あざと腹黒女が侮辱するのですが罪に問うていいですか?
「うわーーーーー!!!」
突然大声を上げたのは私じゃなくてリリアだ。
え?何?突然どうしたの?壊れちゃったのこの子?
「だーかーら!人の話を聞けぃ!!!」
「「「え???」」」
突然のリリアの豹変に、私とアル、ブライの声が見事にハモった。
「私、マジであなたと結婚する気ないですから!」
リリアはビシィッとアルを指さし叫んだ。
「最初から言ってるじゃないですか!
私に王妃なんか無理って、ずーっと最初から!
それなのに、アルノート様は『大丈夫』『心配いらない』しか言わないし。
具体的に何がどう大丈夫で心配ないのか、一切説明なし!
単なる気休めしか言わないって、どんだけ無策なんですか!?」
「リ、リリア…?」
リリアの剣幕に、アルは呆然。
私もだけど…。
「そもそも、私あなたのことひとっ欠片も好きじゃないし!
勝手に勘違いされてマジ迷惑なんですけど!」
「なんだって!?」
「なんですって!?」
今度は私とアルの声がハモった。
というか…、この子、何を言い出すの?
「ずーっと断ってきたのに、結構ストレートに断ってきたのに、全然通じないどころか曲解されて、本当に勘弁してくださいって感じですよ!
第一王位継承者で誰もが認める由緒正しい家柄の優秀な婚約者がいるのに、略奪しようとする女がいたら、そーとーヤバいでしょソイツは!」
「え?え?ええ!?」
アルは事態を理解できない感じだ。
って、やっぱり私もだけど。
一体これはどういうこと?
「あ、ここにいる皆さん、状況を把握してませんよね?
みんな私がアルノート様にアプローチして、ジェリーナ様から略奪しようと企んでると思ってるんでしょう?
違う!ぜんっぜん違いますから!」
「ち、違うって、何が違うんですの…?」
私はようやく声を出した。
この子、大丈夫かしら…。
「だーかーら!」
ブンブンブンと両腕を振るリリア。
「私は最初からアルノート様なんて狙ってないんです!
この学園には両親の見栄で入学させられて、しかも『家系のために地位の高い男性を捕まえてきなさい』とか言われたけど、私、最初からそういうこと全然求めてませんから!
ド田舎の領主の娘と縁談を結ぼうとする都会で地位の高い貴族がいるはずないじゃないですか。
妙な動きしたら、すぐ『あいつ地位目当てだぜ』って後ろ指指されることくらい、誰でもわかるっつーの!
それなのに、一足飛びにこの国の王子にアプローチする女がいるとしたら、どんだけ神経図太いんですか。
っつーか、ヤバイでしょそんな人!
恋愛小説あるあるだけど、リアルに起きたらカオスでしょ!」
ズズズイッとリリアが私に迫ってきた。
「だから、目立たないように必死に影を薄くして、平和な学園生活を送ってきたんですよ。
髪型もドレスも地味にして、隅っこの方でひっそり過ごしてきました。
それなのに、なぜかアルノート様に目をつけられてしまって、マジ焦りましたよ」
「あなた…何を言っているの…?」
「ジェリーナ様のために、率直に事態を説明します。
地味に生きてきた私にアルノート様が勝手に惚れてしまい、妄想勘違い暴走してジェリーナ様と婚約破棄して私と結婚するって勝手に言い出してるだけなんです!」
な、なんてこと…。
この子、もしかして責任逃れしようとしているの?
そうに違いないわ。
なんてひねくれた悪女なのかしら…。
「待ってくれリリア!それはどういうことだ!?」
アルが声を上げた。
「そーいうことです!
最初から言ってるじゃないですか。『とんでもございません』『滅相もございません』『アルノート様にはジェリーナ様がいらっしゃいます』『恐れ多いです』って!」
「それは君がジェリーナに気を遣っているからじゃ…」
「違います!」
全力否定のリリア。
「じゃあ、どうして『嫌だ』と言ってくれなかったんだ…」
「言えます!?言えるわけないじゃないですか!
私はド田舎領主の娘ですよ!王族のアルノート様から何か言われたら、問答無用で二つ返事で応じなきゃならない立場ですよ!?絶対服従的地位の差があるんですよ!
自分が誰を好きとか関係なく、求められたのに応じず逆らったら、怒りを買って何されるかわからないじゃないですか!
アルノート様の一言で、うちの家なんて吹っ飛ぶ程度の位でしかありませんから!
