表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

 魔族の地から、この国へ友好の証としてやってきた少女。

 魔族の姫君であるその少女の名は、アグラットと言った。

 アグラットは、しばらく医務室で待機させられていた。

 彼女が頬だけではなく、足も怪我をしていることが今夜のパーティーの主催者である、この国の王にも伝わったためだった。

 伝わったのは、怪我だけではなく、その怪我を経緯もだった。

 パーティーこそは、表向きアグラットのことを除けばほぼ平穏に終わったが。

 その後が大変だった。

 気絶した王子は、あの後別室へ運ばれた。

 侍っていた少女はと言えば、なにが起きたのか王へ説明することになった。

 たまたま、あの現場には居合わせていなかった、ということもあり、王子の恋人とされている少女ティアは、これ幸いにとあることない事を王に説明した。

 そのほとんどが、アグラットを貶めるものだったため、信頼性は低いと判断されてしまう。


 勿論、その場では何も言わなかったが。

 このあたりについては、後日担当の者が調査、現場検証をし報告することになった。


 待機していたアグラットの下にも、何が起こったのか王直々に聞きに来た。

 しかし、本題に入るよりも前に王の息子が、その婚約者に手を挙げたということについて、彼は深深と頭を下げたのだった。

 その優れた治世で賢王と讃えられている存在が、頭を下げたのだ。

 王にとって、アグラットは親友の愛娘だ。

 大事な娘を、王を信頼してこちらに寄越してくれたというのに、その信頼を裏切ることになってしまったことをとても悔いていた。


 「頭を上げてください、陛下。

 私は大丈夫ですから」


 幸いと言うべきか、叩かれた頬は既に腫れが引きつつあった。

 切り傷などもないので、痕になるということはないだろう。

 アグラットとしても、今回のことは大事にしたくなかった。

 この国の王、というよりは父の友人を悲しませたくなかったのだ。

 アグラットは、それからぽつりぽつりと何が起きたのかを説明した。


 ティアと違い、その説明はとても客観的だった。

 主観が全くないといえば嘘になるが。

 正直、アグラットも何故あんなことになったのかわからないのだ。

 アグラットは、この国の貴族のルールについても学んでいた。

 彼女は婚約者と、その恋人とされているティアの奇行を窘めただけだった。

 そしたら、いきなり頬を叩かれたのだ。

 

 「そのまま私は転んでしまいました。

 そんな私に殿下はこう告げたのです、婚約を破棄する、と」


 本当は、もっと酷いことを言われたけれど、それを報告してしまうとアグラットの故郷とこの国の仲が最悪なことになりかねなかった。

 だから、伏せたのだが。

 それは無意味に終わった。

 あの警備兵から、王は全てを聞いていたのだ。


 「本当にすまない。

 いや、謝っても許されないことをあのバカ息子はした。

 婚約は、一度白紙に戻そう。

 もちろん、すべての責任はこちらで持つ。

 アグラット、君のお父上にはこちらから報告する」


 「え、いえ! 私は大丈夫ですから!!」


 国同士の取り決めが絡んでいる婚約だ。

 そんな簡単に白紙に戻せるなど、ありえない。


 「君は気にしなくていい。

 いかなる理由があれ、あの場でそのような暴行をしたのだ。

 それ相応の責任を、うちの息子にも取らせなければならない」


 王の言葉は、異議は認めないとでも言っているかのようだ。


 「そうそう、話は変わるが。

 君を助けたのは、どんな人物だったか教えてくれるかい?

 報告によると、私の側近に手短に報告をしたあと姿を消したという話だ」


 言われて、つい先程の光景がアグラットの中でよみがえる。

 トクントクン、と胸が高鳴る。


 「とても、素敵な方でした」


 気づくとそう答えていた。

 悩ましいため息混じりである。

 しかし、王は冷静だった。


 「いや、そういうことじゃなくて。

 髪の色とか、そういう外見的特徴を聞きたいんだけど」


 そう言われて、アグラットはハッとする。


 「あ、はい!

 そうですよね!」


 即座にそう返して、しかし、ふと不安になった。


 「あの、陛下。

 やはり、その、警備兵の方にも処分があるのでしょうか?」


 警備兵が医務室から出ていく時に、首を刎ねられるようなことを口にしていた。

 もし本当にそんなことになるのなら、アグラットは進言してそれを止めねばならないと考えたのだ。

 アグラットの質問に、賢王は答えた。


 「まさか、アグラットを助けて介抱してくれたんだ。

 さらに、あの馬鹿息子を親の私に代わって一喝してくれたんだ。

 そのことも含めて礼を言わないと、と考えただけだよ。

 だから、そんな不安そうな顔はしないでいい。

 罰を与えようって訳では無いから」


 その言葉に、アグラットはホッと胸を撫で下ろした。

 それなら、とアグラットは情報を提供した。

 これでまた会えるだろう、そうしたら、あの警備兵にお礼を言おうと決めた。

 しかし、その期待はすぐに裏切られることになる。

 件の警備兵が見つからなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