1
ーーーそこの貴方…私の話を聞いてくれ、信じるか信じないかは貴方次第だけどとりあえず聞いてくれ。
目が覚めたら全く知らない世界にいました。
ーーーいや待て!何その……あぁまたその展開?どうせ目が覚めたら乙女ゲームの世界だったーとか言うんでしょ?みたいな顔!!
違うからな!本当に知らないんだよ!……ベタな展開すぎて先が読めるとかやめてくれ本当に!!
医学大学一浪して、現在はフリーターやってる私が起きたら全く知らない部屋で寝てるんだぞ!可笑しいだろ!笑えよ!
しかも鏡の前に立ってみたらめっちゃ可愛いロリになってたんだよ!顔可愛すぎてつい顔触ったわ!その後「やべっ!犯罪だ捕まr…いや待てよ…感触あるからこれ私だし……合法的ロリだ!セーフ」とか訳の分からないこと1人で叫んでたんだよ!
「小町お嬢様?大丈夫ですか??」
「なんでもないわ!」
ーーー小町はこの身体の持ち主の名前…と言うより声も可愛すぎる……この小さな声帯からどうやったらそんなに高い声出せるんだろうって声出した本人も心配になってつい喉触ったわ…。
全くもって現状が理解できない…頭を抱えて部屋のどデカいベットで悩んでいる。
ロリになった後、大声で叫んでしまい大勢の大人が部屋にやってきた。
「お嬢様!?大丈夫ですか!!」
「小町お嬢様?しっかりしてください!」
ーーーいや誰やねんお前ら。自分で叫んどいて心配してくれて来てくれたことは感謝するけど本当にお前ら誰だ…こんなに人が来るとか思わなくて逆に部屋に20人近くやってきたことが怖すぎて泣いたわ…。
家を探検したり使用人達に話を聞いたりして得た情報からとりあえず現状を整理した。
名前 秋津 小町
年齢 5歳
世界的な企業グループ「秋津グループ」総帥の一人娘、黒髪ロングが特徴的。両親の仲は悪く、小町は半年以上母親と会えていない。性格は我儘で意地っ張りらしく屋敷の人間も手を焼いている。
……さてどうしようか?どうしたらいいんだろうか…知らない世界に知らない姿のまま放り出されて、どこぞのセーラー服を来た美少女戦士のように私の思考回路はショート寸前である。
とりあえず考えるのも飽きたので行動あるのみ、家を探検することにした。
まだ外に出たことはないので外見は分からないが、とてつもなくこの家がでかいことは分かる。もはや家と言うより屋敷である。
長い廊下を歩いていると何人かの使用人達とすれ違う、みんな驚いた表情で立ち止まると床にぶつけるんじゃないかと言うくらい頭を下げて挨拶をする。
「お嬢様!こんにちは!!」
「こんにちは~」
「…えっ!?いえ失礼致しました!」
挨拶された返しただけなのにめちゃくちゃ驚かれている、小町お前、挨拶はちゃんと返してやれよ。
父親は出張で海外に行っているらしく顔はまだ見た事がない、母親も部屋に篭もりっきりで父親同様に顔を見た事はない。
私の前の両親なら自営業だったから常に家にいたし、家も狭かったから常に毎日親の顔を嫌になるほど見る羽目になって、反抗期の時は大変だった。
ーーー全く会わないとか小町寂しくなかったのかな?そりゃあ少しは性格もひねくれるはずだわ。
大抵の場所を見て回ったので、最後に母親の部屋の前に行く。ノックをしようとすると使用人の格好をした中年の女性が声をかけてきた。
「お嬢様!行けませんよ…奥様は体調を崩されておりますので……また今度にしてあげてくださいませんか?」
「……………分かったわ。」
当然会えると思わなかったので、そのまま扉の前を後にした。
暇すぎてどうしようか悩んでいたら、とても広い庭が見えたので近くの窓から外に出る。季節は冬らしくとても寒い…なにか羽織ってこれば良かったが、それよりも好奇心が勝ったので走って庭を探検した。
金持ちの庭感が凄い…裸足で走っても痛くない人工芝に丁寧に整えられている植木や花壇達、庭の真ん中には巨大な木……極めつけに噴水まであった…都会にある大きめの公園か?
5歳(精神年齢20歳以上)の私は庭が楽しくて走り回っていた。噴水に近づいて覗き込んで遊んでいると、
「危ない!!何をしているの!?」
と女性の大声が聞こえてきた。
振り返ると息を切らして焦ったようにこちらに女性が向かってくる、私服を着ているが多分仕事終わりの使用人だろう。
「こんにちは、お仕事お疲れ様!小町は噴水を見て遊んでるの!溺れないわ大丈夫よー!」
「あっ…!そ、そうなの…いえ、申し訳ありません無事で良かった。」
女性はそう言うと着ていたカーディガンを私に着せてくれた。
「わぁ温かい!ありがとう!」
「……何故裸足にパジャマでお外を走り回っていたのです?」
「お外が公園みたいで楽しそうだからついつい窓から外に出たの、大丈夫1階だったから!」
「窓から…!?はしたないからもうしては駄目です!」
怒ったような顔から心配をかけたことに気がつく、女性の手を握ってとりあえず謝っておく。
「ごめんね?許してくれる??」
「心配しますので次は駄目ですよ…。」
「ありがとう優しいのね!お名前なんて言うの?」
「あっ…優里です。」
驚いた表情をしているので多分、以前の小町と面識があるのだろう。それに関しては本当にごめん、中身はフリーターやってる20歳の女だから勘弁してくれ。
その後、優里さんと別れて部屋に戻る。カーディガンは次会う時まで貸してくれることになった。
遊び回って忘れていたが、すっかり身体は冷えてくしゃみが止まらない。使用人に温かい飲み物を持ってきてもらい、部屋も暖かくしていたが多分風邪をひくだろう。
The金持ちのお嬢様のベットの代名詞とも言える天幕つきの白い高級ベットに横たわり布団を被る。
5人兄弟の長女で、1番下の弟は小さい頃に病気で死んでしまったけどそれでも狭い家に4人も子供が入りきるはずもなく一人部屋なんて憧れていたけどこれば流石に寂し過ぎる。
狭い部屋に布団を敷いて兄弟くっついて寝ていた頃が懐かしく感じて、無性に家族に会いたくなった。
身体がだるく感じる、熱があるのだろう…目を開けるのもだるくてそのまま眠ることにした。
ふと誰かが私の頭を優しく撫でる、1番下の弟は私の事が大好きなお姉ちゃん子でよく頭を撫でて欲しいとおねだりされた事を思い出して涙が出る。
「寂しいよぉ…」
つい口からこぼれた言葉が部屋に響く、私が眠りに落ちるまで優しい手は私の頭の上にあった。