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噛み付くコモドドラゴン


「全く、学園に通うなど無駄なことを」


俺の前で腕組みしてふんぞり返るのは、魔法のお師匠様であり、この国の魔導士団の団長であるドラコさんだ。


チロチロと白っぽい舌を出しては、ギロリと目を動かす。


その顔は、爬虫類。


気になって調べてみたら、コモドドラゴンと言う種類だと分かった。


本物のコモドドラゴンは、噛み付いて、相手の血が固まらなくなる毒を注入してくるらしい。


ドラコさんは、噛み付くと相手がギブアップするまで離さないと噂の人だ。


まだ若かった頃、上司に噛み付いて腕の骨を粉砕したと聞いた。


言葉で戦ったのかと思っていたら、リアルに歯で噛み付いていたと知って驚いた。


何故、魔法を使わなかったんですか?と聞いたら、


『あぁ?一応、歯に、身体強化の魔法は掛けたぞ。それに、俺が一発ブッ放したら、相手が木っ端微塵に消滅しちまうだろ?』


と面倒臭そうに答えてくれた。


それからは、この人だけには逆らわないと決めている。


「陛下の命令なので、仕方なかったんです」


この人が一番文句を言わなさそうな理由を口にした。


今の学園には、第一王子から第七王子まで通っている。


俺と長子である第一王子は、4歳しか違わない。


しかも、俺達の学年には、王子はいない。


と言うことは、どこかの学年には二人以上王子が存在する可能性があると言うこと。


ただでさえ扱いの難しい王子がウジャウジャいる上に、彼らは、王妃と三人の側妃が産んだ異母兄弟達。


よくもまぁ、男ばかり上手に産み分けたなと思うし、派閥闘争も起きて当たり前と言ったところだろう。


本当なら、俺らの学年にも側妃様が産んだ第八王子が居たらしいけど、本人の意思で他国に留学したらしい。


七人の兄が上の学年に居て、普通の生活なんて送らせてもらえないだろうから、正しい選択だとは思う。


そして、そんな特殊な状況の学園だからこそ、俺やオトミーと言った今後国の役に立ちそうな人材が、半強制的に入学させられた。


王子の資質と俺達の適性を、この難しい局面への対応能力で見る事が出来ると考えているんだろう。


そのお陰で、俺は、休日返上で魔導士団に通わなければならず、大変迷惑な話である。


まぁ、俺は、オトミーと居る時間が増えてラッキーだったかもしれないが、師匠は、かなりご立腹だ。


「この前与えた宿題は、やって来たんだろうなぁ?」


本当は、魔導士団に取り込んで、バンバン実地で訓練をさせたかったらしいドラコさんが出す宿題は、量、質共にヤバい。


「はい、一応」


「一応・・・。その言い方が気にくわんな。どうせ、また、派手にブチかますんだろ?」


ドラコさんは、苦虫を噛み潰したよう渋顔で立ち上がり、さっさと部屋を出て行ってしまった。


行き先は、分かっている。


魔導士団専用の特訓場だ。


空間魔法が掛けられた無限に広がるフィールドには、ありとあらゆる状況が再現されていて、別名『この世の地獄』と呼ばれている。


俺は、荷物を持つと立ち上がり、ドラコさんの後を追った。


今日は特に、彼の腹の虫の居所が悪い。


これは、帰りは、かなり遅くなりそうだ。






















ウォルフを初めてみたのは、コイツがニつの時だ。


同期のリズリーに頼まれて、家に行った時は度肝を抜かれた。


まだ、言葉すら拙い子供が、空中に玩具をフワフワと浮かせている。


しかも、同時に、指から水を出して、チュパチュパ吸っていた。


同時展開で水魔法と念動を使える人間を、久しぶりに見た。


俺の認識している人間で、同時に種属の違う魔法を展開出来たのは、俺と、英雄イーグル様だけだ。


イーグル様の息子でありながら、魔力が全くなかったリズリーは、逆に振り切り今では剣と拳で軍を束ねている。


故に、魔力全開の息子をどう扱って良いのか分からなかったらしい。


