第1話 最後の誕生日
私の名前は夢見沢 朋恵、今年で社会人二年目を迎えたどてにでもいる普通の女性だ。就職活動は大変だったけどなんとか今の会社で頑張れている。仕事はまだまだだけど後輩もできてプライベートも充実。うまくいくことばかりじゃないけど順風満帆な人生ってやつかな。
恋は……今はいらないかなっていう感じ。一応以前にいたことがあったけど自然消滅で終わってしまった。それ以来、あまりそういう気になれずにいる。
今日もバタバタ忙しく仕事が終わったのはもうすっかり暗くなってから。でもいい気分、なぜなら今日は私の誕生日だから。仕事場の同僚にちょっとしたプレゼントももらってケーキとシャンパンも買った。一人暮らしだけど少し贅沢して、たまにはいいよねこういうのも。
足取り軽く駅から出ていつもの橋へとさしかかる。眼下には幅の広い道路が通っており、たくさんの車がひっきりなしに行き来している。遠くに見えるヘッドライトがいつもよりきれいに見える。私はしばらく立ち止まり、縁からぼんやりと下を眺めた。今日で私も二十四歳。つい先日まで大学生だったのに、あっという間に二十歳をすぎて……こうして人は歳をとっていくんだろうな。そのうち地元の友人がどんどん結婚とかし始めて、私は置いていかれるんだろう。お母さんからいい相手はいないの?とか言われたりして。自分は今のままでも十分幸せなんだけどな。
そんなことを考えつつ自然とため息がこぼれる。そのとき後ろからだれかに強い力でかばんを引っ張られた。
「えっ?!なに?!」
私は咄嗟に振り返る。フードを深くかぶり顔を隠した男が私のかばんを引っ張っているのだ。まさか強盗?!周囲を見回してもだれもいない。しまったぼーっとしていて一人になっていたのに気づいていなかった。
「いやっ離せ!!」
こんなところで負けてたまるか!私は腕に通したかばんを全力で引き返した。すると相手は無理だと思ったのかなんと私に向かって掴みかかってきた。全身を恐怖が駆け巡り心臓が止まってしまったかのようだ。ものすごい力で襟首を掴まれる。必死に手を押さえるも体は逃げようと自然と後ろへ下がってゆく。
男は私を橋の縁へと押し上げた。声、声を出さなきゃ、助けを呼ばないと、警察、だれか!!思いとは裏腹にのどはぐっと引きつり一言も出てこない。男に押されて体が持ち上がる。
え、嘘でしょ?!このままじゃ落ちちゃう。なんで、目当てはかばんでしょ?!いやっ死にたくない、怖いよ、だけでもいいから助けて!
ぐらりと視界が反転する。だめだ手が震えて力が入らない。なんとか縁に手をかけるも体はするりと超えてしまう。先ほど見ていた車のヘッドライトの赤が目の奥に焼きつくように映った。ふわりと宙に浮かぶような感覚。あ、終わった。私死ぬんだ。
頭が真っ白になる。自分が立っていた橋がどんどん遠くなってゆく。まるで奈落の底へと落ちていくように。