僕に泣いて許しを乞わないならお別れだ!
明日は卒業パーティーだ。
準備は既に整っている。
しかし、眠りにつこうとして、「本当にこれで良いのか」という迷いが生じた。
もしかして、僕は今とても軽率なことをしているのだろうか…。
リリアと本格的に話をするようになって、まだ2カ月程度だ。
彼女の良さを知るには充分な時間だと思う。
しかし、僕の結婚相手としてウルティナの王妃という立場に耐えられるのか…。
僕が守ると決意したが、不安が過ぎる。
そして、ジェリーナだ。
彼女とは子供のころからの付き合いになる。
学園生活を経て、ジェリーナが如何に冷たい心の持ち主なのかわかったが、国を背負うものとしては必要な冷酷さなのかもしれない。
それでも、僕はリリアが好きだった。
やはり、僕にはリリアしかいない。
いや、しかし…。
思考は堂々巡り。
気付けばもう日付が変わっていた。
ジェリーナがリリアのように優しく可愛ければ、こんなに悩まずに済んだはずだ。
眠れない苛立ちの矛先がジェリーナに向かう。
明日、僕から婚約破棄を言い渡されたら、ジェリーナはどんな顔をするだろう。
泣きながら「考え直して」と、少しは可愛い反応が返ってくるだろうか。
もしも、ジェリーナが自分の態度を改めてくれるなら、婚約破棄を考え直してもいいかもしれない。
ジェリーナが自分の非を素直に認めるなら、僕は全てを水に流そう。
僕は寛大な王になる。
リリアもきっとわかってくれるだろう。
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そして次の日。
僕は指定した部屋でリリアと一緒にジェリーナを待った。
時間ピッタリにドアがノックされる。
こういうところは、ものすごく正確だ。
ブライにドアを空けさせると、ジェリーナは無言で部屋に入ってきた。
随分と警戒しているようだ。
当然か。
「ジェリーナ。僕が何を話そうとしているか、心当たりはあるか?」
僕はジェリーナに問いかけた。
しかし、彼女は無言のままだ。
何か言えば、墓穴を掘ると思っているんだろうか。
僕は本題に入ることにした。
さて、ジェリーナはどんな反応をするだろう。
「何も言わないってことは、やっぱりあるんだな。
やはり、僕の判断は間違っていないようだ。単刀直入に言おう。君との婚約を破棄する」
どうだ?
率直に言われて、自分がしたことの罪を思い知っているか?
ならば、泣きながら僕に「婚約破棄しないで」と懇願するんだ。
その、高慢な態度を改めれば許してやる。
しかし、それでもジェリーナは何も言わない。
まさか、この期に及んで無言を貫くのか!?
僕は失望した。
「ちょっと待ってください。アルノート様。本当にそれでいいのでしょうか?」
張り詰めたどうにもならない空気を換えたのはリリアだ。
ああ、僕にはやっぱりリリアしかいない。
「リリア。君はとても優しいね。
でも、ジェリーナが如何に冷たい女かこれでわかっただろう?
婚約破棄を言い渡しているのに、表情1つ変えない。なんて冷酷なんだ…」
「そんなことありませんわ!ジェリーナ様は勤勉で誠実で素晴らしい女性です!
アルノート様をお支えするのは、ジェリーナ様以外に考えられません!」
ああリリア。どうして君はいつもそんなに優しくいられるんだ。
氷のようなジェリーナに命令されているとはいえ、こんなに優しい言葉を投げかけるなんて、君は僕の天使だ!
「本当に君の優しさは素晴らしいよ、リリア。
でも、ジェリーナにそう言えと命令されているのはわかっている。
もう、嘘をつかなくてもいいんだよ。僕が守ってあげるから」
僕はリリアを絶賛した。
ジェリーナとはこのまま婚約破棄だ。
僕の心は固まった。
リリアに駆け寄って抱きしめようと思ったその時、ジェリーナがついに口を開いた。
「アル…。私と婚約破棄してどうするつもり…?」
全く、なんて間の悪い女だ。
苦々しい気分でリリアと婚約する話を伝えると、今度はリリアをイジメた事実を否定し始めた。
しかも、リリアには王妃は務まらないと言う。
更には、突然ヒステリックに自分の努力を主張してきた。
僕は、心底白けた気持ちになった。
僕はなぜ、こんな女と今まで婚約関係にあったのか。
糾弾されて簡単にキレるとは、リリアに妃の資質を問う資格などないくせに。
ブライがリリアに辛く当たるジェリーナを目撃したことを伝えても、まだ白を切るジェリーナ。
改めて婚約破棄すると伝えると、今度は開き直ったようだ。
「わかりました。好きにしてください。
でも、婚約破棄に関する手続きは全てあなたにやっていただきます。
私は金輪際、あなたの婚約者としての努力を全て放棄させていただくわ。
関係各所の説明は、あなたからお願いします」
「なに!?」
「当然ですよね。あなたの希望で私は一方的に婚約破棄されるのですから」
全く、開き直り方も可愛くない。
どうしてジェリーはいつもそうなんだ!?
どうして僕に挑戦的なんだ!
いつだって僕より前を歩き、振り向いては手を差し伸べず「ちゃんとしろ」と僕を責める。
僕は叫びたくなるのをぐっと抑えて吐き捨てるように言った。
「…いいだろう。全部僕がやってやる。だから今すぐ僕の視界から消えろ」
そこへ仲裁に入ったのは、またもやリリアだ。
彼女は心配そうな表情で、それでも僕とジェリーナの仲を必死に取り持とうとしている。
婚約破棄するにしろ、喧嘩別れのような形は確かに後味が悪い。
これからの後始末を考えると頭も痛くなるほどだ。
本当なら穏便に話を進めて、なるべく傷つけないようにしたかった。
それを台無しにしたのはほかでもないジェリーナだ。
「君は何も心配しなくていい。僕が守るし、苦労しないで済むように根回しするから」
僕はリリアを抱きしめた。