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ウェディングマーチ②


「ファント先生、ありがとうございます」



「何を言っているの。貴女は、私にとっては孫の様な存在。その子のウェディングドレスに一役買えるなんて、とても素敵な事ですよ」



お母様の案で、私のウェディングドレスに、刺繍を入れることになった。


式まで三ヶ月。


超特急で仕上げなくてはならない為、強力助っ人ファント先生に白羽の矢が立った。


八年ぶりに会う先生は、もう教職を引退なさっていて、「とても暇だったから嬉しいわ」と微笑まれた。


普通、貴族同士の結婚には、一年近く時間を掛ける。


だけど、ウォルフ様も私も、そんなに待てなかった。


だから、プリテン国に居る頃から、少しずつ準備は進めていた。


式場や食事の内容等は、メリノアお義母様とワルツお母様に。


招待客の選定は、私とウォルフ様。


と言っても、幼くして留学してしまった私達には、結婚式に呼ぶほど親しい友達は殆ど居ないから簡単に済んだ。


アイラ皇太子妃様とは、文通をしてきたから絶対に外せない。


ただ、アイラ様を溺愛するライオネル皇太子様が、自分も出るとおっしゃるのを止められず、なんだか物々しい雰囲気になっていた。


父を通して、是非招待して欲しいと声を掛けてくる公爵家の方々もいたりする。


だから、結婚式は、親しい人だけ。


披露宴は、私の見知らない方まで集まる大掛かりなものになってしまった。



「一度に終わらせた方が楽だ」



とお父様が言う。


無理に断ると、ライオネル殿下への橋渡しを個別にお願いされる可能性が高いらしい。


なんだか、本来の披露宴とは、随分かけ離れてしまったわ。



「さぁ、では、始めましょうか」



お母様の一声で、私達の刺繍が始まった。


一針一針、私は美しい絹に八年間の想いを込めた。
























「まさか、結婚式に、俺を呼ばないとは思わなかった」



不貞腐れるドラコ魔導士団団長に、俺は、頭を掻いた。


まさか、そんな事を気にする人とは思わなかったから。


恐ろしいほどに増えていく披露宴参加者に、結婚式まで出させろと言われない為、血族のみと制約をつけた。


だから、申し訳ないけど、団長は入れない。



「噂では、教職を辞したばかりのエレナ・ファント女史は、招待されたと聞いたぞ」



「極秘事項をどうやって手に入れたかは聞きませんが、早くに母親を亡くした母にとって、親代わりとも言える大切な方なんです」



「俺も、父親代わりをしたつもりだがな」



「いや、うちの父親生きてますから」



子供のような駄々をこねる団長に、副団長であり、妻となったターシャ・ボホール副団長が、ポクリと叩いた。



「一体、何歳なんですか?披露宴は呼んでくれているんだから、我慢なさい」



亭主関白になると思われていたのに、かかあ天下になったと噂の夫婦。


ターシャ副団長の一言で、ドラコ団長は、プンと子供みたいに顔を背けて黙り込んだ。



「ごめんね、うちの旦那が」



そう笑う彼女は、正真正銘、見事な肝っ玉かーちゃんになっていた。




















「綺麗だ、オトミー」



美しい微細な刺繍を施されたウェディングドレスを身に纏ったオトミーは、天使以上に天使に見えた。



恥ずかしげに俯く彼女を覗き込むと、潤んだ目で睨まれた。



「ウォルフ様は、意地悪です」



「その自覚は、なかったな」



苦笑しながら、俺は、姿勢を正した。


慌ただしく駆け抜けた三ヶ月。


変な横槍が入らぬようライオネル殿下が公に祝福を述べてくださったお陰で、俺達の結婚に異議を唱える者はいなかった。


結婚式は、長年付き合いのある小さな教会。


母が、ここの孤児院で、刺繍を教えている縁で快く引き受けてくれた。


親族の中でも、常に交流のある者だけを選りすぐったお陰で、和気藹々と式は進んだ。


この後ある大披露宴を考えると気が重くなるけれど、オトミーを愛でれば、時間は直ぐに終わりそうだ。


ねぇ、オトミー。


君と俺が出会ったのは、きっと、運命だ。


自分が老女にしか見えなかった少女と、魔眼で人の内面を否応なしに見せつけられてきた少年。


互いに互いが居なければ、きっと、全然違う運命になっていただろう。



『おいおい、お前達。ワシを忘れてなかろうなぁ』



俺の肩で、忠兵衛がニヤニヤと笑っている。


二人と一匹の人生の旅路は、今、始まったばかり。


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