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魔獣調査隊②


阿鼻叫喚。


地獄絵図。


正に、カオス状態だ。


突然、地面に穴があき、そこから無数の虫が飛び出して来た。


流石のウォルフも、地面にまでは、結界を張っていなかった。


しかも、魔物を排除対象として認識していた為、反応が遅れる。


地面に手を突き、一瞬にして結界を下にも張ってくれたが、中に入ってしまった物は仕方ない。


虫籠に、自分達が放り込まれた様なものだ。


極太の針を持つ蜂は、服の上からでもお構いなく毒を刺してきた。


皮膚に張り付く毛虫は、服の中まで侵入し毒を含む目にも見えない細かい毛を、無数に刺してくる。


羽虫は、耳、目、鼻、口へと張り付き、人から五感を奪った。


一人、また一人と倒れていく中、俺は、手当たり次第に空中を飛び回る虫を焼き払った。


まだ、気力のある者達も、果敢に得意な魔法で攻撃をしているが、騎士団の連中は、ほぼ壊滅状態だ。


指示を出したいが、口を開けた瞬間、大量の虫が口に入ってくるだろう。


くそ、このまま全滅するのか。


諦め掛けた俺の目に、ウォルフの姿が映る。


奴は、自前のカバンに手を突っ込むと、紐のついた丸い球を取り出した。


そして、その先端に火をつけると、ブンブン振り回し始める。



「皆、目を閉じて!息を止めて!」



ウォルフの指示に、皆が蹲り、顔を隠して頭を抱えた。


聞こえるのは、



ヒュンヒュンヒュンヒュン



と空気を切る音。





ゴホッゴホッゴホッ





蔓延する煙で咳き込むと、涙と鼻水が止まらなくなった。


そして、息を止めるのが限界になった時、一気に息を吸った。



「・・・あれ?」



予想外の出来事に、あちこちで何か問いたげな呟きが聞こえる。


煙は、見る影もなく、目の前に広がるのは、地面を埋め尽くすほどの虫の死骸。


瀕死の騎士団員達は、その中に埋もれてしまい、こんもりとした山を作っていた。



「早く、掘り起こして下さい!」



ウォルフの叫びに、助かった者達が、一斉にその辺りを掘り返し始める。


見つけ出した負傷者達を一箇所に集め、ポーションを無理矢理口に突っ込んだ。


飲める、飲めないじゃない。


鼻をつまみ、喉の奥に流し込むしか、コイツらを助ける術はない。


必死の救助とポーションのお陰で、全員命は取り留めた。


しかし、満身創痍。


もう、一歩も動く気力がない。


その日、俺達は、この場を離れず野営する事にした。


テントを張り、食事の用意をしている時、ウォルフが一人一人を回って何かを手渡していた。


俺の元に来た時、その手に持っていたのは、妙に可愛らしい小瓶だった。



「さっきは、助かった。しかし、あの煙は、なんだ?」



「イジューイン印の殺虫剤です」



「イジューイン?あぁ、お前の婚約者の」



「はい。民間の市販薬から医師の処方箋に対応する薬まで手広く研究開発されているんです。森に虫が出ると聞いたオトミー・・・婚約者が取り寄せてくれました」



イジューイン伯爵と言えば、医学博士として後進の育成にも尽力する志高い方と聞いている。


しかし、これ程の効果があるとは、一体何を原料にしている?



「自家製のハーブを中心に、ある種の花を澱粉で固めて作ると聞いています」



「そんなもんで、ここまで効くか?」



結界の外に出す事ができず、片隅に山のように積まれた虫の死骸が恐ろしい高さになっている。


再び動き出す事もなく、完全に息絶えているところを見ると、この殺虫剤には、通常では考えられない強力な効果があるんだろう。



「企業秘密を俺に聞かれても。あぁ、それと、コレを。本当は、調査対象の穴に入る前に渡す予定だったんですけど」



ウォルフが、あの小瓶を手渡して来た。



「コレは?」



「虫除けです」



「原料は?」



「こだわりますね。一応、レモンユーカリの葉だと聞いていますが。コレを振りかけておけば、暫くは、安全だと思います。結構匂いも良いんですよ」



無邪気に笑うウォルフが全幅の信頼を寄せるのなら、効果は証明済みなんだろう。


しかし、天然素材で、異常な効果を発揮するカラクリが何なのか?


