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僕が求めるのは能力ではなく心の美しさだ!

第三章はアルノート目線です。

彼が何を考えているのかが明らかになります。

ジェリーナとは子供のころから良く一緒に過ごした。

女性として意識したことはなかったが、12歳で婚約が決まった際は、妥当だと感じた。

ユーヴィス家はウルティナ国の右腕であり、その令嬢との結婚は結束を強め、周辺国へのアピールにもなるからだ。


ジェリーナは地位の高い令嬢の例外にもれず、美人だと思う。

努力家で勤勉、将来の王妃としての素質に全く問題はない。

少々真面目過ぎるところはあるが、政略結婚でも良好な夫婦関係は築けて行けるだろうと思っていた。

婚約者として僕もジェリーナを大切に扱い、特に大きな問題もなく、適度な距離感でつきあってこれていた。


しかし、15歳でウルティナ学園に入学してから、ジェリーナへの印象は徐々に変わっていった。

今までとは違い、毎日彼女の姿が目に入るからだろうか。

ジェリーナの態度は尊大で、周囲への威圧感があるように思う。

成績は素晴らしく良かったが、笑顔がほとんど見られない。

僕のジェリーナに対しての印象は徐々に変わっていった。

優しさが感じられない、冷たい女性なのではないかと思い始めたのだ。


それでも、彼女なりに努力をしているのだろうと、何も言わずに見守ってきた。

自分が経験しているからわかるが、国を統治する立場へのプレッシャーは非常に強い。

張り詰めた気持ちになるのは仕方ないだろう。

実際、学ばなければいけない項目は山のようにある。

自分の両親がジェリーナに期待をかけ、次々と課題を出していることも知っていた。

だから、彼女となら国の重責を背負う苦労を分かち合えるだろうと思い、優しく接してきたんだ。


だけど、年々ジェリーナはとげとげしくなっていく。

子供のころは愛らしく良く笑っていたのに、僕に殆ど笑顔を見せなくなった。

それどころか、あれこれと口うるさく注意してくる。

正式の場でもないのに、ジェリーナは常に僕に対して王族としての品位と振る舞いを求めるようになってきたのだ。


学園の行事準備の際、誰もいない部屋でほんの少しだけ「疲れた。早く休みたい」と言った時には、「この程度で疲れていては、公務に支障が出ます」と言われてしまった。

それだけではなく、「毎日トレーニングして体力強化しましょう」と提案までされてしまった。

僕はただ、ちょっと弱音を吐きだしたかっただけなのに。


ジェリーナはいつの間にか、僕に対して常に厳しい態度で接するようになっていた。

ジェリーナは泣き言も弱音も愚痴も一切受け入れない。

常に最高の努力を求めてくる。

僕はいつしか、ジェリーナと過ごすと酷い息苦しさを感じるようになった。

一緒にいると、ただただ辛かった。


そんな時だ。リリアを見つけたのは。

すごく可愛らしい笑顔で、挨拶をしてくれた。

3年間同じ学園で過ごしてきたのに、リリアのことを今まで全く気にも留めていなかった。存在すら認識していなかった。

彼女は突然僕の前に現れたように思えた。


リリアに興味を持った僕は、積極的に話しかけはじめた。

リリアはジェリーナとは全く違い、僕の話をひたすら聞いてくれた。

そして、「大変ですね」と労ってくれた。

僕の心はリリアに癒された。


良く見ると、リリアは非常に可愛らしい顔をしていた。

身長は低いが、そこがまた可愛い。

それに、出るところはきちんと出ているのも良い。

抱き心地が良さそうだ。


僕は徐々にリリアに欲望を感じるようになった。

僕は所謂王子様で、リリアから見たらとても高貴な立場だ。

きっと僕に求められれば、拒むことはないだろうと思った。

しかし、距離を詰めようとするとはぐらかされる。

駆け引きかと思い、強引な手に出ると、キッパリと断られてしまった。


僕は思わず感動した。

僕の要求を拒むほど、リリアの貞操観念の強固さに。

自慢じゃないが、僕は容姿にも立ち振る舞いにも自信があり、モテる自覚もある。

誘って断られたことなど一度もなかった。

だから、人として、女性として、リリアに強い興味を抱いた。

これがきっかけで、本格的にリリアに惹かれ始めたのだ。


僕は本気でリリアを口説き始めた。

賢明に誠意と愛情を伝えた。

それでも、リリアは首を縦に振ってくれない。

呼び出せば応じてくれ、僕の話をいつも親身に聞いてくれ、そして僕を励ましてくれるのに、その先には決して進もうとしないのだ。


なぜだ?


