嘘をでっちあげたあざと腹黒女が私に意見してきたけど華麗にスルーしていいですか?
何がどうしたら私がリリアに忠告をするような事態になるの?
彼女のことなんて、正直言わせていただくと眼中にないわ。
それどころじゃないくらい、私の日々は忙しかった。
「嘘だな。ブライは1ヵ月ほど前に図書館で、リリアと君が話しているところを確かに見たと言っているぞ」
随分と具体的ね。
ちょっと待って。1ヵ月前…図書館…?
「あ…」
その時の記憶がよみがえってきた。
「ほら、身に覚えがあるだろう」
勝ち誇るアル。
確かに、私は1度だけリリアと話をしている。
話というか、一方的に彼女が私に言葉を発しただけなんだけど。
勝ち誇った顔で私に「もっとアルノート様との時間を大切になさった方が良いと思います」なんて言われて、さすがにムカッときて無視してしまったから、会話として記憶されてなかったわ…。
「あれはリリア様が一方的に私に意見しただけです。私は何も言っていません」
「まぁどっちでもいいさ。とにかく、君とは婚約破棄する」
「待ってください。それで本当にいいんですか?」
まだリリアが口を挟もうとする。
ああ、本当に何なのこの子は!
なんだかどうでも良くなってきたわ…。
早くこの場を終わりにしたい。
「わかりました。好きにしてください。
でも、婚約破棄に関する手続きは全てあなたにやっていただきます。
私は金輪際、あなたの婚約者としての努力を全て放棄させていただくわ。
関係各所の説明は、あなたからお願いします」
「なにっ!?」
あらら、アル、今更怯むの?
「当然ですよね。あなたの希望で私は一方的に婚約破棄されるのですから」
アルは憎々しげに私を睨んだ。
婚約者だった人から、こんな目で見られる日が来るなんて…。
「…いいだろう。全部僕がやってやる。だから今すぐ僕の視界から消えろ」
「だから、ちょっと待ってくださいってば!」
リリアがアルに駆け寄ってきた。
「アルノート様、私はあなたの婚約者の器じゃありません。
それに、何度も言っているように、ジェリーナ様から何も言われていません。ジェリーナ様がおっしゃっているように、図書館では私が勝手に言葉をかけただけです!」
「そんなに怯えなくていいんだよ。リリア、本当のことを言ってくれ」
アルは優しい瞳でリリアを見た。
私、あんな目で見られたことなんか一度もない…。
「ですから、今申し上げたのが真実です!!」
この子すごい…。
こうやって善人の振りして、私に汚名を着せたのね…。
アルはすっかりリリアを信じ込んでしまっている。
「リリア様。もうお芝居はされなくても結構ですわ。アルは私ではなくあなたと婚約すると決めたのですから。
自分の思惑通りに事が運んで、さぞ嬉しいでしょうね」
さすがの私も、嫌味を言わずにはいられないわ。
「だから、違いますって!
ブライ様も何とかおっしゃってください。アルノート様とジェリーナ様を止めてください!!」
そういえば、ブライはずっと壁際でオロオロしていたんだったわ。
「いやえとあの…」
ブライはもごもごして黙り込んでしまう。
リリアはアルだけではなく、ブライまでも手なずけてしまったみたい。
なんて恐い女…。
もしかしたら、図書館の出来事はリリアがブライに仕込んだのかもしれない。
「早く部屋から出て行け。リリアがかわいそうだ」
かわいそうなのは私の方だわ。
でも、そんなことを思うだけ無駄ね…。
「わかりました。それでは2人とも、末永くお幸せに」
私だって、こんな場所からさっさといなくなりたい。
ドアに向かおうとしたら、リリアが私の前に立ちはだかった。
「どいてくださる?」
「ダメですジェリーナ様。
あなたが退いたら、この国を誰が守るのですか?」
プッツーン!
再び私の中でヒモが切れた。
最後の最後の堪忍袋よ。
もう無理!
「どうしてあなたにそんなことを言われなければならないのですか?」
自分でも信じられないくらい低い声が出る。
「ダメですって?どの口が言うんですの?
あなたが望んだことでしょう。
どうぞ、これからはアルノート王子の婚約者として、日々尽力くださいませ」
「どうしてそんな女を引き止めるんだ、リリア」
アルが駆け寄ってリリアを抱きしめた。
そうか…。
彼女はこれを私に見せたかったのね…。
「君は何も心配しなくていい。僕が守るし、苦労しないで済むように根回しするから」
「だから…」
「根回しとは?さすがに聞き捨てなりませんわ。
アルノート様、まさか1人の女性のために、今までの規律を破るようなことをお考えなのですか?」
「うるさい!君はもう部外者だ。黙っていろ」
アルはずっとリリアを抱きしめたまま。
なんなの、この光景。
私は何を見せられているの?