事態を最悪にした自分のバカさ加減に涙が出てくるんですけど!
「な、なんということだ…」
アホ王子がガクッと膝をつく。
とりあえず暴れなくて良かった…。
「いっそ、遊びの女だと思ってくれれば良かったんですけど、やっぱり好きじゃない人とそういうことするのは無理で、拒否ってたら、そこがまたアルノート様のツボにハマったらしく…。
清純可憐なイメージ抱かれて…、でもアルノート様。これが私の本性なんです」
私はアホ王子に歩み寄る。
どうかわかって。
あなたが求婚していたのは、あなたの妄想世界の住人なの。
本当の私は、超毒舌だし追い詰められるとキレるし打算的で嫌な女なの。
「アルノート様が私に抱いている天使のような女の子は、演技でしかありません。
私に国を背負う能力も根性もないばかりか、アルノート様を優しく癒し続ける愛情もないんです。
私にあるのは、ただただこの事態を回避したいという打算です。
私の願いは、アルノート様とジェリーナ様の婚約継続のみなんです」
「リ…」
「ふざけないでくださる!?」
ずっと黙っていたド真面目女が叫んだ。
まぁ…そうだよね。
何を見せられてる?って感じだよね。
「こんな侮辱は人生初めてですわ!
なぜ、他の女性を愛している人と結婚しなければならないんですの!?
しかも、婚約破棄を言い渡されているのに!
これまでの努力も踏みにじられて!」
確かにそうなんだけど。
だからって私に問題丸投げされても困る!
「そりゃそうですけど!
でも、私だって困ってるんです!
もっともっと、ジェリーナ様が上手にアルノート様を支えてくださればって何度思ったことか!
ジェリーナ様は自分に全く非がないみたいな言い方してますけど、婚約者同士なんでしょう?
関係が上手くいかない原因が、自分にも少しくらいあるって考えないんですか?
もっと優しくすれば良かったとか、アルノート様のプレッシャーと孤独に気付いてあげられなかった自分を責めたりとかしないんですか?」
「お、お黙りなさい!」
「今更黙っても、私への心象はとっくに最悪でしょうから黙りません!
それが受け身だって言うんですよ!
アルノート様のことが本当に好きなら、もっと自分から行けばいいじゃないですか!
言われたことだけこなして、肝心のアルノート様には厳しく接して、それで愛してもらおうなんて虫が良すぎですよーだ!」
「……!!」
「ってことで、後はアルノート様とジェリーナ様2人で話し合ってください。
ジェリーナ様がおっしゃるように、本来私は完全なる部外者なんですから!
はぁ…はぁ…はぁ…」
全部言い切った後、私は我に返った。
や、ヤバイ…。
さすがに言い過ぎだ…。
自分で事を荒げてどうするの?
ああ、私のバカ!!!
「でも、こんなこと言っちゃったから、きっと厳罰下されるんでしょうね…。
どーしよー…」
考えろ考えろ。
思考を止めちゃダメだ。
どうすればいい?
私はどうするべき?
もう、誰も何も発しない。
部屋はシーンと静まり返った。
とにかく、この場から逃げないと…。
ここにいたらダメだ。
ふと、以前読んだ王族と平民の恋愛小説の内容を思い出す。
あの時、主人公の平民女は貴族たちからいじめられて、尼の道を選ぼうとしたんだっけ。
「尼になるしかない」
苦し紛れだとわかっているけど、もう他に手は思いつかなかった。
幸い皆フリーズ状態。
ならば、逃げるが勝ちでしょ!
「もう!尼になるしかないです!こんなんじゃ家に迷惑かけるだけだし、もう帰れないから、尼になりますぅぅぅぅ!!!!さよなら!」
で、ダッシュ!
スタタタタタ!
ガチャ!バタン!
人生一番くらいの速度で部屋を飛び出し、私はそのままひたすら廊下を走った。
しばらく走りまくり、急に不安になって振り向く。
良かった…。誰も追ってこない。
追ってこないけど…。
「この先、どーすりゃいいの…」
自分が引き起こした最低最悪の展開に、私は途方に暮れるのだった。
どうしようどうしようどうしよう…。
私の頭の中は、今「どうしよう」の文字で埋め尽くされてる。
このままとんずらする?
いや、事態を放置して逃げて、それでどうなるの?
とりあえず、寮の自分の部屋に戻ろう。
アホ王子に無理矢理押し付けられたドレスを一刻も早く脱ぎたい。
部屋に向かいながらこれからのことを考えるしかない。
卒業パーティーはどうすればいい?
私みたいな徹底的下級令嬢は、欠席したところで誰も気づかないだろう。
アホ王子は放心していたようだが、さすがに卒業パーティーには出席するよね。
国王夫妻もいらっしゃるし、各国からの来賓も多い。
名目は「学園を卒業した生徒を祝う会」だけど、あれは実質アホ王子が主役の外交の場だ。
いくらアホでも、欠席するはずがない。
ならば、やっぱり私はこのまま部屋にこもって、事の成り行きを見守るのが一番無難かな…。
だけど、気になるのはド真面目女ことジェリーナ様だ。
勢いで酷いこといっぱいいっちゃったけど、彼女はこれからどうするつもりだろう…。
冷静さが戻っているなら、きっと卒業パーティーは出席するだろうな。
卒業パーティーとアホ王子の婚約者披露は元々セットだったんだから。
そこで、ものすごくジェリーナ様に同情する気持ちが湧いてしまった…。
アホ王子、ほんっとーにアホなんだもん。
っつーか、ヨワヨワ。
ジェリーナ様がブチ切れるのは当然だ。
自分の欲求ばかり通そうとして、そのためにジェリーナ様に八つ当たりみたいな酷い仕打ちして。
本当なら、ジェリーナ様の方から三下り半を叩きつけたいところだよね。
ああ、立場って何だろう。位ってなんだろう…。
策略と因縁が渦巻いてる。
大人の世界に嫌悪感持っちゃうよ。
と、思っている内に部屋についてしまった…。
ああ、結局解決策何も思い浮かばない!
卒業パーティー、出るか否か…。
ギリギリに出席して、陰から事の成り行きを見守った方がいいのか…。
結論は出ないけど、とりあえず出席できる格好はしておこう。
私は白いドレスを脱いでアクセサリーをすべて外し、自前のグリーンのドレスに着替えて髪をおろした。
「はぁ…」
何やってるんだろう、私…。
いや!気弱になっちゃダメだ。
この事態を好転させるべく、考えなきゃ!
でも、何も良い考えが思いつかないー!
そもそも、相談できる人がいない!
結局、アホ王子が私に罰を与えるのか与えないのか、ただ待つしかできないの!?
嫌だー!こんなのとばっちりだよ!
何とかして、問題回避して無事故郷に帰りたい…。
誰か、味方を探さないと…。
この事態を説明できる人は誰?
一緒に協力できそうな人は誰?
その時、頭の中にある考えが閃いた。
これって、かなり無謀な手段だし、成功率限りなく低そうだけど、何もしないよりはずっとマシかもしれない。
私は部屋を出て卒業パーティー会場へと向かった。
これで第二章はおしまいです。
第三章はアルノート主観になります。