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真実の入り口


「そっちから、縄梯子を降ろすぞ」



「はい!」



目的地まで辿り着くのに、結局、三日掛かった。


結界を張り続け、虫からも、魔獣からも守ってやったのに、隊員の足取りがどんどん遅くなった。


早く帰りたい苛立ちから、周りの人間の動きが更に鈍く見える。


疲れているのは、仕方ない。


しかし、本当にこの人達は、国を代表する精鋭部隊なのだろうか?


自分が人と違う事は意識して来たつもりだけど、騎士団のメンバーも、父と比べると、あまりにもお粗末すぎる。


12歳の俺にカバーされて、これでは、どちらが護衛なのか分からない。


憤る俺が間違っているのか?


握り拳に力を入れると、ポンと肩に大きな手が乗った。



「ドラコ団長・・・」



「穴の中は、俺とお前だけでいく。他は、周辺捜査を任す予定だ」



「・・・はい」



団長も、腹に据えかねているのだろう。


虫の一件以降、魔導士団員の数名が、毒の後遺症で上手く魔力を操れなくなってきている。


日に日に症状が悪化していくけど、初日にポーションを使い切ったために、治療の術がなかった。


回復魔法は、ある種の特別な人間しか使えず、俺も、ドラコ団長さえも使えない。


出来るだけ早く帰還できるように、調査を手早く終えるのが得策だろう。



「悪いな」



「何がですか?」



「あまりお前の能力を見せびらかしたくは、無かったんだが」



ドラコ団長も、まさか、ここまで団員が使い物にならないとは、思いもよらなかったようだ。


俺は、彼らをカバーする度に、自分の魔力量や質が、他を圧倒するものなのだと示すことになってしまった。


人は、理解不能なものを見ると、頭で考えるより先に、感覚的に拒否感を強めるものらしい。


彼らが俺を見る目は、嫌悪感に溢れている。


自分達の地位を脅かす敵。


出来れば排除したいのだろう。


俺は、好き好んで、ここに居るわけじゃない。


出来る事なら、今すぐ、お前らを捨ててオトミーの元に帰りたい。



「全員整列!では、これより先は、俺とウォルフの2名で向かう。他の者は、先に配布した虫除けを全身に振り、周辺捜査に回ってもらう。ウォルフ、虫除けの効果は、何時間だ?」



「一日は、持ちます」



「よし。では、半日で調査は切り上げて戻ってくる。それまでは、ウォルフの結界はないぞ!皆、気合を入れて自分を守れ」





ザワザワザワザワ





隊員達が、騒ついた。


俺と団長が居ない間、本当に自分で自分を守れるか不安になったんだろう。


虫除けの効果も、まだ、試したわけじゃない。


ポーションも切れている。



「では、結界を外します!」




俺が、パチンと指を鳴らすと、周りに羽虫の




ブーーーーーーン




と言う羽音が響いた。


慌てて虫除けを体に振り掛け始める隊員達。


その表情の必死さに、








フッ








俺は、つい笑ってしまった。


人を化け物扱いするくせに、いざとなれば頼ってくるコイツらが、右往左往すると思うと、胸がスッとした。


しかし、ハッとなって、頭を振る。


普段では考えもしない、意地の悪い物の見方をいつからするようになった?


今までも、一匹狼気質ではあったが、人を嘲笑うことなどなかった。






ゾクリ






負の感情が、知らず知らず増している。


俺だけじゃない、周りの奴らも、そして、ドラコ団長さえも。


俺は、顔を上げて、周りを見回した。





ギャーーーーーー





一人の人間に、一斉に虫が殺到している。


イタチだ。


隣に居た別の隊員達は、我先に逃げ出す。


俺とドラコ団長は、一瞬視線を合わせ、険しい表情をした。


やばい、やばい、やばい。


俺らは、既に、疑心暗鬼と言う心の闇に囚われていた。


敵は、魔獣でも、虫でもない。


もっと高度な知能を持った何かが、俺らが自滅するように扇動していた。


その何かが、分からないまま、俺達は、イタチを助ける為に走り出した。
































ギャーーーーーー



目の前が、真っ暗だ。


虫除けを自ら投げ捨てた俺は、視界を虫達に覆われ、地べたを這いずる。


逃げなければと思うのに、全身に重くのしかかる無数の虫達の重圧に指一本動かせない。





ガハッ





吐血した。


内臓をやられたか。


こんな所で死ぬなんて嫌だ!


助けてくれ!


助けてくれ!


助けてくれ!


