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卒業パーティーがカオスですわ…

カルシスの言葉に甘えて、私はエスコートを頼むことにした。

気持ちが完全に落ち着くまで木陰で休んでから、カルシスと2人で卒業パーティーの会場へ向かう。

会場に近くなるにつれ、自分の緊張が高まっていることを感じる。


「もしも、アルノート様が今までの間違いを反省して心を改め、ジェリーナ様との未来を真剣に考えたらどうしますか?」


無言で歩いていると、カルシスから唐突に問いかけられた。

アルが反省…?

全く想像できないわ…。


「人は誰もが間違いを犯します。

もちろん、今後国王になるアルノート様の間違いは、国家を揺るがす大問題です。

それでも、アルノート様も1人の人間ですから間違うこともあるでしょう。

間違ったあとの行動によって、未来は大きく変わるものです。

本人が間違いを認め、反省し、周囲と協力して乗り越えた先には大きな成長があります。

今回のことで、もしかしたらアルノート様はジェリーナ様の大切さに気付くかもしれません」


「カルシス様はアルの…アルノート様のあのときの顔を見ていないから、そんなことが言えるのですわ」


勝手に妄想を膨らませ、私を悪女だと思い込み、あの女に夢中になったアル。

その経験が成長を促す?

そんなことあるはずがないわ。


「そうですね…私はジェリーナ様とアルノート様の間に起こったことをこの目で見たわけではありません。

想像で物を言ってしまったことを謝罪させてください。

それでも…今一度聞かせてください。

アルノート様が自分の間違いを認めたならば、悔い改めるチャンスを与える寛容な心はありますか?」


「ありません」


私はキッパリと即答した。

私の気持ちは、もうアルに向いていない。

今日の出来事で、完全にアルへの愛情は冷めてしまった。


「わかりました」


カルシスはなぜか笑顔で頷いた。


「さぁ、もうすぐ会場に着きます。事の成り行きを一緒に見守りましょう。

もちろん、ジェリーナ様がしたいようになさって構いません」


どういう意味?

思わずカルシスを見上げると、不敵な笑みを返された。


―――――――――――――――――――――


「カルシス=フェルナンド様、ジェリーナ=ユーヴィス様のご入場です!」


扉が開き、扉番の高らかな声が響く。

パーティー会場にいた人々の注目が一気に集まった。

注目されることに慣れているはずなのに、今日はとても緊張するわ…。

ルイザ様は大丈夫かしら…。

アルはどんな顔をしてるの?


「ジェリーナ様、体調は回復されましたか?」


一番近くにいた令嬢から声をかけれられた。

私が体調不良で遅れた設定は、参加者に周知されているのね…。


「もう大丈夫です。ご心配おかけして申し訳ありません」


小さく会釈して令嬢の前を通り過ぎる。

令嬢はまだ何か言いたい表情をしていたけど引き下がってくれた。

カルシスが歩みを止めずに私をエスコートしてくれて助かったわ。


ふと、強い視線を感じて顔を上げると、その先にはアルがいた。

横にはルイザが控えている。

アルの切ない表情に思わず動揺する私。

なぜ…そんな顔をするの…?


だけど、次の瞬間、アルの視線は私を通り過ぎていることがわかった。

アルの視線を追う。

その先にいたのはリリア…。

あのまま逃げてしまうと思っていたのに、卒業パーティーに参加するなんて…。


「リリア!」


アルは周囲の目も気にせず声を上げ、リリアの元へ大股で歩いて行った。

ルイザがその後を追う。

私の横を通り過ぎるアル。

私の存在に気づいていないかのよう…。


「リリア」


再びあの女の名を呼び、アルは両手を広げ抱きしめようとした。

当然卒業パーティーの参加者全員の注目が集まる。


「助けてください」


リリアは姿勢を低くして移動し、アルから逃げてなぜか私の方へ駆けてくる。

な、なんですの!?


