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 魔族の姫の護衛に任命されると同時に、なんなら一緒に学園に通った方がいいだろう、とハルカそっちのけで話が進み、気づけば転入という形で貴族の子女通う学園へ入ることが決まった。

 それまでは家庭教師に教えてもらっていたので、学園に通うというのはとても新鮮な気分だった。


 「あのぅ、ハルカ様」


 転入前夜、ハルカ付きの召使いである少女が並んで吊るされている二つの制服を見ながら訊ねた。

 一つは女子の制服、そしてもう一つは、


 「なんで、男子の制服もあるんですか?」


 「なんでって、そりゃ着るためだよレティ」


 レティと呼ばれたメイドは、吊るされた制服を見る。


 「よく陛下に反対されませんでしたね」


 「そりゃ、最初提案した時は反対されたよ。

 でも、護衛だから下着が見えるスカートだと悪漢から姫様を守る時に上手く動けないかもしれない。

 全校集会とかそう言う畏まった場では女子の制服を着るから、それ以外の時は基本的に男子の制服を着させてくれっていって説得した」


 「なるほど。

 それにしても、どちらも良いデザインですね。

 さすが、有名デザイナーが携わっただけはあります」


 学園の制服は王都だけではなく、地方にも店を出している有名デザイナーが手がけている。

 そのため、レプリカが出回るほどだ。


 「それで、明日はどちらを着ていくんですか?」


 メイドの問に、ハルカは答えた。


 「そりゃもちろん、男子の制服で行くよ。

 こういうのは第一印象が大事だからね。

 明日は集会は無いっぽいし」


 なんてウキウキしながら言う主人に、レティは返した。


 「かしこまりました。そのように準備します。

 髪はどうされますか?」


 普段は、女性らしくを強要されているので長髪のカツラを被っているが、現在のようなプライベートの時間は本来の短髪で過ごしている。


 「んー、それもね、父上に許可をとったよ。

 ずっと短くて良いってさ」


 「なんと、随分甘くなってますね。

 少し前までは、陛下や家庭教師達から、貴方は女の子なんだから女の子らしくしろって口酸っぱく言われてたのに」


 「姫様、アグレット様を助けた功績が認められたみたい。

 そんなつもりじゃなかったけれど、私としては結果オーライかな」


 「ハルカ様も姫様でしょうに」


 「あはは、そうだった」


 「それにしても、なんで今更護衛の話が来たんでしょう?」


 「うーん、大人の事情ってやつだと思うよ。

 整理してみようか。

 まず、アグレット様は魔族だ。

 友好の証としてこの国に来た。

 今は留学中だけど、将来的にはこの国の王妃様、国母様になる予定だった。

 でもこの前、色ボケ馬鹿弟がトラブルを起こした。

 下手したら戦争になってもおかしくなかった。

 私のフォローが効いたのか、それともアグレット様の懐が深かったからか、今のところ表向きは馬鹿が原因で婚約が白紙になっただけ終わった。

 でもそれはつまり、仮にも未来の王妃候補からアグレット様が外れたということになる。

 それだけならまだいい。

 いや、よくないけど、それだけで済むならまだマシ。

 でも、人の感情はそこまで合理的に出来ていない。

 あの馬鹿の婚約者じゃなくなったということは、傍から見れば王の、父上の庇護から外れてしまった、後ろ盾を無くしたと見られても不思議じゃないと思う。

そう他の貴族の子供たちから判断された場合、特に魔族に対していい感情を持っていない子たちからの攻撃が始まる可能性がある。

 普通の護衛だと教室の中までは入れない。

 そうなってくると都合がいいのは私ってことになる。

 同級生として私をねじ込んでおけば、少なくとも陰湿な嫌がらせは阻止できる。

 どこでその考えにたどり着いたかはわからないけど、もしかしたら私が警備兵として紛れ込んでた可能性にたどり着いた時点で考えていたのかもしれない」

 

 「要するに、イジメ対策ですか」


 「そういうことだと、私は考えている。

 まぁ、私がイジメをする立場だったら様子見をするだけかな。

 下手に手を出したら火傷どころじゃ済まないと思うし」


 アグレットが他の王子、ハルカから見れば弟たちの誰かと婚約する可能性はある。

 ハルカ以外にも側室の王子や姫はいるのだ。

 と言っても全員異母兄弟姉妹だが。

 その男兄弟のいずれかと、アグレットが婚約することだって十分有り得るのだ。

 しかし、だからこそ、それすら潰そうとしてくる者もいるだろう。

 身の程を弁えろとかなんとか、自分たちに都合のいい理屈を掲げてアグレットを追い落とそうとするに違いない。

 それに対する牽制が、ハルカというわけである。

 ハルカの存在は、母親譲りの髪と目の色によってとても有名だ。

 こちらの国では、黒とは平民の色だからだ。

 口性の無い貴族達は、王家を穢した下賎な血などとハルカのことを陰で呼ぶ。

 しかし、ハルカは知っていた。

 それがとても狭い視野と、嫉妬で出てくる言葉であることを知っていた。

 

 何よりも、ハルカは大好きな母親の色でもあるこの黒が好きだ。

 そして、面と向かって言われる訳では無いのでどうということでも無い。

 もしも面と向かって言われたら、その時は正面から受けて立つだけの話である。

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