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07 『万能人種』と『笑顔』


 ドラゴンを撃退した少年がこちらに向かって歩き出す。

 さすがに消耗しているのか、出会った頃のようなダッシュは見せなかった。

 ヒューマンでありながら、この男の子は魔法を使った。それも達人級冒険者(マスタークラス)じゃなきゃ使えないような高難易度の魔法を。

 常識に考えてもあり得ない。たくさんの疑問符が頭の中で渦巻いている中、少年は私達4人の元へ到着する。

 ドラゴン撃退という偉業に一緒に歓喜したい気持ちより、私から出た始めの言葉は質問だった。

「アンタ……何者なの?」


「僕の名前はジオ! 【魔法遣い】ジオだよ!」

 屈託のない笑顔で少年……ジオが答える。

「そんな……だって! あなたヒューマンでしょ?」

 先の戦いを見る限りあの運動能力、マーカーズのはずはなかった。ヒューマンには魔法行使のエネルギーとなる精霊(エレメンタル)を知覚できない。認識できないものをコントロールなんてできるワケがない。

「それなのに……なんで魔法が使えるのよ!」

「へへへー、なんででしょうか!?」

 ジオは年相応のイタズラっ子の顔を見せた。分からないことだらけ、理解できないことだらけの私は、その表情を見てイラついてしまう。

 こうなったら教えてくれるまでとことん問い詰めてやるんだから!


「なんと! まさかこの目で見れるとは!」

 カセトさんが何かに思い至ったようだ。その口調はどこか興奮を含んでいる。

 魔法が使えるヒューマン……そんなの聞いたことも――

 

 ――ん?

「まさか……?」

 思いだした! 一つ心当たりがある。ヒューマン、マーカーズ以外の第3の人種について、私は以前通っていた学校の授業で習ったことがある。

 それは余りにもイレギュラーな存在だったから、その可能性を先入観で排除してしまっていた。

「はい……そのまさかですな!」


「「万能人種(ハイブリッド)!!」」

 私とカセトさんは顔を合わせながら一緒に叫んだ。

 

「あったりー!」

 ジオは指をパチンと鳴らしながら、したり顔で答える。


 万能人種(ハイブリッド)

 1000年に及ぶ魔法歴史上、14例のみ確認されている魔法が使えるヒューマンを指す言葉だ。

 専門の学者によれば後天性の隔世遺伝だかなんだか言われているが、実のところなぜそんな存在が生まれてくるのか、原因は全く解明されていない。

 そもそもマーカーズが生まれてくる理由も分かっていないのに、それよりもさらに希少なもののことなんて分かるワケがない。


「それにしてもジオ殿、こんな強力な魔法が使えるのに、何故試験では下位魔法を使わなかったのかな?」

 カセトさんは当然の質問を投げかける。

 そうよ、禁呪っていう高難易度魔法が使えるなら冒険者試験合格に必要な下位魔法なんて簡単に――

「遣えないんだもん」

「は?」

 驚く一同。

「僕が遣える魔法はさっきの【禁呪:涅重(クラフォー・)圧天落伏(ルシュベア)】だけ!」

「……そんなことってある? あんなに難しい詠唱しといてさ」

 なんなのコイツ……無茶苦茶だ。

 下位魔法と禁呪なんて、天と地ほどの難易度差があるのに……そんなことってある?

「だってお師匠さまが教えてくれなかったんだもん! 『お前は一先ず、ソレさえ遣えるようになればいい』って」

「なんてゆうか……変わった師匠なのね……」

 イレギュラーである万能人種(ハイブリッド)の師匠を務める人物だ。私にはその考えが全く理解できなかった。

「へへ! でも僕のお師匠さまはすごい魔法遣いなんだよ!」

「何ていう師匠なの?」

 私の質問に対し、これまでで一番得意気な表情でジオは答える。


「デパン! 〝大魔導〟デパンお師匠さまだよ!」


「ええええええええええ!!」

「なんと! あのデパン殿か!」

「お主にはほんと驚かされるぞい!」

「ん? なんだそれ? 旨いのか?」

 〝十剣〟以外の3人が驚く。

 

 〝大魔導〟はこの世界の魔法使いの頂点に立つ者に与えられる無二の称号。

 さらに現〝大魔導〟のデパンは、現存するあらゆる魔法に精通していると噂されており、歴代最強の〝大魔導〟と言われている存在だった。


「やっぱり知ってるよね!有名だもん」

「でもたしかデパン殿は弟子を取らないで有名じゃなかったですかな?」

 カセトさんの質問通り、現〝大魔導〟に弟子がいるなんて初耳だった。

 詳しくは知らないけれど、人格に大きな問題があると風の噂で聞いた覚えがある。

「そうなんだよ! 弟子にしてもらうのにほんと苦労したんだ! だから弟子は僕だけなんだよ」

 両手を腰に当てて、えっへんのポーズをしながらジオが答えた。

 その時、どこからか咆哮が響く。


「ギヤーーーアアアスゥゥ……」

 声の方に視線を移すと、先ほどの禁呪跡からドラゴンジュニアがゆっくりと起き上がろうとしている。

 まだ生きていた!