「ルイザ様!」


一瞬たじろいだ私の少し前にいたルイザに縋り出すリリア。


「大丈夫ですか?リリア様」


リリアはルイザの背中に隠れ、ルイザはリリアを守るようにアルとの間に入った。

会場は一斉にざわつく。

学生の中にはアルとリリアの噂を知っている人は多いが、来賓者にはわけのわからない状況よね…。


「リリア…僕の愛を受け入れてくれるんじゃ…」


「アルノート様!お戯れは終わりにしてくださいませ!」


弱弱しいアルの声をかき消すように、ルイザが毅然とした声を上げた。


これは…一体どういうことなの…?


「ルイザ、何の真似だ!」


突然叱咤されたアルは、不機嫌さを隠さずに声を荒げる。


「僕とリリアの邪魔をする者は誰であろうと排除する」


「お許しくださいアルノート様…」


激怒するアルを見て、リリアが突然床に突っ伏すように頭を下げた。


「リリア様が謝罪する必要はありません。

アルノート様、か弱い女性にここまでさせるなんて、あまりにも残酷ではありませんか!?」


リリアに寄り添うルイザ。

怯えて震えるリリアを見て、アルは混乱しているみたい…。

私も混乱した。

リリアとルイザにつながりがあるなんて思ってもみなかったから。


「どうしてだ…リリア…。僕との結婚を考え直してくれたからパーティーに出席したんじゃないのか…」


アルの発言に、会場は騒然となる。

学生たちは「噂は本当だった」と驚愕し、来賓者たちは突然現れた知名度の低い令嬢と皇太子の恋愛話に驚きを通り越して呆然としている。

アル…自分の立場を完全に忘れているのね…。


「何度も申し上げている通り、私のような下賤の者が王族と婚姻を結ぶなど無理でございます。

なぜこのような仕打ちを私に続けるのですか?

アルノート様のお相手は私だけではないのに、よりによってなぜ私に婚姻を迫るのです?

それとも、他の令嬢にも同じことを伝えているのですか…?」


頭を下げたまま発言するリリア。

え…?アルはあの女一筋じゃなかったの?

他にも関係している令嬢がいるってこと?


「な…何を言っているんだ…」


明らかにうろたえるアル。


「僕には君だけだ」


「酷いですわ!」


今度はリリアを支えているルイザが声を荒げる。


「先ほど私をエスコートしてくださったときに、フェルナンドも由緒ある家柄だから王族との婚姻にふさわしいとおっしゃってくださったではないですか!」


え!?それって、アルがルイザに婚姻をほのめかしたってこと?


「はぁ!?僕がいつそんなことを…」


「やっぱり遊びだったんだわ!うわぁぁぁあぁぁぁ!!!」


今度は、ルイザから少し離れた場所にいた令嬢が突然突っ伏して号泣し始めた。

さらにその後ろでは、しくしくと泣いている令嬢がいる。


「アルノート様の言葉を信じて許したのに!私…もうどこにも嫁げないかもしれない」


さらにあちこちから令嬢の慟哭の声が聞こえる。

え…もしかして、全員アルと関係のある令嬢なの…?

リリアの前から、アルはこんなにも多くの令嬢と関りを持っていたの?

学業に忙しくて全然気づかなかった…。


「アルノート様…私だけというのも嘘だったんですね?」


リリアが低い声でアルに問う。


「違う!違うんだ!おい!お前らわけのわからないことを言うな!」


泣いている令嬢たちに怒声を浴びせるアル。

当然令嬢たちが泣き止むはずはなく、アルはますますうろたえた。

もうめちゃくちゃだわ…。


私はひどく白けた気持ちになった。

「惚れ直す」という言葉があるけど、「冷め直す」という言葉があるなら、今まさにその状態。

どうしてこんな人のために私は一生懸命努力を続けていたのかしら…。


そして、最もカオスなタイミングで、国王陛下が現れてしまった…。


「こ、国王陛下と王妃陛下のご入場です!!!」


扉番の号令によって、収拾のつかない会場は一気に静まり返る。


「ずいぶんと賑やかだが、今どのような状況だ?」


一見穏やかな、それでいて威厳のある国王陛下の声が静かに響いた。

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