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希望への光

17 希望への光




「ここは・・・どこ?」



目を開けたはずなのに、辺りは、真っ暗だった。


微かに香る腐敗臭。


肌に張り付くような湿気。


手で周りを探ると、ゴツゴツとした岩肌が指先に触れた。


息苦しさに、呼吸が短くなっていく。


落ち着かなきゃ。


私は、ウォルフ様から頂いたネックレスを握りしめて、必死に彼の顔を思い出した。


大丈夫。


大丈夫。


必ず、彼が助けてくれる。



「ウォルフ様、助けて」



祈るように呟くと、手の中の小さな薔薇が、ほんのり暖かくなった。


開けて見ると、ぼんやりと光を放っている。


その明かりを頼りに目を凝らすと、ここが、洞窟の中だと分かった。


ポト


ポト


上から雫が落ちてきては、地面に水溜りを作っている。


耳を澄ますと、キイキイと何かが鳴いている声が聞こえた。


上を見ると、蝙蝠が逆さになってとまっている。


状況から考えるに、自分は、拉致されたのだろう。


でも、見張りらしき者は見当たらず、人の気配もしない。


壁に手を当てながら、ゆっくりと風が流れてくる方向へと進んだ。


外に出ると、鬱蒼と草木が茂る森の中に出た。


太陽の光が、頭上高い場所に微かな木漏れ日となって見える。







娘、何処へ行く







突然背後から声が聞こえて、振り返った。


そこには、黒い霧が、人型を取りながら揺らめいていた。







逃げられるとでも思っているのか?








恐怖に、足がすくんだ。


叫びそうになるのを、必死に堪える。


隙を見せちゃダメ。


距離を縮められないように、警戒しながら、唇を噛んで必死に睨んだ。


時間稼ぎに、何か話さなきゃ。


そうだ、ずっと、不思議に思っていたことを聞こう。


何か、反撃の糸口が掴めるかもしれない。









「何故、私なのですか?」



お前をこの地に連れてきたのは、我だ。故に、お前は、我の物。



「連れてきたとは、どう言う意味なのでしょうか?」



我は、欲した。チューニー・チャツボットの本を読める者を。しかし、人間自体を連れてくる事は出来なかった。故に、魂のみを連れてきたのだ。



「私は、貴方が異世界から持ち込んだ魂の生まれ変わりだと言うの?父と母の子ではないと?」



ちょうど良い器だった。聖なる気に溢れる赤子。弱った魂には、癒しが必要だった。



「じゃぁ、私が、老婆に見えるのは何故!」



記憶を忘れさせては、意味が無い。我が欲するのは、彼の国の言葉を理解する者。常に己の老いさらばえた姿を見せつけられれば、過去の記憶を忘れる事もないだろう?








カッと頭に血が上った。


恐怖よりも、怒りで体が震える。


こんな身勝手な理由で、私は、ずっと苦しめられてきたの?


悔しい、悔しい、悔しい。


今日は違うかもと、期待してのぞく鏡には、毎日老婆の顔しか映らなかった。


どんなに可愛く頭を結ってくれても、どんなに可愛い服を着せてもらっても、私は、心から笑った事がなかった。


それが、こんなにも身勝手な理由だったなんて。


ウォルフ様と出会い、彼の魔眼でも老婆に見えると言われ、ショックだったけど、やっと苦しみを理解してくれる人に出会えて嬉しかった。


この姿でも愛してくれる人が居る。


それを知って、初めて心から笑えた。


私は、どんな事をしても、絶対ウォルフ様の元に帰る。


絶対!


絶対よ!


