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タヌキになったアライグマと小さな秘密


ライオンとアライグマの婚約で、学園内は、祝福モードに沸いている。


各貴族からも、お祝いと称した贈り物が、グフタス公爵家に殺到しているらしい。


情勢を見極めようと日和ひよっていた者達も、ここ最近、ライオンが本気を出して外交などで大きな成果を残した事から態度を変えた。


今更ながら、お近づきになろうと画策している。


ただ、結果が出てからじゃ遅い。


それこそライオンは、静かに爪を研ぎ、一気に形勢を有利に持ち込む前に、側近候補を吟味していた。


そして、今日、お祝い会という名の有力な候補召集会が行われている。


周りを見回せば、家格だけでなく、本人の資質などが優れた人物達が揃っていた。


流石と言うところか。


ここに、俺とオトミーを呼び付けたのも、そう言う事なのだろう。



「アイラ様!本当に、本当に、おめでとうございます!」



オトミーは、我が事のように喜び、自家製の花束をアライグマに渡した。


少々緑色が多いのは、薬草になるものしかオトミーが育てていない為で、決して雑草でない事を声を大にして言いたい。



「グスッグスッ・・・あ、ありがとう、オトミーさん」



嬉し涙でグズグズになっているアライグマ。


オトミー曰く、スースーするような香りを放つ、地味な薄紫の花は、鼻詰まりに効くらしいから、今の彼女には、ちょうど良いかもしれない。



「ありがとう、イジューイン嬢。良かったな、アイラ」



「はい、ライオネル殿下」



ここで、俺は、アライグマの変化に気づいた。


ん?コイツ、タヌキに変わったか?


