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05 『竜』と『寄せ集め討伐隊』


 偶然にもここに、負傷しているとはいえ上級(ハイクラス)相当の実力者が4人も集まった。これだけの戦力なら上級モンスターとも充分渡り合える。だけど相手は最強モンスターであるドラゴン……私は自問自答を繰り返していた。

 

 さすがに討伐は無理でしょう?

 ――でも撃退ならいけるかもしれない。


 最強のモンスターが相手よ?

 ――でも成竜じゃない。

 

 傷が癒えていないあなたに何ができるの?

 ――でも身体は動くし、魔法を使えないほどじゃない。

 

 生き残ることを、逃げ切ることを優先すべきじゃない?

 ――でもここで逃げ出したら、きっと自分以外の誰かが犠牲になってしまう。

  

『この町には女子供もたくさん住んでるんだ。そいつらが逃げるための時間は誰かが稼がなきゃいけねえ』

 彼の言葉を思い出す。

 そうね……やるしか――ない!

 

 私は〝西の天才(レッドサンセット)〟の二つ名を持つ上級冒険者(ハイクラス)新米(ルーキー)のコイツが頑張っているのに、私が頑張らなくてどうするのよ。

 あの日の夜、誓ったじゃない。『仲間は絶対に殺させない』って。ここで逃げたら、例え私達が生き残ったとしても〝十剣(じっけん)〟とパーティを組む資格を永遠に失ってしまう。そんな確信がある。

 今私がやるべきことは、犠牲をできる限り抑えつつ逃亡するベターな選択をすることじゃない。ここでドラゴンを撃退し、誰も犠牲を出さないベストを狙うこと。それしかないわ。

 

「カセトさん! それとドコレさん? 私も戦うわ」

 決意を露わにして、私は2人の試験官に加勢を申し出る。

「マフォ殿! ドラゴンとの遭遇で冒険者が戦う義務はないというのに……かたじけない!」

 私という戦力が増えることが嬉しいのだろうか、カセトさんは笑みを見せる。だがその表情から緊張が隠せていない。相手は最強のモンスター、試験官だって恐いに決まっている。 

「止めとけ! てめえケガしてんだろ?」

 〝十剣〟が割って入ってきた。自分の大ケガよりも他人の状態を心配するなんて……やっぱコイツ、根が良いヤツなのね。

「大丈夫よ! アンタのケガより全然まし! それにアイツを撃退する作戦があるの」

 そう、私には作戦があった。〝十剣〟という強力な攻撃方法がある今なら撃退を狙うことができる……可能性は高くないけど。

「だからカセトさん、ドコレさん、お願い! ここは私の指示通りに動いてほしいの」

「うーむ……曲がりなりにも〝天才〟の二つ名を持つマフォ殿の作戦……いいでしょう! ドコレ、貴殿も異論はないな?」

「おうよ! でもどうやってやるんだぞい?」

 ドコレさんが尋ねてくる。

「2人ともありがとう!」

 笑顔でお礼を言う。だけどゆっくり話している余裕はない。突如現れた増援に、警戒をしているドラゴンジュニアもそろそろ動き出す頃合いだろう。


「時間がないから掻い摘んで話すわ。まずは地の利を活かす! 頭上の天井を落としてドラゴンの身動きを封じるの! ブレスを封殺しなければ勝ちの目がないから! ドコレさん、私達が天井を落とすまで敵の引き付けと誘導をお願い!」

「あいよ!」

 屈強の試験官から気合の入った声が返ってくる。

「ブレスを吐かせない為にも接近戦でお願いね♪」

「おいおい……さらっと無茶言ってくんぞいこの嬢ちゃん!」

 ドコレさんは驚きの顔を見せた。難題を押しつけてごめんなさい、でも期待してるわ。

「カセトさん! 私と同時に【第四階級土魔法(リッジ・):地導角刺(ボーデン)】をお願い! 天井に当てて落とすわよ!」

「承知した!」

 【第四階級土魔法(リッジ・):地導角刺(ボーデン)】は地面を隆起させる魔法で、頭上の天井まで伸ばすことができる。

「〝十剣〟! アンタの剣はドラゴンを傷つけられる! 見せ場は作ってあげるから今は体力回復に努めて!」

「ち! しゃーねえなぁ、言われた通りにやってやらあ!」

 相変わらず口が悪い。が、その言葉からは彼の高揚感が伝わってきた。やる気十分だ。


 その時、ドラゴンジュニアは私達に突進してくる構えを見せる。

「以降の作戦は都度伝えるわ! 皆、行くわよ!」

「「「おう!」」」

 寄せ集めのドラゴンジュニア討伐隊は四方に散開した。

「おいトカゲ野郎! こっち向くんだぞい!」

 ドコレさんは足元の大きな瓦礫を殴りつける。低い音とともにそれはバラバラになった。素手で瓦礫を割る……ヒューマンの身体能力の高さは、マーカーズには理解できない。

「ギイヤアアアアス!」

 ドラゴンジュニアは挑発を受け、予定通りドコレさんを追いかけて狙う。所狭しと飛び交う爪、牙、尻尾の連撃。ドコレさんは防戦一方だった。かろうじて攻撃を躱しているが、持久力の観点から長くは保たないだろう。

 位置は……うんドンピシャだ。急がないといけない!

