ep 鬼
初めての依頼が来た。家が崩壊した週の日曜日にその男はやって来た。
第一話 初めての依頼人
その男は笑っていた。来てからずっとニコニコしていた。いや、ニコニコと言うよりはヘラヘラしていた。第一印象はチャラ男だった。
「いや~ここが、ふぅ~ん。なんだぁ結構質素ッスね。」
そっと ≪吸血鬼≫ の方を見る。こっちもにこやかだった。いや、違った。この笑顔は怒りをこらえている笑顔だ!
「おい、客だ。いや、≪依頼人≫ と言った方が良いか。茶を持ってこい。オレのはいい。」
この数日でどこに何があるかは大体分かった。なのでワタシは迷いなく、台所に行きコップにお茶を淹れる。ワタシながら完璧な仕草。これは百点満点も夢じゃない! と言うのもこの数日、ワタシは試されたのだ、本当にここで働いても良いのかどうかを。今まで厳しい点数だったのだ。だがもう何も言わせない! なぜならこんなにも完璧なお茶汲みをしたからだ!
「どうぞ。」
「おっありがとねぇ~お嬢ちゃん」
ああ、うん。ウザいな。これは確かに ≪吸血鬼≫ が怒るのも無理はない。そして、≪吸血鬼≫ が切り出す。
「それで? ここに来たと言うことは何か依頼があるのだろう? なんだ?」
「ハハハ。うん。いや~さすがだ。まぁそれじゃあ話させてもらうとするよ。俺の、―ミギウデ― を見てもらいたい。」
右腕、明らかなアクセントをつけてそう言った。
「え~とそういうのは病院で診てもらった方が良いんじゃないんですか?」
「まったく。この ≪狐≫ は。どうして分からないのだ? ここに来ているということは、≪怪≫ 関係に決まっているだろう? まったく。」
クッ、正論! というかワタシの名前を縮めて狐って呼ばないでくれる!
「いや~やっぱり鋭いッスね~さすが、≪吸血鬼≫ だ。」
そう言った瞬間だった。≪吸血鬼≫ がその男の首に向かって赤い槍を向けた。正確には自身の右手を切って出した血で作った槍を。
「お前。何者だ?」
「ちょっと待ってよ。この人は何もしてないじゃん!」
「人ではない。いや、その半分と言ったところだ。憑かれているな?」
「、、、本当に鋭いッスね。そうスッよ。俺は憑かれています。≪鬼≫ にね。」
「それで、本当にこんな廃ビルで、その ≪鬼≫ を祓えるって言うの?」
「まぁな。そもそも、ここに来たのは、人目がつかないためだ。それにこの廃ビルの周辺には家もないしな。まぁ壊れたところでどうせ、年だったとかで見逃してもらえるしな。」
今ワタシ達がいるところは住宅地から離れたところにある年期の入った廃ビルだ。
「でもさ~ここ、廃ビルだよ? 本当にこんなところで祓えるの?」
「さぁな。≪鬼≫ は自分勝手の種族だしな。運良ければ離れてもらえるし、悪ければ乗っ取られるだけだ。」
「それってつまり確率の問題ってこと?」
「ああ、そうだ。そもそも、≪鬼≫ は普段人間とは余り交わらない種族でな、それに序列だってある。強ければ同族を従えさせることもできるんだ。まぁなに。今回は異例なんだよ。」
「でもさ、でもさ、≪吸血鬼≫ も ≪鬼≫ の一族なんじゃないの?」
「ん? ああ、中々考えたな。確かに ≪吸血鬼≫ という種族の名前には鬼は入っているが、そうとも限らないぞ。それに、オレ達 ≪怪≫ ってのは元々個々に名前があるんだ。それを知らずに勝手に人間共が名付けただけだ。」
「それでも使ってるいのは? どして?」
「ああ、簡単に言えばだな、面倒なだけだ。せっかく考えてくれたなら使ってしまおうという感じだな。」
「へぇ。じゃあどうして鬼が入っているの?」
「さぁな。分からん。オレを見たものが鬼に見えたからじゃないか?」
自分がつけられた名前の由来も知らないんだ。
「それに、オレは本を読んでいたらだな、何やらオレににたようなことを書いているやつがあってな。それで知った。」
案外普通な知りかた。
「それで、話を ≪鬼≫ に戻すが、実際のところオレも勝てるか分からん。」
「ん? 結構謙虚だね。でも、≪吸血鬼≫ も強いじゃん。」
「まぁな。けれど今のオレは少々力が落ちていてな。まぁ相手の序列が下の方なら気楽に倒せるかも知れないが、上なら分からないな。」
「そんなに強いの? ≪鬼≫ って。」
「一応日本を代表する ≪怪≫ だろう。」
そういうあんたは、西洋を代表してるっての。
「代表ね。確かに。桃太郎にも出てくる。それに、なまはげとかもだよね。」
「民謡や伝統文化にも登場するということはそれほど有名と言うことだ。」
「ふうん。」
「まぁあとは、強いほうに会わないことを願うまでだかな。」
そう言って廃ビルの一室の扉を開ける。