アホ王子の勘違い暴走っぷりがヤバ過ぎなんですけど!
第2章はリリア目線で話が進みます。
第1章と全く同じシーンがリリア目線ではどのように映っているのかお楽しみくださいませ!
ああ…これはかなりマズい展開だ…。
私、リリア=レイアナはウルティナ国の第一王位継承者であるアルノート=ウルティナに、今熱烈なプロポーズを受けているところである。
「リリア、僕には君しかいない!!!ジェリーナとは婚約解消するから、君は何も心配せず僕についてきてほしい!!!」
熱弁!!!
って感じで、今猛烈に口説かれている。
どーしろと言うのだこの状況を…。
「とんでもございません。私がアルノート様と結婚なんて滅相もございません。
アルノート様にはジェリーナ様がいらっしゃるじゃないですか。婚約破棄だなんておっしゃらないでください。
私なんてジェリーナ様の足元にも及びません」
とにかく、このアホ王子がトチ狂って暴走しないよう、私は必死に説得を試みた。
いつも側にいるブライ様が今日はいない。
もしや、人払いされてる…?ヤバイぞこれは…。
「何を言うんだ。ジェリーナよりリリアの方がずっと優しく美しい心を持っている」
「そんなこと絶対ありません。私は卑しい人間です。それに私には王妃なんてとても無理です。学も人望も容姿も何もかもが足りません」
頼むー。わかってくれー。
「何を言っているんだ!リリアが卑下することはない!
またジェリーナにいろいろと言われたんだね。でも大丈夫。僕が君をずっと守る。だから、何の心配もいらないよ」
「だから、あの…」
「そうだ!明日の卒業パーティーでジェリーナとの婚約解消を発表しよう!多くの国賓が出席するから、君のお披露目にもなる!」
な、なんてことを言い出すんだアホ王子!
やばいやばいやばいやば過ぎるっ!
「いや、ですから、私がアルノート様と婚約など、恐れ多いです。どうか考え直してください」
「嫌だ。僕はリリアとずっと一緒にいたい。いくら王族でも、愛のない夫婦生活などまっぴらだ」
「ジェリーナ様はアルノート様を愛しておられます!」
「ジェリーナが僕を?そんなはずないじゃないか。彼女はいつだって冷徹だ。僕の弱音など一切聞いてくれない」
「それもジェリーナ様の愛の示し方です」
ああ、なんで私がこんな目に合わなければならないの!?
王族なんだから政略結婚くらい納得して受け入れてよ。
っつーか、2人の問題に私を巻き込むなっつーの!
「もうジェリーナを擁護する必要はないんだよ。僕が彼女の嫌がらせから君を守るか」
「何度も申し上げていますが、嫌がらせなど一切されておりません!」
「ふっ…。いいんだ。もう頑張らなくていいんだよ、リリア」
あああーーーー!!!!!
叫びたい気持ちを必死に抑える。
誰か!このアホ王子を何とかしてくれ!!!
「明日の卒業パーティーで全てを終わらせよう。明日から、僕とリリアの未来がスタートするんだ」
どうしようどうしよう…。
卒業パーティーで婚約破棄発表なんて、絶対回避しないと!
この人恋愛小説マニアなのかな?
物語には良くある展開だけど、あれは完璧にフィクションだから!
「アルノート様、婚約破棄などいけません!」
「なに?もしかして、リリアは僕と結婚するのが嫌なのか?」
ギラリとアルノートの目が光った。
こ、恐い。
いっちゃってるよー。
断って逆恨みされたら大変だ。
何とか穏便に事を治めないと…。
「いえ、あの…誰が見てもジェリーナ様の方が優れているではないですか」
「だから何度も言っているだろう。そんなことは関係ない。僕はリリアと結婚したいんだ」
勘弁してくれ…。
「華々しくスタートを切ろう。明日の卒業パーティーで、ジェリーナに引導をつきつけるんだ。これまでリリアをいじめてきた罰だ」
「いじめられてません!」
「リリア」
ガバっとアホ王子から抱きしめられる。
ギエーー!マジでやめて!!!
