛け布団を戻す。
「…うそだろ。」そうだ、嘘かもしれない!というより見間違えかも知れない。慌てて目を逸らし布団を掛けたため裸体を見たわけでは無いのだから。布面積が少ない服だったのかもしれない。
もし裸体だったら95%くらいの確率で…。
残り5%のしてない可能性と綾姫の名誉のためにも裸体を見るわけにはいかない。思考と視野を最小限にし心を無にしてそっと布団をめくる。
「…」
視野を最小に絞ったせいか四度見してしまったので恐らく間違いないが、全裸だった。
「ぅん~」
寒かったのか綾姫がもぞもぞと動いたところでそっと布団を掛けて我に返った。
「…まだ、5%残ってる…」二人とも全裸でも5%くらいはやってない可能性があるかもしれない。
確認のために…
綾姫に聞く?いやいや綾姫にそんなことは聞けない!寝てるし!起こしたくないし!聞きたくない!
シーツの汚れ?いやいや綾姫寝てるし!起こてしまう!
使用部位の中の確認?いやいや中って何?綾姫にそんなもの無いし!いや多分あるけど…これ以上考えるのは辞めたほうが良さそうだ。
完全に思考が暴走し始めた。
そして思った。今すべきは、服を着ることではなかろうか?
ベッドを見ると綾姫がもぞもぞと布団に潜り込んでいる。目覚めは近いかもしれない。そっとベッドを抜け出しクローゼットから服を出す。下を履いてから上を着よう!
動揺しているせいか、無駄に手間取る。ようやくシャツに取り掛かれると思った所で声を掛けられる。
「お兄様…」ドキッと飛び上がってしまう。
「綾姫…起きたのか?」平静を装い振り向くとベッドから起き上がり座り込む綾姫の姿が目に入った。腕や髪でどこぞのヴィーナスのごとくに大切な箇所が隠されているが、だからといって見えない保証は無い。いやあのヴィーナスは面倒になったのか片方見せてしまっているから隠しきれていない。そもそも隠れているとはいえ白く滑らかな肌と細い手足がすでにエロい。いやいや、エロくない。
自問自答を繰り返し、自分自身と会話できることに驚きつつ綾姫から顔を逸らして手に持ったシャツを差し出す。
「これ、着たほうが、いい。」片言みたいな喋り方になってる…動揺し過ぎだ。
「はい。」笑いをこらえたような返事からするに、綾姫にも動揺しているのが伝わったようだ。新たなシャツをクローゼットから取り出しはおりボタンを留める。
「お兄様。着れました。」綾姫を見ると袖は掌が出ておらず袖が余っていて、裾は膝の辺りまで来ている。
「少し大きいか?」いやむしろそれで良かった。布面積が多ければ多いほどいい。袖のボタンも留めていると思いがけない言葉を掛けられる。
「お兄様って服を着る姿もセクシーですね。」何なんだ?セクシーって?俺よりお前だろ?いや、違うセクシーなんて思ってはいけない!自分の意見を否定しながら平静を装う。
相手のペースに引き込まれている場合では無い。早々にハッキリさせなければならない問題がある。とりあえず落ち着くためにソファーに座る。
「綾姫!」
綾姫は一番近いソファーを通り過ぎ何故か俺の隣に座る。少しだけ俺と綾姫の間に距離が有り安心したのも束の間そこに両手を置き顔を覗き込んできた。
「何でしょう?」綾姫の方に目線を向けるとシャツの一番上のボタンが留まっておらず谷間が見える。
「昨日のこと全く覚えてないんだ。」落ち着いて話に集中しよう。
「そんなことですか?構いませんよ。」なぜ足を組むのだろう。正面の席でなくて良かった。会話と思考がちぐはぐで疲れる。それより構わないって何をだろう?
「それで、俺たち…その…したのか?」聞きにくいが聞かなければならない。
「セックスですか?」純粋を音にしたような澄んだ声で無邪気に尋ね返される。綾姫の声でそんな単語を聞きたくなかった。こちらはあえて濁したのに、恥ずかしげもなく言ってのけた。男らしいやつだ。それより誰が教えたんだろうこんな言葉…。
「いや、うん。」言った綾姫じゃなくて何で俺が恥ずかしがらなければならないのだろう?