ただでさえ、口下手な男だ。


ただ、一言、


「頼む」


と俺に頭を下げた時点で、なんとなく想像はしていたが、ここまで規格外の息子を持つと哀れに感じた。


イーグル様の息子として、どれだけ魔力が欲しかっただろう。


同期の俺にも、複雑な思いがあったはずだ。


それでも、リズリーと言う男は、弱音を吐かずに這いずってでも前に進んでいくんだ。


大切な一人息子を託された俺が、マジにならなくてどうする。


「ウォルフ、先ずは、的に向かって連射だ!」


火炎魔法を極力細く絞り、的確に設置された的に連発で当てていく。


魔力のコントロールと質力調整が上手くいかないと、ただ爆破して終わりだ。


ウォルフは、憎たらしいほど涼しげな顔で、射的を楽しむような気軽さを持って的を落としていく。


本来魔導士団の昇進テストで課される最難関課題を、ここまで簡単にクリアされると知れば、ウチの団員の気が狂いそうだ。



「止め!じゃぁ、次は、宿題に出していた火炎と電撃の同時展開!」



呪文を唱える事なく、フワリとウォルフの右手から赤、左手から黄色のモヤが立ち上った。


無詠唱でやるのか?


全く、どんだけバケモンなんだよ。


俺すら、いつ抜かれるか分からない脅威。


今は、俺が個人的に同僚の息子を教えてやっている形を取っているが、戦力として正式に魔導士団に入団したら、世界のパワーバランスが壊れかねない。


俺にできることは、コイツに、バレないように力を抑える術を教えるくらいなものだ。


全力出し切れば、世界征服すら、夢物語じゃないだろう。


ウォルフがソレを望んでいない事が、不幸中の幸いとも言える。


教えれば、教えただけ吸収していくコイツを、イーグル様なら、どう育てたか?


若くして亡くなられた事が、悔しくてならない。


結局、日が沈み、月が天高く昇るまで訓練は続いた。


それでも枯渇しないウォルフの魔力量に、俺は、羨ましさと、恐怖を感じていた。
























「ウォルフ様、なんだか、眠そうですね」


週が明けて、初めての登校。


祝日も入った関係で、久しぶりに会うウォルフの顔は、とても疲れていた。


オトミーは、普段は向かい合わせで座るところを、ウォルフがウトウトし始めたのを見て、彼の隣に座り直した。


グラグラと揺れる頭を自分の肩へと誘導し、少しでも楽な態勢で眠らせてあげたかった。


なのに、


「ひゃっ」


馬車の揺れに思わぬ動きをしたウォルフの頭が、オトミーの太腿の上に落ちて来た。


ポヨン


と一回跳ね、そのままポプンと良い感じに収まってしまった。


オトミーは、ビックリし過ぎて固まってしまう。


退ける事も叶わず、ただ、ジーーーーッと堪えた。


スヤスヤと寝息を立てるウォルフ。


そんな彼を見ていると、そのフワフワな髪が、触って、触ってと言っているように揺れる。


父リズリーの黒に近い焦茶の髪と、母メリノアの白に近いプラチナブロンド。


それを混ぜたようなウォルフの髪は、シルバーウルフの様なダークシルバー。


オトミーは、恐る恐る指先を毛先に伸ばした。


サラリと指を撫でて擦り抜けていく髪を追って、指が更に伸びる。


『まぁ、本当にフワフワ』


綿毛のような柔らかさ。


硬派なウォルフとは裏腹な、優しい手触りに、オトミーの口元が微かに緩む。


「ウォルフ様・・・可愛い」


思わず口を突いた言葉に、ウォルフの耳が赤くなった。


「やだ、起きていたんですか?」


「いいや、寝てる」


「寝てる人は、返事なんかしません!」


ぎゅーぎゅーオトミーに押され、ウォルフは、椅子から転げ落ちた。


「きゃっ!ごめんなさい!」


「いてててて、はははは、ゴメン調子に乗った」


床で転がりオトミーを見上げるウォルフの目は、隈がくっきり刻まれていたが、とても幸せそうに弛んでいた。



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