 カセトさんも魔法発動準備に入っている。土の精霊(エレメンタル)が充満しているこの場所なら、魔法発動までそう時間はかからないはず!

「いくわよカセトさん! ドコレさん避けて!

 【第四階級土魔法(リッジ・):地導角刺(ボーデン)】!」

「はあああ! 【第四階級土魔法(リッジ・):地導角刺(ボーデン)】!」

 二人の土魔法がほぼ同時に発動した。

 隆起した地面が、ドラゴンジュニアを中心として、左右から天井へ向かって伸びていく。合わせて、地面の隆起によりドラゴンジュニアの足元が崩れ、まるで落とし穴のようになった。天井まで届いた隆起物は、かろうじて残っていた天井の残骸を全て落下させていく。

 ドドドドド……

 突然の魔法攻撃に飛び立とうとするドラゴンジュニア……が間に合わない。大小様々な瓦礫の雨に潰されていく。幼竜はそのまま瓦礫の山で半生き埋めとなった。運が良いことに頭部は瓦礫と土に埋もれている。ただそれも、竜族の膂力を考慮したら極短時間だろう。

 

 一先ずこれでブレスの心配はなくなった。ここが勝負の分かれ目だ!

「皆、聞いて! ドラゴンに半端な魔法攻撃は効果が薄い! だからここは単純な力で押し切る!」

 ジュニアとはいえ、その魔法耐性の高さは健在だろう。私は続けて叫ぶ。

「ドコレさん! 露出しているボディを殴りまくって1秒でも多くドラゴンの動きを止めて!」

「ほいさあああぁぁぁ!」

 ドコレさんはドラゴンの胴体を目掛けて、両手で拳打を繰り出す。鈍い衝突音が辺りを包んだ。

「カセトさん! 【第五階級土魔法(ボーデン・ア):土巨人怪腕(ントアーム)】をお願い!」

「巨人の腕ですな!? 少々お待ちを!」

 土の上位魔法である【第五階級土魔法(ボーデン・ア):土巨人怪腕(ントアーム)】は、巨大な土腕を発現させることができる。その質量を利用した、圧倒的なパワーで相手を殴り潰す魔法だが、今回は用途が違っていた。

「〝十剣〟! 今からアンタを上空へ飛ばす!」

「は!?」

 〝十剣〟は驚きの表情を向けてくる。たしかに意味分かんないわよね。

「なるほど……マフォ殿、そういうことですな!」

 カセトさんは気付いてくれたようだ。さすがの試験官ね!

「難しいことは考えなくていいの。微調整は私がやるわ。アンタはただ渾身の力を込めて剣を振り下ろしなさい!」

 私は敢えて要点だけを端的に伝えた。

「かかかかか! いいぜ、面白くなってきやがった!」

 おそらくまだ作戦の意図を掴めていないだろう。しかし〝十剣〟は楽しそうに、背に携えていた大剣を両手で握り締める。


「出でよ! 【第五階級土魔法(ボーデン・ア):土巨人怪腕(ントアーム)】!」

 カセトさんの土魔法が発動し、地面からバカでかい土の腕が生えてくる。本来ならこのまま対象を殴りつけるのだが、今回は――

「カセトさん! めいいっぱい放り投げて!」

「委細承知した!」

 ブンッ!!

 ――巨人の腕は〝十剣〟をつかみ、遥か上空へとブン投げた!

 邪魔になる天井はもう跡形もない。

「おおおおお!? こういうことかよぉぉぉぉー……」

 〝十剣〟の叫び声が遥か上空へ消えていく。あとは私が風魔法で落下地点を調整するだけだ。

「ドコレさん! ありがとう、退いて!」

「ふむ……もう拳が限界だったぞい」

 ドラゴンジュニアの足止めをお願いしていたドコレさんを退かせて、幼竜の状態を確認する。瓦礫を粉々にする拳撃連打を受けても大したダメージを与えられている様子はない。逆にドコレさんの拳は血塗れになっている。相変わらずの防御力、まさに鋼の鱗だ。

 〝十剣〟の剣撃は、そのドラゴンジュニアの皮膚を傷つけたけど……ダメージまでには至らなかった。おそらく彼の持つ剣の切れ味や、ヒューマンとしての剣の腕前は申し分ないだろう。ただそれでも鋼鉄の鱗を切り裂くには足りなかった。

 

 なら!

 重力と落下スピードを味方につければ――勝機がある!!