「覚えてないのなら、もう一度試してみます?」衝撃的な発言と発言と発言で…
「《《もう一度》》ってことはやっぱり、」とんでもないことをしてくれた昨日の自分に殺意を抱く。
「ふふ」綾姫は意味ありげに笑っている。というか笑い事ではない。綾姫は失った物の重大さを理解していないのかもしれない。貞操観念を学ばせる必要があった。
「ごめん!責任を取りたい!」手遅れ感は否めないが、ここで綾姫が無知であることを利用し無かったことにしては正しい貞操観念が身につかない。そもそもそんな卑怯な真似はできない。
「気になさらないでください。」綾姫はどれだけ自分を軽んじるのだろう?謙虚さはときに美徳だが、これに関しては必要ない。
「そんなわけにはいかない!」未成年との合意のない性行為は犯罪なのだから罪を償わなければならない。
「そうですか?それでしたら…」杜若家の嫡子に傷付けた罪はこんなものでは済まないだろう。最悪局部の切断か。
「何でも言ってくれ!」覚悟を決める。
「私と恋愛してください。これから恋人として接してくれませんか?」綾姫の意外な言葉に驚く。恋愛?罰でもなんでもないのだが、なかなか難しい。綾姫に抱く感情は大切な妹以外の何者でもないのだから。
「…はぁ?他には?」綾姫はまだ幼い。友達の影響か?恋愛ごっこをしてみたい年頃なのかもしれない。とは言えこれでは罰にはならない。
「それ以上は何もありません。不服ですか?」まだ綾姫に判断できる内容ではないな。そもそも突然の出来事で驚いてちゃんとした判断ができないだろう。しっかりしているとはいえ15歳だ。
「ただ適切な罰とは思えないな。お祖父様達に話してもいいか?」綾姫の意思も重要だが彼女のお祖父様や両親の判断してもらうべきかもしれない。反応は恐ろしいが自業自得だ。
「だめです。言わないでくださいこんなこと。綾姫のことお嫌いですか?」先程のにこやかな表情から必死な表情に代わり腕を掴まれる。兄のように慕ってきた俺に裏切られた上に、こんな話を家族に聞かせたく無いのだろう。綾姫の気持ちも分かる。自分が原因なのだが…
「嫌いとかそんな問題じゃない。俺が綾姫を犯したなら罪を償わなければならないからで、」綾音の顔が赤くなってくる、ようやくとこの重大さが理解できたのだろう。
「犯しただなんて」顔を赤くして首を振り否定している。
「合意のないのだからそうだろ?」理解出来ていなかったのか?
「私ははる兄様ならいつでも歓迎です。」幼い頃時から抱きついてきたり頬にキスしたり、スキンシップの多い子供だった。可愛かったし周囲の人々も微笑ましいだとか言うばかりで注意し無かったのがいけなかったのだろう。そのせいで貞操観念が身につかなかったのかもしれない。
「綾姫…こういうことは愛している人とするんだ。」こういったことに疎いのは間違いない。
「そのくらい知ってます!昔からずっと好きだと言っているではないですか!」1歳の頃からずっと言われてきたことを思いだす。どうやら好きを勘違いしているような気がする。
「その好きと愛してるは違うんだよ!」自分も恋愛に関して無知で説明が上手くできない。伝わるだろうか?
「知ってますよ!子ども扱いしないでください!私の方がお兄様より恋愛経験豊富ですからね!」たしかに俺は豊富な方ではないが15歳の綾姫よりは、有る気がする。
「俺25だしそれなりに恋愛してるからな。」経験豊富では無いが、異性と付き合ったこともあるし…。
「…恋愛経験豊富なお兄様なら簡単ですね。責任取ってくれるんですよね?」綾姫は、負けたのが悔しかったのか少し怒ったような表情をするがすぐに笑顔に戻り挑発的な態度を取ってくる。綾姫は素直だが、負けず嫌いで譲らない所がある。特に今のように笑顔なのに妙に迫力があるこんな表情のときは絶対に譲らない。何度も折れてきた経験から察する。時間の無駄だと。
「分かったよ。」プラスに考えればこの機会を利用して貞操観念も身に付けさせることができるのではないだろうか。好奇心でしでかす年頃でもないし、しばらく恋愛ごっこに付き合うことにする。
了承すると子供のように指切りで約束させられた。