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身に覚えのない濡れ衣を理由に婚約破棄を言い渡されましたがバカバカしいので何も言わなくてもいいですか?

今日のアルは少し伸びた美しい金髪を1つに結んでいる。

卒業パーティーのため、ウルティナ国の紋章入りの正装をしていた。

黒を基調に、黄金の刺しゅうが施されていて、金髪のアルに良く似合ってる。


その横で、純白のドレスを身に着けたリリアが私を見ていた。

彼女は薄茶色の髪をアップにしている。

髪飾り、ネックレス、イヤリングには美しい宝石がたっぷり使われていた。

リリアの家柄では、到底手に入らないような高級品だ。

もしかしなくても、アルがプレゼントしたことがすぐにわかった。


今日の私も純白のドレスを着ている。

でも、リリアのようにプリンセスラインでレースとフリルたっぷりのデザインとは対照的で、体のラインがきれいに出るスリムなデザイン。

半年前にウルティナ王から贈られたものだった。

腰まで届く自慢の黒髪はハーフアップにした。


リリアはアルの後ろに隠れながら、深い紺色の大きな瞳で私の様子をうかがってる。

まるで勝ち誇っているように見えるのは、私の気のせいかしら。


「よく来てくれたね。ジェリーナ。話はすぐに終わるが、とりあえず座ってくれ」


アルは尊大な態度で私に言った。

以前はジェリーと愛称で呼んでくれていたけど、ここ最近はジェリーナと呼ぶ。

名前を呼ばれる機会は殆どなくなっていたけど。


とりあえず、言われた通り私は素直にソファに座った。

アルも向かいのソファに腰を下ろした。


「リリア、おいで」


アルは自分のすぐ隣をリリアに示す。


「いえ…私はこちらに…」


リリアはアルに従わず、ソファから離れてブライの横に移動した。

わざとらしい…。


アルは少し不満そうな表情を見せ、そのままの顔で私と向き合った。


「ジェリーナ。僕が何を話そうとしているか、心当たりはあるか?」


私は無言。

あえての無言。

話があると呼び出されて来ているのに、なぜすぐ本題に入らず私を詰問しようとするの?


「何も言わないってことは、やっぱりあるんだな」


勝手に納得するアル。


「やはり、僕の判断は間違っていないようだ。単刀直入に言おう。君との婚約を破棄する」


…………………は?


…うそでしょ…?

なに?この展開。

まさか、本気で恋愛小説のネタを地で行くつもりなの?


冗談が現実になったような衝撃を受けた。


「話はそれだけだ。もう部屋から出て行ってくれ」


再び、は?

人を呼び出しておきながら、一方的に結論を伝えて、説明もなく出て行けと言うの?

アルはこんなに勝手な人だった?


まさか、こんなに一方的に、何の説明もなく話を切り上げようとされるだなんて…。

しかも、国を揺るがしかねない第一王位継承者の婚姻問題を独断で決定して内々で伝えるって…。

アルはそこまでリリアに本気なの?

恋しておかしくなってしまったの?


あまりの展開に、怒りと悲しみが同時に押し寄せてきた。

大変…、私、自分を保っていられないかもしれない…。

我を忘れる前に、とにかく無言のままこの場から去ろうと立ち上がった。

このままじゃ、醜態をさらしてしまうわ…。


「ちょっと待ってください。アルノート様」


しかし、私が立ち去る前にリリアが声を上げた。

この子、一体何を言うつもりなの?


「本当にそれでいいのでしょうか?」


ウルウルとした瞳でリリアはアルを見つめる。

急に2人だけの雰囲気を醸し出したアルとリリア。


「リリア。君はとても優しいね。

でも、ジェリーナが如何に冷たい女かこれでわかっただろう?

婚約破棄を言い渡しているのに、表情1つ変えない。なんて冷酷なんだ…」


リリアに向ける視線とは真逆の、凍るような冷たい視線を私に向けるアル。

この人…、私のことそういうふうに見てたのね…。


「そんなことありませんわ!」


アルの言葉を否定したのはリリアだった。


「ジェリーナ様は勤勉で誠実で素晴らしい女性です!

アルノート様をお支えするのは、ジェリーナ様以外に考えられません!」


熱弁するリリアを、アルは感動の眼差しで見ている。


「本当に君の優しさは素晴らしいよ、リリア。

でも、ジェリーナにそう言えと命令されているのはわかってる。

もう、嘘をつかなくてもいいんだよ。僕が守ってあげるから」


は?


「ジェリーナ。君はリリアの人の良さに付け込んで、随分と酷いことばかりを命令していたのだろう?全く軽蔑するよ」


え?え?

アルは一体何を言っているの?

私はリリアと殆ど言葉も交わしたことがないのに…。


アルが婚約破棄したがっているのは、リリアに夢中で判断力麻痺状態だからだと思っていたんだけど、違うの?