 でもかなりのダメージを受けているようね。

「おいおいおい……あの物凄いのをくらってまだ生きてんのかよ、信じられねー生き物だな!」

「驚いた……ドラゴンってすーっごいタフなんだね。僕の魔法で仕留められなかったモンスターは初めてだ!」

 〝十剣〟とジオが驚嘆のセリフを吐く中、ドラゴンジュニアは弱々しく飛び上がった。

 一瞬こちらを確認した後、すぐに反転してあさっての方向へ飛び去っていく。流石にもう戦意はないのだろう。蛇行しながら飛んでいく姿が痛々しい。

 私達と同じで、アイツも瀕死の状態なのね。


 偉大なる最強種族に敬意を払うように、私達5人は無言で彼を見送った。



「いずにしてもドラゴン撃退! ジオ殿! あなたがこのソンジェを守ったんですぞ!」

「そうじゃぞ小僧! お主は本当に大したモンだぞい!」

 カセトさんとドコレさんが興奮気味に言う。

「それは違うよ! ここに居る皆で撃退したんだ! 僕は最後の一撃を加えただけ」

「おいガキ、なに言ってんだよ。どう見てもお前の手柄だろ?」

 謙遜しているかのようなセリフのジオに、〝十剣〟が噛みついた。

「あれ? 気付いてなかった?」

「あー? 何をだよ?」

「僕と戦う前からあのドラゴン、もうヘトヘトだったよ? だから動きも鈍かったし攻撃も避けられたんだ」

 たしかに……ジオと戦っていた時はブレスもほとんど使わなった。

 ……ううん、あれは使えなかったのね。私達4人の攻撃もちゃんとドラゴンに効いていたってことか。

「なにより僕一人じゃ禁呪も遣えなかっただろうしね。だから皆の手柄なんだよ!」

 そう言って両手を広げたジオの笑顔を見ていると、謙遜でも世辞でも見栄でもないことが分かる。彼は本心を口に出しているだけだ。

 私を含めた4人皆が、その言葉に心地よさを感じているようだった。



「おーーーーい! 皆さーーーーん!」

 しばらくギルドの跡地に腰を下ろし、5人で話していると遠くから声が聞こえてきた。

 避難をしていたギルド受付嬢だ。

 その他ギルド関係者もぞろぞろ引き連れている。

 ドラゴンジュニアが飛び去っていったのを確認して戻ってきたんだろう。カセトさん、ドコレさんが手を振って返す。

 その横でジオがそわそわしていた。

「ねえねえ、おじさん! 今度は僕の魔法遣い試験、合格かな!?」

「ははは! もちろん! 満点で合格ですな!」

「イエーーーーイ!」

 ジオは今日一番の笑顔を見せた。


「僕ね、〝大魔導〟になりたいんだ! そしていつかお師匠さまを超えてみせる!」

「それはそれは! 険しい道ですぞ!」

 そう言ったカセトさんは、まるで孫を見守る祖父のような優しい瞳でジオを見ていた。

 ここにも〝大魔導〟を目指す者が一人居た。

 ふふ……ベリー、ここに強力なライバルが出現したわよ。私も負けていられないな。


「ねえちょっとアンタ」

 〝十剣〟に話しかける。今度こそ目的を達成するために。

「んだよ?」

「もう一度聞くわ。私とパーティ組まない?」

 前のように即答で断られる可能性があったけれど、彼はまっすぐ私の目を見つめてくる。意外だった。

 先刻見せた嫌そうな顔も、めんどくさそうな顔もしていない。

 この共闘で、少しは私のことを認めてくれたのかしらね。

「なんでオレなんだよ。他にも色々といんだろーがよ」

「……始めはその強さが欲しかった。でも今はアンタのことが気に入ったからよ」

 〝十剣〟の強さは確かにこの目で見て確信している。でもそれは表面上の強さではない。格上の相手に躊躇なく向かっていける勇気や、他人を助けるために行動できる志の高さ、最後まで逃げずに立ち向かった彼の根性を、私はこの戦いで知ることができた。

 そんな彼の『全部の強さ』に私は惹かれている。絶対に仲間にするんだから!

「はあ? んだよそれ意味わかんねーぞ」

「分かんなくていいわよ。さあ、これからよろしくね」

 そう言って〝十剣〟に握手を求める。

 もし断られたとしても、しつこく食い下がってやるわ。

 そう決意して〝十剣〟を見つめていると、彼は頭をぽりぽり掻きながら右手を伸ばしてきた。

「ち! しゃーねぇなあ!」

 二人の右手ががっちりと繋がる。

 悪態を付きながらだったけど、そんなこと気にならないくらい嬉しくて、私は自然と笑みが零れてきた。

「〝十剣〟のタイガだ。つまんねえパーティだったらすぐ抜けるからな!」

「ふふ上等♪ よろしくね、タイガ!」


「なになになに!? 二人はパーティ組むの?」

 さっきまでカセトさんとドコレさんと話していたジオがいつの間にかこっちに注目している。それも羨望の眼差しを含みつつ。

「そうよ」

「パーティってさ、一緒に色んなとこ冒険したり、おいしいモノ食べたりするんでしょ? いいなー、いいなー」

 好奇心いっぱいの子供がそこに居た。

「そうね」

「いいないいないいなー!」

 万能人種(ハイブリッド)の少年は私をじっと見つめてくる。

 私の勘違いじゃなければ、仲間になりたそうにしている……ように見えるんだけど、どうしたものか。

 再度少年を見つめ返す。邪なモノは一切入っていないと断言できる目をしていた。


「……アンタも入る? 新米(ルーキー)のジオくん」

「いいの!?」

 食いつきが早い!

 まさか万能人種(ハイブリッド)までパーティに加わることになるなんて考えもしなかったわ。

 だけど……悪くないわね!

「まあ助けてもらった借りもあるしね。歓迎するわ」

「イエーーーーイ!」

 彼の今日一番の笑顔が更新された。


これにて第一章完結です。

読んでいただいた方々、ありがとうございました。

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