私は、スカートを持ち上げると、全速力で走り始めた。


これで逃げ切れるなんて思ってない。


でも、少しでも時間を稼がなきゃ。


ウォルフ様、待ってます。


早く来て下さい。























俺は、目を閉じて指先に神経を集中させた。


地面に触れると、2本の糸が地を這うように伸びていく。


赤は、オトミー。


灰色は、鼠。


二人に繋がる糸を辿り、地上まで出られるルートを探索する。


闇雲に走り回っても無駄だ。


確実な道を探り、一気に外まで突っ走る。


どれほど深く落ちたのかは、分からない。


でも、ここで諦めるわけにはいかない。


奴の狙いは、翻訳係のオトミーと術を発動させる為の動力源となる鼠。


2本の糸は、真っ直ぐ同じ方向へ向かって進んでいく。


俺は、糸が地上に出るまで、じっと我慢した。


そして体力を戻す為に、オトミーから貰ったクッキーを取り出した。


袋から取り出し一口噛むと、途端に、カッと体の中に火がついたように力が湧いてきた。


前々から気付いていたけど、、彼女から貰う食べ物は、不思議な力がこもっていた。


特に、今回の物には、彼女の願いが大量にこもっているらしく、俺に勇気と元気を与えてくれる。


俺は、作戦を練る為に、奴の言った言葉を思い返してみた。








チューニー・チャツボットは、俺を倒すべき勇者としてこの世に呼ばれた








『勇者』


幼い頃から、子供向けの物語に出てくる登場人物だ。


魔王と戦い、平和をもたらすヒーロー。


しかし、その力が、異世界から無理矢理呼び寄せたものだとしたら、本人は、たまったものじゃないだろう。


もし、俺が、今突然他の世界に飛ばされ、助けてくれと言われても、オトミーや家族と離れ離れにした相手を恨み、破滅させるのが目に見えている。


だが、チューニー・チャツボットと言う人物は、それをしなかった。


敵を滅ぼし、更なる犠牲者が出ぬよう召喚の術式を消して回り、自分は、たった一匹の鼠を守りながら生きた。


彼には、友が自分しか居なかったと、忠兵衛が言っていた。


もしかしたら、向こうの世界に、彼を待つ者が居なかったのだろうか?


兎に角、今は、チューニー・チャツボットに感謝するしか無い。


本当なら、彼こそ、この世界を滅ぼしてしまいたかっただろう。



「よし、繋がった」



しかし、



「なんで!どう言う事だ!」



糸が反対方向に進んでいく。


灰色の糸は、我が家に。


赤い糸は、北へと向かっていた。



「オトミー!」



俺は、糸を辿って走り出した。


もう、1分も猶予はなかった。
























「退いてください!」



岩が崩落し、道を塞いでいる。


ウィザルを押し退け、前に進み出たバッファが、岩の一つに手を掛けガシッと掴んだ。





ミシミシミシミシミシン




軋む音と共に、岩に亀裂が入る。


更に上腕二頭筋が盛り上がると、ガラガラガラガラと岩が崩れ落ちた。



「凄いな、バッファ」



「団長、農夫を甘く見ないで下さい。開墾するには、これくらいチョチョイガチョイチョイですよ」



身体強化の魔法が得意な奴にとって、これは、朝飯前のことなのだろう。   


わざと筋肉を誇張するポーズを取ってバッファが笑うと、暗く沈み込んでいた隊員達に、微かな笑いが生まれる。


そんな陽気な男を、ウィザルが後ろから蹴飛ばした。



「時間がない!早く進むぞ!」



「なんだよ、坊ちゃんは、急にやる気満々だな」



「五月蝿い!ライト!」



薄暗い空間を照らす為に、ウィザルが煌々と輝く玉を空中に浮かせた。


フワフワと漂うそれが、扇動するように先に進む。




「何処に向かってるんだ?」



「ウォルフ・スタンガンの所に決まってるだろ!」



「正確な場所なんて、分かるのかよ」



「これだ」



ウィザルが手にしているのは、ウォルフが配った虫除けの小瓶。


「これに付着していた奴の匂いを辿る」



「坊ちゃんの鼻は、犬並かよ」



「牛並のお前に言われたくない」



ウィザルの探索魔法は、群を抜いている。


人命救助の時など絶大な力を発揮するが、派手さが無い為、本人は、あまり使いたがらない。


しかし、今回自ら手を挙げたところを見ると、吹っ切れたんだろう。



「よし!ウィザルのライトに付いて行くぞ。皆、遅れるな」



ウィザルを先頭に、俺、バッファ、そして動けた団員数名が一列になって瓦礫の隙間を進む。


待っていろ、ウォルフ。


俺達が、必ず助けてやる。


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