僕にはわからなかった。

リリアはこんなにも僕に寄り添ってくれるのだから、好意があるに決まっている。

それなのに、一体何がリリアにブレーキをかけさせているのか。


僕はリリアの言葉に耳を傾けた。

もしかしたら、リリアは僕には言えない何かを抱えているのかもしれない。

ならば、僕が解決してあげよう。


そして気付いたのだ。

リリアはジェリーナから圧力をかけられていることに。

リリアは何かとジェリーナの名前を出す。

常にジェリーナを褒めては自分を卑下する。


この頃には、僕とリリアが急接近していると学園中の噂になっていた。

噂を耳にしたジェリーナが、リリアに何か言っているに違いない!


やはり、ジェリーナと添い遂げるのは無理だ…。


僕はそう思った。

ジェリーナの立場を考えれば、自分を差し置いてリリアが僕と噂になっていれば、心穏やかではいられないだろう。

しかし、なぜ矛先をリリアに向けるのか。

僕に直接言ってくればいいのに。

「他の女性を見るのは止めて」と、泣きながら訴えてくれれば、まだ可愛げがあるものを…。

いくら政略結婚とは言え、プライドが高く冷たい彼女とこのまま婚約を継続したくない。

僕がこの先も一緒にいたいと思うのはリリアだ。


しかし、リリアの両親が治める土地は、ウルティナ国の中でも辺境の極み。

僕とはあまりにも身分が違い過ぎる。

リリアと僕が結婚するのは、あまりにも現実味がなさすぎる。


いや…待てよ。

むしろ、長年王族に仕えているユーヴィス家令嬢との結婚より、辺境の地のリリアと結婚した方が、国民には良いアピールになるのでは?

王都ばかりではなく、きちんと国全てに目と心を配っているというメッセージになるのではないだろうか。


リリアとたくさんの話をしたが、実は彼女は非常に聡明だ。

学園の成績は中の上程度だが、空気を読み、その場に合わせた振る舞いができる。

頭の回転が早く、僕の言葉から答えを瞬時に導き出すリリアならば、これから磨けば素晴らしい輝きを発するだろう。

足りない部分は僕が補えば良いのだ。


そう思ったら、一刻も早くジェリーナと婚約破棄したくなった。

しかし、ジェリーナとの婚約破棄はウルティナとユーヴィス家の信頼関係に大きな悪影響を与える可能性が高い。

それに、何年も一緒に過ごしてきたジェリーナには多少の情もある。

何の落ち度もないジェリーナに、一方的に婚約破棄を伝えるのは気が引けるし、周囲を納得させるのも無理だろう。


では、どうするべきか。

せめて、ジェリーナがリリアを迫害している証拠でもあれば、人格を理由に王妃の資質の問題を指摘しできるのに…。


そんな時だった。

ブライからジェリーナがリリアにつらく当たっているところを目撃したという報告を受けたのは。


疑惑は確信に変わった。

この頃から、リリアの言動全てがジェリーナに影響を受けていると感じるようになった。

こんなにリリアを苦しめるとは…。

ジェリーナには罰を与えなければならない。

リリアも本当は僕との未来を望んでいるんだ。

僕はリリアとの結婚を決意した。


----------


「リリア、僕には君しかいない!!!ジェリーナとは婚約解消するから、君は何も心配せず僕についてきてほしい!!!」


卒業パーティーの前日、僕はついにリリアにプロポーズをした。

今まで遠回しに結婚の意志を伝えてきたものの、ジェリーナと婚約破棄する決心がつかず、あいまいなままだった。

だから、リリアも明確な返事をくれないのだろうと思っていた。


しかし、この期に及んでリリアはまだジェリーナを庇う。

そこまでリリアは追いつめられているのか…。

とても可哀そうに思った。


これはもう、ジェリーナには辛い罰を与えるしかない。

ジェリーナも自分が辛い立場に立たされれば、今までの行いを反省するに違いない。

そうだ。卒業パーティーで婚約破棄を発表しよう。

ジェリーナが如何に意地悪で冷たい女か暴露してやるのだ。

素晴らしい名案だ。


そう思ったが、心優しいリリアは酷い仕打ちを受けてもまだジェリーナを庇う。

しかも、卒業パーティーで婚約破棄を発表するリスクまで指摘してきた。

最終的には、リリアの提案で卒業パーティー前に部屋に呼び出し、個人的に婚約破棄を伝えることになった。

やはりリリアは聡明だ。

一番良い方法を提案してくれた。


そして、リリアはやはり僕との結婚を望んでいると確信する。

婚約破棄を穏便に進めようとするのも、全ては僕との結婚をスムーズに運ぶためだ。

僕は嬉しくなった。

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[一言] さほど重要でない家系の第四子くらいなら夢見る芸術家とかの道もあったろうに ロマンチスト過ぎて人の上に立っちゃいけないタイプ
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