アホ王子は美形だけど、好きじゃない人に抱きしめられるのは嫌だよ!
「僕は君を選んだんだよ…」
耳元で囁かないでよ…気持ち悪い…。
「あ、あのっ!」
私は顔を上げた瞬間に腕を伸ばし、アホ王子と距離をとった。
「卒業パーティーでいきなり婚約破棄を通告するのは、皆さまをあまりにも驚かせてしまうのではないでしょうか?それに、国王や国賓もいらっしゃいますし、中には非礼と受け取られる方がいらっしゃるかもしれません」
頭をフル回転させる。
何としても、卒業パーティーでの婚約破棄は回避しなければ。
「ふむ…」
アホ王子は私の発言を婚約受理と解釈したようで、納得顔でちょっと考えるふりをしている。
「確かに…リリアの言う通りだな。君はやっぱり聡明だ」
いや、普通誰でも思いつくだろ。
「とんでもございません」
それでも愛想笑いをする私。
ああ…早く卒業してアホ王子から逃げ出したい…。
「しかし、このままだと卒業パーティーが僕とジェリーナのお披露目になってしまう。それはさすがに問題だ」
いや、それでいいんだってば!
このままうやむやに2人くっつくのが、一番平和的解決でしょ。
「やはり、卒業パーティーでジェリーナに伝えるしかない」
ふりだしに戻る…!!!
「では!卒業パーティー前にジェリーナ様を個人的に呼び出して伝えるのはいかがでしょう?周りに人がいないほうが、アルノート様のお気持ちをきちんと伝えられると思いますし!」
私は咄嗟に代案を出した。
ああ…これって、婚約破棄伝えていいよって解釈されるよね…絶対…。
でも、卒業パーティーだけはマジで止めて。
モロ断罪イベントじゃん。
「なるほど…。そのような方法もあるね。卒業パーティーで僕とジェリーナの距離ができていれば、その後婚約破棄を正式発表したとき、皆腑に落ちるだろう。
僕としてはジェリーナには制裁を与えたいところだが、リリアが穏便に済ませたいと言うなら、君のためにそうするよ」
思い付きの提案にアホ王子は納得してくれたようだ。
かなり曲解した受け取り方だけど…。
「では、早速これから呼ぼう」
今!?非常識過ぎない!?
「いえ、きっとジェリーナ様はもう寮にお戻りだと思います。明日にされてはいかがでしょう?お手紙を出されては?」
苦し紛れに代案を出してみる。
「そうだな…。わかった。そうしよう。後で使いに手紙を渡すことにする。リリアももちろん同席するよね?」
「は、はい…」
本当は断りたい…。
断りたいけど、2人で話をさせたら私のことをなんて言われるかわかったもんじゃない。
私も同席して、なんとか婚約破棄回避にもっていかないと。
「後で君にも手紙で連絡しよう」
「はい…」
ああ…明日どうしよう…。
どうやって平和的解決につなげるべきか、今から考えないと…。
「リリア…」
ギクッ!
いきなり甘さ満載の声で名を呼ばれる。
コワッ!
アホ王子に目をつけられてからというもの、2人きりになると、何かと私に触れてこようとするのが一番苦痛だ…。
だから2人にならないようものすごく気を付けているんだけど、名指しで呼ばれると逆らえないのが困る…。
「それでは!私も明日の準備がありますので、失礼させていただきますね!」
私は妙な雰囲気を打ち消す勢いで、ハキハキとした声を出す。
そして、アホ王子の手が伸びてくる前に速やかに距離をとり、そのまま部屋を飛び出した。
ああ、平和な学園生活を送りたかったのに、なぜこんな厄介な事態になってしまったの!?
これも全部アホ王子と、アホ王子をフォローできないド真面目女のせいだ!
上流階級の問題を下級の私に投げてこないでよね!
怒っていないと恐ろしさに負けてしまいそうなので、心の中で毒付きながら寮に戻った。