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人の優しさに頼ってもいいのですか?

最終章は再びジェリーナ視点です。

ざまぁな展開にご期待ください!

人目につかないように、ひとまず会場から離れて再び中庭に出た。

今は入場のピーク。

しばらくここに隠れて、人気がなくなるのを待つしかないわね…。


もしかしたら、またブライが探しに来るかもしれない。

窓から死角になる大きな木の陰に隠れた。

木漏れ日が気持ちいい…。


静かにたたずんでいると、なぜ自分がこんな状態になっているのか不思議でたまらなくなる。

生まれてからずっと続けていた努力は何だったんだろう。

子ども時代にアルと王宮内でかくれんぼをしたことを思い出した。

私たち、あのころはとても仲良しで、お互い一緒に過ごす時間を楽しんでいたのに…。


いけない。

また涙が溢れてしまいそう。

こんな気持ちを抱えたまま、私は結局アルと結婚するのだろうか…。

ブライには反論も拒否もできるけれど、国王様や皇后様にはきっと何も言えないだろうな…。

王命ならば従うしかない身なのだから。


「ジェリーナ様」


いけない!見つかった…!

反射的に振り向くと、そこにはルイザの兄、カルシスがいた。


「ここにいらしたんですね。見つかって良かった…」


カルシスはホッとした表情をしている。

私は警戒した。

彼が誰の命で私を探していたのかわかるまで油断できない。


「ルイザに話を聞きました。心配だから探して欲しいと言われたのです」


ルイザが…。

でも、彼女が私の味方とは限らないわよね…。


「どうか恐れないでください。私はジェリーナ様の味方です。もちろんルイザも」


カルシスは私と一定の距離を取り、言葉をつづけた。


「本来ならアルノート様にエスコートされてすでに会場入りしているはず。そうしていないのは、ジェリーナ様にアルノート様との入場を拒否したい気持ちがあるからですよね?」


何が言いたいのかしら…。


「しかし、お立場上完全に拒否ができず、せめて入場時間をずらそうとここに隠れていたのではないですか?」


私はカルシスを見た。

ルイザからどんな話を聞いたのかしら…。

彼女には甘えてしまったけど、でも婚約破棄の話は一切しなかったのに…。


「どうか警戒を解いていただけないでしょうか?私はジェリーナ様がどうなさりたいのかを知り、それを実現するために力を貸したいのです」


「どうして?」


カルシスとは何度も言葉を交わしたことがあるけど、彼が私のためにそこまでする理由が見つからない。

困惑していると、カルシスは言葉を続けた。


「アルノート様の所業に問題を感じているからです」


キッパリと言い切る。

フェルナンドは力ある家柄だけど、ユーヴィスと同じで王家に絶対的忠誠心を誓い、だからこそ今まで強い権力を維持してきた。

フェルナンドの当主ならばまだしも、まだ正式に継いでいないカルシスがアルに反発することなどできないはずなのに…。


「アルノート様ととある令嬢の噂について、私も存じております。噂以上のことも。

アルノート様の戯れだと思い、私も今まで見過ごしてきました。しかし、そうではない様子。

今のアルノート様は未来の国王としての自覚を見失っています。放置すれば、この国の未来を揺るがす事態になり兼ねません」


「カルシス様…どこまで知っているのですか…?」


私はついに口を開いた。

アルの婚約破棄発言について知っているのは、アル本人と私、ブライ、そしてあの女だけだ。


「もしかして…、アルの命令で動いてますか?私を騙そうとしてます…?」


後ずさりする私。

カルシスは味方のふりをして、実は私をアルの元へ連れて行こうとしているのかもしれない。


「違います」


しかし、カルシスはきっぱり否定した。


「ルイザから話を聞き、状況から物事を判断しているだけです。身内の欲目があるかもしれませんが、ルイザはとても勘がよく、人の気持ちを敏感に察知して真実を見抜く力があります。アルノート様からひどい仕打ちをされたのではないですか?」


それについては話すもの苦痛だわ…。


「それは、アルノート様との婚姻を拒みたくなるほどのことだったのでは?」


そうよ…。今までの私の人生をすべて否定されたのだから…。


「それでも、ジェリーナ様は義務感から卒業パーティーに出席なさるおつもりですよね?しかし、出席したらアルノート様はジェリーナ様との婚約発表をする可能性が高いでしょう。アルノート様がたった1人で国王様と皇后様に反抗するとは思えません」


「…嫌…」


思わず口からこぼれる本音。

あんなに傷つけられて、何事もなかったかのように振舞われたら、理性を保つ自信がない…。


「ジェリーナ様はどうなさりたいですか?

このままアルノート様と婚約を受け入れる?それとも…」


そう言って、カルシスは言葉を途切れさせた。

思わずカルシスを見ると、問いかけるような視線を注がれる。


私はどうしたいの…?