気性の激しさが前面に出ていた時の彼女には、確かにアライグマ特有の黒い筋が眉間から鼻に向かって一本通っていた。


しかし、今の彼女は、全体的に柔らかな印象になり、黒い筋と眉上と鼻周りにあった白い毛も無くなっている。


タヌキは、実は、物凄く臆病な生き物だ。


猫と遭遇すれば、慌てて逃げ出すくらいに。


大きな音が聞こえれば、それだけで気絶することすらある。


ライオンは、幸せそうに微笑むタヌキを、微笑みながら愛でていた。


案外、この二人は、良い王と王妃になるかもしれない。



「この後、少し時間を貰いたいのだが」



ライオンの一言は、下手に出ているようで、有無を言わせぬ迫力がある。


そろそろ俺も、どの勢力につくのか、ハッキリさせないといけない時期に来ているんだろう。



「はい、喜んで」



生まれながらの王、ライオネル殿下に、俺は、頭を下げて臣下の礼を取った。


























「すまないな、時間を取らせて」



「いえ」



「あの二人は、放っておけ」



「はい」



ソファーを振り返り、ウォルフ・スタンガンは、優しげな笑みを見せた。


テーブルに乗ったお菓子を、アイラとイジューイン嬢が、楽しげに選んでいる。


いつまで見てても飽きない程、二人の少女は、愛らしい。


だからこそ、血生臭い話を聞かせたくなくて、私は、スタンガンをベランダに誘い出した。


窓を閉め、護衛も室内に残す。


私が目配せすると、スタンガンは頷き、他に声が漏れないよう結界を張った。



「流石だな、ウォルフ・スタンガン」



「お褒めに預かり・・・」



「そう言う社交辞令は、要らない。単刀直入に言おう。私の下に付け」



答えは、「はい」しか受け付けない。


他の者は、私が睨むと震え上がり、声すら出なくなるが、スタンガンは、ニヤリと不敵に笑うと、



「仰せのままに」



と頭を下げた。



「真か?」



「嘘を言ってどうします」



「今まで、のらりくらり断っておっただろう」



「では、お断り出来るのですか?」



「それは、無理だ」



スタンガンは、肩の力を抜き、室内を振り返った。



「お願いがあります」



「なんだ」



「私の婚約者、オトミー・イジューインを守るとお約束ください」



再び私を見たスタンガンは、私に負けない威圧感のこもった視線を向けてきた。



「彼女に、何か秘密があるのか?」



「治癒魔法に、目覚めました」



「なんだと!それが本当なら・・・」



「はい。教会が黙っていません」



この国は、王とは別に、もう一人の王が居ると言われている。


それが、教皇だ。


他国にも多くの信者を持ち、王家も無視できない一大勢力を築き上げている。



「彼女をプリンテン国にある魔法学校に留学させたいと思っています」



「なるほど」



教会から逃し、他国で研鑽を積ませる。


イジューイン嬢の能力については、緘口令がしかれるだろうが、私にとっても美味しい手駒になるだろう。


ただ、相当の危険を負う事も覚悟しなければならない。


もし、バレれば、ただでさえ王家に対しての忠誠に乏しい教会を敵に回すことになる。



「全ては、俺の一存であり、貴方は、何も知らない。ただ、彼女の留学許可書にサインを頂ければ」



もしもの時は、ウォルフ・スタンガン一人のせいにしても良いと言うことか。


腹を括った男は、怖い。


ノーと言えば、今度は、この男が私の敵になるだろう。



「分かった」



「ありがたき幸せ」



心にも無い事を。


しかし、互いの利益に通じる同盟は成ったと思って良いだろう。



きゃーーーーー



突然の悲鳴に、私とスタンガンは、慌てて部屋の中に戻った。


そこには、テーブルに突っ伏し苦しむアイラの姿があった。



「アイラ様が、このお菓子を食べてから突然苦しまれて」



既に、茶を運んできたメイドは、護衛に取り押さえられていた。


だが、その女も毒を飲み、既に息をしていない。


私の勢力が盤石になる事を恐れたスペアの誰かが、彼女を狙って刺客を放ったようだ。



「誰か、医師を呼べ!」



「それでは、間に合いません!」



涙を流しながらも、気丈にアイラの脈を取るイジューイン嬢が叫んだ。



「ウォルフ様!オトミー、力が足りません。忠兵衛様に援護して貰いたいです!」



意味不明の言葉。


しかし、一刻を争う。


今、アイラを助けられるのは、イジューイン嬢だけだろう。


スタンガンを見ると、苦渋の表情を浮かべていた。


「ライオネル殿下、お人払いを」


「皆、外に出ろ!そして、他言無用だ!」



私の命令に、護衛は、メイドの死体を運んで出て行った。



「頼む、イジューイン嬢。アイラを助けてくれ」



私は、アイラの側に寄り添い、小さな少女に頭を下げた。


































「忠兵衛!」



『分かっておる』



俺のポケットから出てきた忠兵衛は、床に飛び降り蹲った。



かい



俺が指を鳴らすと、忠兵衛に掛けられていた魔法が解かれる。


突然現れた神獣に、流石のライオネル殿下も固まっている。



「忠兵衛様、失礼します!」



オトミーは、忠兵衛の毛の中に潜り込むと魔力をぐんぐん溜めていく。


早々に、髪の毛が虹色に輝きだした。



「よし!」



小さくガッツポーズをしたオトミーは、床に崩れ落ちたアイラタヌキに縋り付き、



「アイラ様を助けて!」



と祈った。


すると、オトミーの体から光が溢れ出し、タヌキを包み込んでいく。


真紫に変色していた唇が、柔らかな赤に戻り、



「ふぅ」



短い息を吐くと、ゆったりと目を開け、何度かまばたきをした。



「アイラ!私が、分かるか?」



「まぁ、ライオネル殿下。一体、私は、どうしたのでしょうか?突然苦しくなって・・・」



「貧血で、倒れただけだ。気にせずとも良い」



ライオネル殿下は、アイラ嬢に、真実を話さなかった。


直ぐに鼠に戻った忠兵衛も、俺のポケットに身を潜めている。


秘密は、出来るだけ知られない方が良い。


ライオネル殿下の賢明な判断に、俺は、ホッと息を吐いた。

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