気にならないと言えば嘘になるが、今は、ありがたく頂戴しよう。



「なので、明後日までには帰れますか?」



「何処からどう繋がって、『なので』なのかは分からないが、まだまだ帰れないぞ」



「やっぱり・・・」



他の奴らが足手纏いに感じてしまうのは、お前だけじゃない。


悪いが、もう暫く付き合ってくれ。

























「ウィザル、どうした、おっかない顔して」



「五月蝿い、バッファ!あっちへ行け!」



「ったく、公爵の三男坊は、態度わりぃなぁ」



同期で入ったバッファは、平民出の粗野な男だった。


無論、学園出身者じゃない。


片田舎でノホホンと暮らしていた、ただの農民だ。


それが、ある日村を襲った魔獣を一人で殲滅した事で、特別扱いを受けることになった。


本人の意思もあって、魔導士団に入団。


周りも一目置くだけに、余計、いけ好かない。


しかも、俺は、口も聞きたくないのに、しょっちゅう絡んでくる。


俺は、幼い頃から優秀だった。


生まれる順番さえ違えば、俺が、当主として一番適任だった。


三番目に生まれたばかりに、自分で道を切り開かざるを得なくなった。


それでも、起死回生とばかりに、首席卒業を引っ提げ、大手を振って入った魔導士団。


平民と同じ扱いな上に、十二歳の小僧より下に見られるとは、思ってもいなかった。


本当に、本当に、本当に、本当に、本当に、我慢ならない。


しかし、さっきの虫の件も、あの小僧が機転を利かせたお陰で全滅を免れた。


実力の違いだと見せつけられるような行為に、俺の憤りは、晴らす場所もない。


奴から渡された小瓶を、腹立ち紛れに投げ捨てた。




カシャン




呆気なく割れた容器に、少しだけ後悔をした。


この後、また、いつ虫が攻めて来るか分からない。


それへの唯一の対抗策を、自分で捨ててしまった。


今更、もう一つ下さいと頭を下げるわけにはいかない。



















『オトミー、お前は、自分の能力を何処まで知っておるのじゃ?』



「能力ですか?」



忠兵衛ちゅうべえ様の質問に、私は、首を傾げる。



「昔の文字を読めるくらいしか・・・」



『やはり、無意識で垂れ流しておるのか?』



「垂れ流すって・・・何をでしょうか?」



私は、思わず自分の衣服を確認した。


何か、液体が垂れているのだろうか?



『ちがうわ!其方には、癒やしの気を感じる。それが無自覚なら、尚更気をつけねばなるまい』



珍しく御立腹の忠兵衛様を前に、私は、どうしたら良いのか分からない。



『其方の焼くクッキーを食べると、肌艶が良くなるだけでなく、毛並みも良くなる』



「そうでしょうか?」



私は、確認のために、忠兵衛様を撫で回した。



『これ!やめろ!撫でるな!』



「確かに、以前より、ツヤツヤなような」



『何故、ワシで確かめる!』



「自分の髪は、毎日触れているので、違いがよくわかりません」



『ぬぉぉぉぉ、そこ、もうちょっと右を』



「はい。ここでしょうか?」



『フンフン、そうそう、次は、左も』



「はい」



あれ?何の話でしたっけ?


背中を掻いて欲しかっただけかしら?


ふふふ、忠兵衛様、寝てしまわれたわ。


私も、少し、お昼寝いたしましょう。





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