アルのことはずっと好きだった。

だからたくさん努力した。

それなのに、アルはあの女を選び、私を冷たく見据えて悪女だと言い放った。


私の好きだったアルはもうどこにもいない。

このままだと愛のない政略結婚になってしまう。


私は愛情を一切向けられず、それでも皇后としての役目を果たさなければならない。

今のアルなら、また別の女性を好きになって側室に迎えるかもしれない。

私以外の女に愛情を全て注ぎ、私はそれを見ながら義務だけを果たすことになる…。


「耐えられない…」


アルのことが好きだったからこそ耐えられない…。


「彼との結婚は…もう無理です…」


本音が口からこぼれた。


「承知いたしました」


カルシスは力強く頷く。


「ならば、ジェリーナ様の願いを叶える手助けをさせていただきます。私がエスコートしますので、一緒に会場へ行きましょう」


「え…?カルシス様はルイザ様をエスコートするためにいらっしゃったんですよね?」


思わず聞いてしまう私。


「そのルイザがいないのです」


「どういうことですか?」


「実は、ルイザはアルノート様と入場しました」


「ええ!?」


どういうことなの!?


「ジェリーナ様の様子から、すぐに会場へ行くのは無理と判断したのでしょう。アルノート様を言いくるめてジェリーナ様の代役をしたのです。

フェルナンドはユーヴィスと同じく王家に仕える家系。ジェリーナ様の代役として、ルイザ以上の適任はいないでしょう」


「私…なんてことを…。ルイザ様に申し訳ない…」


私のせいでルイザに大変なことをさせてしまった…。


「気になさらないでください。ルイザは自分からそうしたいと言ったのです。

私も、ジェリーナ様と同じく王家に仕える一族として、国家のためにできることをしたいと思っています。

私もジェリーナ様を助けたいのです」


「どうして…私を助けることと国家は関係ないでしょう?」


カルシスは肩をすくめた。

彼がこんなに親しみのある仕草をするところ、初めて見たわ…。


「このままアルノート様の暴挙を見て見ぬふりはできません。

卒業パーティーで婚約発表をしたら、アルノート様はますます自分の意のままにできると思い込んでしまうでしょう。

人の気持ちを考えられない国王は暴君になります。

それは国家の衰退を表します」


「誰かに聞かれたら…」


誰かに見られていないか、咄嗟に確認してしまったわ。

王太子であるアルを侮辱していると受け取られかねない発言よ。


「アルノート様にはお灸をすえなければなりません」


慌てる私とは対照的に、カルシスはとても冷静。


「お灸って…」


「まずは、人には心があることを学んでいただきましょう。

人の心を圧力で屈服しようとするリスクと共に」


カルシスは何を考えているのかしら…。


「安心してください。ユーヴィス家とフェルナンド家がタッグを組めば、王家とはいえ簡単には切り捨てられませんから」


「ダメです!私の問題にフェルナンド家を巻き込むわけにはいきません!

心配していただきありがとうございます。

ですが、自分で対処しますので、どうか無謀なことをなさらないでください」


そう。これは私の問題なのだから。

関係ない人に迷惑をかけてはいけない。

さっきはつい弱音を吐いてしまったけど、自分の役割を果たすべきだわ。

アルが婚約継続すると言うなら、それに従うのが私の義務ですもの…。


「ジェリーナ様。1人で全て背負わなくていいのですよ。

1人でできることなどたかが知れています。

国家も同じです。

1人1人がそれぞれの役割を担いつつ、お互いを助け合って成り立っています。

最悪の事態を避けるためにも、人に頼ることは大切です。

私やルイザでは頼りないかもしれませんが、どうか甘えていただきたい」


甘える…?

そんなことをしてもいいの…?

私、ずっと甘えるなって言われてきた。

自分のことは自分で責任を持つのが淑女だと教えられてきたのに…。


「やっぱり甘えるなんてできません…」


私はゆるゆると首を振った。


「では、甘えるのではなく私たちを利用してはいかがでしょうか。

卒業パーティーを欠席するわけにはいかないのですから、せめて私にエスコートさせてください。

ルイザはジェリーナ様が貧血を起こされたと伝えているはず。1人で入場するのはあまりにも不自然です」


もう一度カルシスを見た。

カルシスは優しい目で穏やかに微笑んでいる。

ルイザの目の輝きと同じだった。

よく似てる兄妹ね…。


ルイザの優しさを思い出し、カルシスを信頼していいのではないかと感じた。

確かに、卒業パーティーを欠席するわけにはいかない。

入場するときだけ…頼っていもいいのかな…。


「お願いしますわ…」


私はなぜか恥ずかしくて俯いたまま返事をした。

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