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 アグラットや医務室に待機していた医者、そしてあの日バカ王子が組み伏せられる現場に居合わせたパーティーの出席者に確認を取り、外見的特徴が一致する警備兵をアグラットと合わせてみたが、全員違った。

 そうなってくると、侵入者の可能性も出てくる。

 警備兵に成りすまして、何をしていたのか、という疑問も出てくる。

 だが、見つからない。

 警備責任者に改めて確認をとった所、もしかしたら、と新しい情報が出てきた。

 実は警備兵の数が足りず、民間の信用のおける警備会社へ人材派遣の要請を出して人員を貸してもらっていたらしい。

 それならば、とその日警備に当たっていた警備会社のメンバーを招集してもらったのだが、


 「残念ですが、この中にもあの方はおりません」


 というアグラットの言葉で撃沈することになった。

 とりあえず、集まってもらった警備兵には帰ってもらう。

 訳が分からなさすぎて、本来の仕事も手につかない王に、右腕たる宰相が見兼ねて口を挟んだ。


 「考え方を変えてはどうですか?

 警備兵の中にはいなかったんですよね?

 そして、隠密部隊からも不審者の侵入などの報告は来ていない」


 「そう、そうなのだ。

 まるで煙のように消えてしまったかのようだ」


 「不思議ですよね」


 王とアグラットが口々に言う。

 宰相は痛む頭を抑えて、続けた。


 「なら、最初から件の人物はこの城の敷地内に居た、ということになるでしょう。

 あえてこういう言い方をしますが、内部犯であるなら警備兵の制服を調達するのも簡単ではないでしょうか?

 予備なら何着か待機所にあったはずですし。

 あの日、医務室として使用していた部屋は本来の場所とは違いました。

 なにかあればパーティー会場へ駆けつけられるよう、変更になっていましたから。

 件の警備兵はそれを知っていた。

 その証拠にまっすぐ医務室へ向かっています。

 何よりも、当日の警備兵の配置を知っていた可能性があります。

 警備兵だけではなく、隠密部隊の配置も知っていたのかもしれません」


 宰相の言葉に、王は目を剥いた。


 「まさか! 機密が漏れていたというのか?」


 「あくまで内部にでしょうけどね。

 これが外に漏れていたならもう少しトラブルがあったことでしょう。

 しかし、あの日起こったトラブルは、あんたが甘やかしたために色ボケの馬鹿に育った、救いようのない馬鹿王子の一件のみです。

 王妃様の苦労が忍ばれますね」


 元婚約者の少女がいる前で、さらりと宰相が毒を吐いた。


 「…………」


 「正直、あの警備兵には二階級特進させてもいいと思いますよ。

 親がしなかった躾をしてくれたんですから。

 言って聞かないなら、手を出すのも手段の1つですし、なんなら名誉貴族の階級を与えた方がいいです。

 それくらい馬鹿王子の行動は目に余るものがありました。

 誰かさんが、痛い目を見せないせいでね。

 あの警備兵が出ていかなければ、私が王子の顔の形を変えていたところですよ」


 賢王と巷では讃えられている男が、なんとも情けない表情になっている。

 さらに、宰相は続けた。


 「考え方を変えるという点で、もう一つ言っておくと」


 まだあるのか、と王はぐったりする。


 「あの警備兵、たぶん女性ですよ。

 声変わりをしていないところとか、同年代の警備兵よりも線が細かったこととか。

 他にも上げればキリがないですけど、男性にしては不自然な点が多いです。

 まぁ、あと確信を持ったのはうちの娘や妻のように口が達者だったことですが。

 陛下は王妃様や姫様達と口論になることが無いでしょうからご存知ないかと思いますが、物怖じせず、むしろ圧を掛けつつ、ちょっと感情的に言い返していたところが、とても女性的だったと感じました。

 アグラット様はどうです? 同性のように感じませんでしたか?」


 いきなり話を振られたアグラットは、どぎまぎする。

 まさか女性である、等とは露ほども感じていなかったのだ。

 なので、


 「そうなのですか?!」


 とても驚いた。

 しかし、女性があんな風に振る舞えるものなのかという疑問が浮かぶ。

 あの警備兵は振る舞える人なのだろうが、どうにもしっくりこなかった。

 彼女の故郷でも、こちらの国でも女性とは控えめであり男性を立てるものだとされている。

 より女の子らしく振る舞うのが模範解答とされているのだ。

 大人の女性なら、良妻賢母が模範解答だろう。

 しかし、あの警備兵は、なんと言うのだろう。

 そう、とても紳士的だったのだ。

 元婚約者の王子とは違い、アグラットのことを丁寧に扱ってくれたし、垣間見えた賢王へのフォローというか、忠誠心も好印象だった。


 「とても女性には見えませんでした。

 いえ、言われて思い出せばなるほど、となりましたけれど。

 とても驚いています」


 アグラットの反応を受け取ったまま、宰相はまた王を見た。

 王は疲れたように、問う。


 「お前は、それが誰かしっているんだな?」


 宰相は、ため息をついて最後のヒントを出した。


 「さて、どうでしょう?

 よく考えれば、わかると思いますよ。

 まず、この城の構造を熟知していて、自由に動き回ることができ、かつ機密を知ることができる人物であること。

 次に、黒髪黒目で紳士的な対応ができる女性であること。

 女性でありながら、王子を捻りあげ一喝できる度胸を持っていること。

 そして、魔法が使えること。

 この条件を全て満たす存在は、私が知る限り一人だけです」


 やがて王もその人物に思い至る。


 「まさか、あいつか?

 しかし、話に聞く限りだとその警備兵の髪は短髪。

 あいつの髪は、腰まで届く長髪だ」


 「えぇ、長い髪を短くしたならわかりやすいです。

 ですが、短い髪を短時間で伸ばすなど、普通なら不可能です。

 カツラでも用意しない限りは。

 性別もそうですが、だからこそ、見逃したのでは?」


 アグラットを置き去りにして、王と宰相の会話がすすむ。

 誰のことを言っているのか、アグラットにはさっぱりだ。

 そんなアグラットに気づいた宰相が提案した。


 「とにかくまずはアグラット様に会わせてみては?

 違っていたら、それはそれでいいではないですか」

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