「違います!命令なんて、私は一度もされたことありません!」


私が否定する前に、リリアがアルの発言を否定した。


「いいんだ。わかってる。君は安心して」


アルは慈しむようにリリアに優しく言った。


「本当に君は酷い女だな。こんなに優しいリリアに、僕に近づかないよう嫌がらせを何度も行っていたんだろう?」


「そうじゃありません!」


アルが私を糾弾し、それをリリアが否定する姿を見て、私はようやく事態を理解した。


そうなのね…。

リリアは私にいじめられているとウソをついて、アルを惑わせ自分に振り向かせようとしたのね…。


アルとリリアが親しくなっているという噂が耳に入るようになった頃から、アルは私と露骨に距離を取り始めたように感じる。

元々お互い多忙の身だから、もうずっとゆっくりと2人の時間を過ごしていないけど、それでも顔を合わせれば笑顔でお話していたのに、それもなくなっていた。


それでも、アルを信じて勉強も礼儀作法も頑張っていたのに…。

12歳で正式にアルの婚約者になってからずっと、苦しくても血のにじむ思いで努力を重ねてきたのに…。

こんな…、地方領主の令嬢程度の女に唆されて、私との婚約破棄を勝手に決めるなんて!


プツッと私の頭の中で、何かが切れる音が聞こえた。


「アル…。私と婚約破棄してどうするつもり…?」


「ふんっ。君には関係のないことだろうが、教えてやろう。ここにいるリリアと正式に婚約を結ぶ」


「だから、待ってくださいってば!」


「リリア様。あなたは黙っていてくださる?これは、私とアルの問題です」


「本性を現したな。何様なんだ君は。リリアはいつだって君を思いやって庇っていたんだ。それなのに、本当に嫌な女だな」


「リリア様がどんな言動をとっていたのかなど、私が知るはずがありません。彼女とは殆ど接点がないのですから」


「ウソをつくな。君はずっとリリアを脅していたんだろう?」


自信満々にアルが私を糾弾する。

何の根拠もないはずなのに、なぜこうも強気に出れるんだろう。

アルは、もしかしたらものすごい軽率な人なのかしら…。


「身に覚えがございません。けど、それを信じてくれないというなら、仕方ありませんね。でも、言わせていただきたいことがあります」


「なんだ?言ってみろ。最後だから聞いてやる」


「アル、あなたの婚約者がどんな役割を担うのか、知らないはずないわよね?

あなたはウルティナの国王になる人。その婚約者は王妃となる人よ。

リリア様にそれが務まると本当に思ってるの?」


「ほら見たことか!そうやって、いつもリリアをいじめていたのだろう。人を見下して、どこまで傲慢なんだ」


「私が傲慢ですって?」


全身が震えるほどの怒りを感じるのは、人生初めての経験だわ…。


「私のどこが傲慢だと言うの!?今までずっと王と王妃の命を受けて、死ぬほど努力を続けてきたわ。学園に入ってからは、成績は常にトップ5に入るように言いつけられて、寝る間も惜しんで勉強してきたわ!

勉強だけじゃない!礼儀作法も、奉仕活動も、学園運営も、全力で取り組んできたわ!

それでも褒められず、次々と課題を与えられて、辛くても頑張ってきたのはこの国を守る王となるあなたの役に立ちたいと思っていたからよ!

傲慢になんてなれるはずないじゃない!

いつだって、強いプレッシャーの中落ちこぼれないようにひたすら努力を続けるしかなかった。

余裕なんてゼロよ!」


こんなに大声を張り上げて誰かに主張したのも初めて…。

もう、自分を止められない。

全部言ってやる!

私は大きく息を吸った。


「それでも、あなたのため、ウルティナのために頑張ってきた!それこそ、友達と会話する時間もない程にね!

そんな私が、わざわざリリア様に何かを命令するはずないじゃない!そんな時間なかったわよ!

私がリリア様を脅す?命令する?そんな暇1分だってなかったわ。誰か私とリリア様が2人だけで話している姿を見た者がいるの?

いないわよね!

だって、そんな事実はないんだもの。

リリア様がでたらめをアルに伝えているだけでしょう。

そんなことも、あなたはわからなくなってしまったの!?」


「ちがっ…」


リリアが私の発言を遮ろうとするけど、そうはさせるものですか!


「それでも、アルがリリア様の方を信じるというのなら、仕方がないわ。

次期王であるあなたの命に背くわけにはいかないものね」


なんだか涙がにじんできた。


「本当に君は性格が悪いな」


どっちが!


「リリアと君が2人で話しているところを、ブライが目撃している」


「なんですって?」


まさか、ブライまでグルなの?

彼はアルの忠実な護衛だけど、中立で公平な人だと思っていたのに…。

思わずブライの方に顔を向けてしまった。

目が合った瞬間逸らされる。


「私に身に覚えはございません」


そんな事実はないのだから、全力で否定するわ!

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