叫ぼうと口を開くと、虫の代わりに大量の水が入ってきた。






ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ





目を開けると、俺は、水のボールの中に浮いていた。


体に張り付いていた虫達は、窒息したのか、俺の周りを浮遊している。


息苦しさに、手をジタバタ動かした。


すると、






パシャン






水が弾けて地面に投げ出された。



「馬鹿野郎!虫除けは、どうした!」



「ゲホゴホゴボゴボ」



ドラコ団長に胸倉を掴まれて、余計むせ込んだ。



「団長!手を離して下さい!」



ウォルフ・スタンガンが間に入り、俺は、地面に投げ出された。


頭の上から、奴が自分の鞄から取り出した虫除けを俺の頭から振り掛ける。



「それは、お前の分だろう?」



「大丈夫です。俺は、結界が張れますから」



十二の子供に命を救われ、ここに居る面子で一番役に立たない男とレッテルを貼られたような気がした。


目を開けると、仲間の冷ややかな視線が俺に向いている。


何故だ!


俺は、うちでは一番出来が良かった。


学園でも、常にトップで、教師からも褒められていた。


それなのに、何故、こんなに惨めなんだ・・・。


俺は、悔しくて、つい、出来心でウォルフを突き飛ばした。


意識したわけじゃない。


ただ、突き飛ばした先に・・・パックリと口を開けた底の見えない大きな穴があっただけだ。































「ウォルフ!」



ドラコ団長の叫びと、俺が空中に投げ出されたのは、同時だった。


引力に逆らえるはずもなく、俺は、真っ逆さまに落ちていく。


頭上に見えた光は、あっという間に点になり、漆黒の闇に囚われる。


ただ、どれだけ落下しても、底に着かない。


いや、途中から、落下しているのかさえ定かではなくなった。


どちらが上で、どちらが下か。


深海の海に浮いているような、息苦しさと浮遊感。


俺は、グッと手に力を込めると、炎の玉を生み出した。


掌を広げ、クルクルと回る火の玉を空中に浮かすと、辺りがぼんやりと浮かび上がる。



「神殿?」



俺は、既に床の上に立っていた。


上から落ちて来たはずなのに、天井がある。


目の前には、大きな祭壇。


その向こうが側に、黒いモヤと大きな目玉が二個、浮いていた。







やっと・・・来たか






脳に直接響く声は、秘密の書を目の前にしたとき、『開けてみろ』と指示を出した声と同じものだった。







待ちくたびれたぞ



「俺を待っていた?一体、お前は誰なんだ?」



この世を・・・統べるべきものさ






モヤの中心に、笑う口の様な形の穴が空いた。




チューニー・チャツボットは、俺を倒すべき勇者としてこの世に呼ばれた。



「勇者?」



そうさ。奴に肉体を滅ぼされた俺は、力を取り戻すべく、神獣を喰らおうとしたが、それすら邪魔をしてきた。







あぁ、忠兵衛ちゅうべえを鼠に変えたのは、コイツなのか。


弱々しい気だが、禍々しさは、隠しきれない。


忠兵衛の魔力を手に入れれば、確かに、恐ろしいことになりそうだ。








お前には、感謝している



「何をだ?」



本を解放してくれただろ



「お前に言われたから、開けたわけじゃない」



チューニー・チャツボットは、死ぬ前に各地に残されていた召喚の術式を全て焼き払った



「当然だ。彼は、来たくもない世界に呼び出された被害者なんだから。もう二度と同じ事が起きて欲しくないと願っていた」



しかし・・、あの本には、あっち側と通じる事ができる術式が残されている。帰ることを、最後まで諦めきれなかったようだな。






故郷への郷愁が、どうしても捨てられなかったのだろう。


多分、忠兵衛を犠牲にし、魔力を横取りすれば帰れなくもなかったのだろう。


しかし、唯一の友となったアイツに、そんな事出来るはずもなかった。


本と共に眠りにつかせたのは、忠兵衛を再び守ってくれる相手と出会わせるまでの時間稼ぎだったに違いない。






私は、彼方の世界も欲しい。何もかも、全てが欲しい。だから・・・最後の力を振り絞って、彼方の魂を一つ連れて来た。我を、彼方へと導いてくれる魂をな。






嫌な予感がした。


背中に、びっしょり嫌な汗をかく。






神獣と娘、返してもらうぞ










目の前の黒いモヤが、スーッと消えた。




「待て!」



追おうにも、広い神殿の中、出口すら分からない。


オトミー!


オトミー!


オトミー!


どうか無事でいてくれ!

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