ep 吸血鬼
ワタシは今走っています。なぜ走っているかと言うと、人間いや生物という概念を通り越している、言わば ≪怪≫ と呼ばれる物から逃げているからです。ふと腕時計をみる。二十一時三十分。塾を出たのが二十一時、つまり三十分は走っている。休憩したい。後ろを振り向く、やっぱりまだ追いかけてきている。黒い何かが。このままじゃ追い付かれる、どうすれば。
「あそこ、左に曲がれば路地裏に入れるのでは?」
うん、恐らく入れる。ワタシは持ち前の運動神経をフルに使い急カーブをした。そっと顔を出す。何も見えない。つまり、撒いた? 撒いたってことにしとこう。
「まったく、騒がしいな。誰だ? このオレの眠りを邪魔する愚か者は?」
どうやら先客が居たみたいだ。ん? 眠り? こんな薄汚い路地裏で? 寝ていたってこと?
「ん? お前、、、オレが見えるのか? いや、まさかな。何かの夢か?」
んん? 待て待て待て、明らかに人間じゃない発言をしないでもらえるかな?
「何も喋らない。よし。夢か。」
「夢じゃないと思うけど。」
「、、、そうか。夢じゃないのか、、、はぁ?」
キレ気味だ。ここでキレたらただの逆ギレ。
「まずは落ち着こう。人間のなかにも見える人間は居る。まぁいい。そんなことはどうでもいい。一番の謎はなぜこんな路地裏で寝ていたのかってことだ。あと人間。お前から ≪怪≫ の匂いがする。さっきまで追われていたのか?」
鋭い。あとワタシのことをどうでもいいとか言わないで欲しいかな。
「どうなんだ? 人間。」
「今の今まで追われていました。で、あなたも ≪怪≫?」
「ああ、そうだな。種族といっても俺ともう一人しかいないが一応 ≪吸血鬼≫ だ。して、人間。お前は何に追われていた?」
≪吸血鬼≫。≪怪≫ の中では定番中の定番。言うなれば大手アイドル事務所に所属している様なもの。そんな著名の ≪怪≫ がワタシの目の前には居るだなんて。
「早く質問に答えろ。」
「え? ああ、ごめん。正直言うとわからない。けれど、黒い何かってことはわかる。」
「黒い ≪怪≫ か。聞いたとこがないな。して、人間よ。肩に ≪芽≫ が付いているぞ。」
≪芽≫? 肩をみる。そこには芽が植え付けられていた。
「これは?」
「恐らく ≪怪≫ の影響だろうな。お前、家族は居るか?」
「家族? 居ないよ。ワタシ一人だから。」
母も父も親戚も全て居ない。生まれたときからずっと居ない。
「そうか。ならよかった。その ≪芽≫ の名前は ≪家食い≫ と呼ばれるものだ。なに簡単なやつだ。ターゲットの体に寄生し食う。名前通り家つまり家族を食う。簡単だろう。」
「ワタシも食われるの?」
「ああ、食われるな。だが対処方はいくらでもあるぞ。例えば燃やすとか。」
それはイヤだ! 燃やされるのはイヤだ! もっと優しい対処方は無いのだろうか。
「一番簡単で危険のない方法があるが非常に面倒な方法だ。どうだ? それでいくか?」
「ちょっと待って。この流れて的に助けてくれるの?」
「ああ、助ける。金はもらうがな。今月の家賃が払えそうに無くてな。」
吸血鬼が! メッチャ高貴そうな吸血鬼が! 金欠だなんて。知りたくなかった情報!
「家につれて行け。」
第2話 吸血鬼と見える人間。
ワタシは今お風呂に入っている。家に着いて早々に吸血鬼が清めろと言うので入っている。恐らく他の ≪怪≫ の匂いとか付いていたら駄目なのだろう。 ≪怪≫ は協力するときもあれば、しないときもあるから。
「まだか人間。」
リビングから声が聞こえる。早く上がろう。ワタシは着替え場にて一番綺麗な服に着替える。たぶん服も綺麗じゃないといけない気がしたからだ。
「ん? なんだ服まで着替えたのか? 必要は無かったのに」
必要無かった。
「さて、手っ取り早く始めるぞ。まずは、オレを家族だと思え。」
、、、はい? なにを言っているんだ?
「黙って言うことを聞いていろ。」
何も言ってないのに黙れと。少し腹が立つがいまは自分を守るために言うことを聞く。
「よし。なら、ただいまと言え。できるだけスムーズに」
「ただいま。」
「お帰り」
そう言った瞬間だった。左肩に寄生していた ≪芽≫ がいきなり発芽し大きな口を開いた。
「手間を掛けさせよってこの ≪ゴミ虫≫ が。」
床から出した。否、正確には影から出した。黒い帯のようなもので ≪芽≫ を押さえる。そして赤い液体で貫く屋根と共に。っておい!
「少し力を入れすぎた。スマンナ。」
全然誠意がこもっていない。どうしてくれるのかな。
「さて、金を出せ。」
「イヤイヤイヤ、屋根をぶっ飛ばしたあなたが言えることですか?」
「いいから、出せ。屋根なんぞ知らん。助けてやったんだぞ。」
だからと言って許されると? そんなバカな話があっていいはずがないでしょ。
「五十万程だ。」
「詐欺だッ!」
「俺は詐欺師ではない。それに本当の詐欺師はこんなものではないだろう?」
「だったら屋根代を引いて!」
「引いてこれだ。あと、危ないぞ。」
そう言った途端に家は崩壊した。
「危ないと言っただろう。ってもう聞こえないか死んでしまったんだものな。」
「もっと先に言って! あと家代も!」
「なぜ無傷? 恐ろしいぞ。」
確かにワタシは無傷だけど。今はそれどころじゃない! どうしてくれるんだろうね? 家。
「お前、これからどうするんだ?」
「こっちが聞きたいわ!」
「家がないと、金は?」
「ないに決まってるでしょ」
「じゃどうやって生きてきたんだ? まったく。」
毎月誰からかはわからないけどお金が数十万入ってくるということは黙っておこう。そのお金を使えって? ダメダメ一応使わないようにしているんだから。
「なら、オレの家に来るか? っと言っても事務所のようなものだがな。なに、お前はそこで働けばいい。俺は何でも屋まがいそういう存在の専門家として、働いている。どうだ? 見えるなら来てもいいと思うが。あと結構お金も入る。」
「行く。」
即答。ワタシながら早かった。気づけば答えていた。
「そうか、お前名は?」
「ワタシの名前は 真見 星狐 」
高校生活初めての夏休みの夜ワタシは ≪吸血鬼≫ と会いました。
影無 黒月
真見 星狐