だから、嫌と言えず、必死に別の言葉でなんとかこの事態を穏便に回避しようとずーっとずっと頑張っていたんです。
全然通じませんでしたけど!」
「そ、そんな…」
アルは傷ついて泣きそうな顔をしている。
え?ちょっと待って。
こんな無礼な発言されて怒らないの?
「リリア様。ウルティナ国の第一王位継承者に対して、そのような発言をして許されていると思っているのですか?侮辱罪に当たりますよ」
ムカムカして、言わずにはおれなかった。
「あーあー、そういうところですよ!」
リリアの矛先が再び私に向けられる。
ま…負けるものですか!
「そういうところって、何がですか?」
私は姿勢を正してリリアを見下ろした。
「その、理路整然と正論を振り下ろすところ!
それが自分の役目だと言わんばかりの上から目線!
ついでに言うなら、努力で自分を正当化する姿勢!
そんなだから、アルノート様にそっぽ向かれるんですよ!」
「な、なんですって…!私にそんなつもりはございませんわ」
「じゃあ、どんなつもりなんですか?」
聞き返す!?そこ聞き返すの!?
「答える義務はありませんけど、教えて差し上げますわ。
私はあなたには想像できない程、日々勉強に尽力しておりましたの。
努力の正当化ではなく、努力の積み重ねによる当然の結果です。
アルの伴侶となって、この国を支えるべき者の義務として、血のにじむ努力を続けてまいりましたわ。
上から目線ではなく、ただ事実を述べているだけです」
リリアは口をつぐんだ。
当然だわ。
いろいろ喚き立ててるけど、あの子には想像も及ばない努力ですもの。
私に反論できるはずないわ。
「あなたは私のように努力をしたことがありまして?
いきなりキレるとは、なんて野蛮なのでしょう。
そのような姿勢で何を言っても、心に響きませんわ」
言葉を発している内に、徐々に冷静さが戻ってくる。
そうよ。
私がこんな子の場所まで下りてあげる必要なんてないんだわ。
「はぁ…」
え?何?今この子、ため息ついた?
「努力って、言われたことをやっていただけじゃないですか。
それってまるっきりの受け身ですよね?
それとも、能動的な努力をしたんですか?
そもそも、ジェリーナ様はアルノート様を愛しているんですか?
さっきから、義務とか努力とか、そんなんばっかり。
どこまでプライド高いんですか?」
な、なんですって~!!!
「あなたにそんなことを言われる筋合いはありません。
それに、アルを愛しているからこそ、私は努力を続けてきたのです」
落ち着かなきゃ…冷静になるのよ私…。
「愛しているなら、なんで簡単に婚約破棄を受け入れるんですか?
そもそも、本当にこの国の上に立つ使命を持っているなら、なんとしてもこの危機を乗り越えるべきですよね?
私みたいな田舎のアホ女が王妃になったら、この国終わりだと思いません?
私は思います!!!」
はぁ!?
「こんな酷い扱いを受けて、なぜ私が乗り越える努力をしなければならないのですか!?
私にも心があります。
一方的に婚約破棄を言い渡されて、立ち向かえるほど図太い神経しておりませんわ!」
「それって、プライドが高いだけじゃないですか。
国の安泰より自分のプライドを守るんですか?
そのプライドの高さがビンビンに伝わってくるから、アルノート様が癒しを求めて私みたいな徹底的下級女の元に逃げ込んでくるんですよ」
「徹底的下級って…」
呆然としたままアルが呟く。
「そうですよね?アルノート様。
私は自分の立場をわきまえなきゃならない立場ですから、今までアルノート様に何ひとつ逆らうことなく、常に笑顔で接してきました。
だって、対等じゃないから、怒りを買うのが恐くてそうするしかなかったんです。
その中で、何としても婚約破棄の流れを変えたくて頑張ってきたんですけど。
アルノート様はそんなことには一切気付かず、愚痴や不満を私に聞かせて発散していたんですよね。
ジェリーナ様に言ったら、今みたいに努力と根性論を語られた上にお説教ですもの。
言えるはずないですよね」
「リリアを不満のはけ口にしていたわけじゃない…」
アルってば、ここまで言われても怒らないの?
なんで縋るような目をそんな子に向けるの?
「アルノート様も大変だなって思ってましたから、私も同情したし話は聞きましたけど、でも、それだけなんです。
もう一度キッパリ言わせていただきますが、アルノート様に恋愛感情はありません。
皆無。ゼロです。ごめんなさい。申し訳ないです。本当に。見逃してください…」
ついにアルは泣き出した。