「うおおおおおおおおお!!」

 叫びながら猛烈なスピードで落ちてくる〝十剣〟。私は魔法発動に集中する。ここは絶対にしくじれない。

「【第一階級風魔法(ヴィント・):突風流(ガスト)】!」

 掌から突風を発生させ、風力を使って〝十剣〟の落下位置をドラゴンジュニアへ。強すぎても弱すぎてもダメ。繊細なコントロールが要求される。

 位置は――ジャストだ!


「いっけえええええええええええええええ!!」

 私はあらんばかりの声を絞りだした。それが彼の叫び声と木霊する。


 〝十剣〟が目標の胴体へ剣を振り下ろしたその瞬間――

 


 地面が爆発した。






「いたたた……何が起こったの……?」

 周りの状況を確認する。地面に大きなクレーター状の穴。至るところで火も上がっている。冒険者組合(ギルド)の建物など、もはや面影もなくなっていた。

「そうか……地面に向かってブレスを吐いたのね」

 くそ……一撃でこれなんて……なんてふざけた威力なの……。

 腹部が熱い。服の上から出血を確認する。今の衝撃で傷が開いたみたいだ。

 他の3人は無事なの? ブレスの着弾地点から一番遠くに居た私でこれだから……。


 バサ、バサ……

 後方より翼のはばたく音、振り返ると撃退対象がそこにいた。

 そう……私に止めをさしにきたのね。


「グギィヤアアアアァァァアス!!」

 ドラゴンジュニアは、中空に浮いたままの状態で威嚇する。

「はあ……はあ……いいわよ……やってやる……!」

 私は幼竜の目を睨みつける。

「アンタが町を燃やしたこの火……! 全部魔法にして返してあげるわ!」

 今、私ができること。それは火の精霊(エレメンタル)が充満しているこの状況を利用して、ありったけの魔法を繰り出すこと!


「【第三階級火魔法(フランメ・):尽熱球体(スフィア)】!」

 自身の上空に大型の炎球体を創り出し、対象に投げつける。そのまま球体は目標に直撃し、ドラゴンジュニアは大量の炎に包まれていった。球体のスピードは決して速くはない。アイツは避ける素振りすらみせなかった。嘗められてるのね……!

 次! ここで手を休めるな!

 私は大量にある火の精霊(エレメンタル)で次なる魔法を発現させる。


「【第四階級火魔法(フランメ・プ):豪炎発爆(ロージョン)】!」

 相手の目の前で多数の火精霊(サラマンダー)が円を描きながら一気に収束、次の瞬間爆発が起こる。

 ドーーンッ!

 大抵のモンスターを木っ端微塵にする爆炎魔法だった。だが、ドラゴン相手に致命傷を与えることはできないだろう。間髪入れずに次の魔法発動の準備に入る。

 魔法行使には、精霊(エレメンタル)を操る魔力の他に、尋常ではない集中力と精神力が要求される。連続魔法や上位魔法となるとなおさらだ。傷を負っている今の状態での魔法使用は、私を大きく消耗させていた。

 目の霞みと眩暈、まるで天地の逆転と大地震を同時に体験しているかのような錯覚を受ける。それでも嘔吐しないのは、腹部の痛みと熱がかろうじて正気を保たせているから。

 

 限界が近い。でも――

 

 『無様ですわね』


 ――ライバルはあの時やっていた!

 私が……今ここで止めるワケにはいかない!


「これで……最後よ! 燃え尽きなさい!

 【第五階級火魔法(フランメ・):灼熱炎柱焦(ポーファイブ)】!」

 突き出した指先から5本の火柱が発現する。瞬く間に、灼熱の炎が対象を包んでいった。轟轟と燃える魔法の火。相手を骨まで燃やし尽くす上位魔法だった。

「はあ……はあ……はあ……火のフルコースの……お味は……どう……?」

 私は朦朧としながらも呼吸を整えつつ、燃え盛る5つの炎を見張った。

 次第に火柱が消失していき、霞んでいく視界でドラゴンジュニアの様子を確認する。

「ギャヤアアアアアスアアアアア!!」

 ……ダメージを与えられている状況は見受けられなかった。私の魔法は、成竜にはきっと効かないだろう。でも、まだ子供なら、幼竜ならばと考えていた私が甘かった。

「この怪物め……」

 私は両膝をつく。魔力が限界だ…もう精霊(エレメンタル)をコントロールすることはできない。それに例え魔力が残っていたとしても精神力が保たない。

 

 ああ……ここで終わりか……

 ベリーを見返すことは……できないままだったな……


 でも…これだけ時間を稼いだから……町の人達をちゃんと逃がすことができたわよね。

 ほんのちょっぴりだけど……私でも最期は人の役に立てた……かしら?


「アンタの顔……覚えたわよ……いつか生まれ変わったら借りを返しにいくわ……覚悟しておきなさい」

 私の……最期の抵抗だった。



「うわーーーー! 本当にドラゴンだーーーー! かっこいーーーー!!」


 遠くから声が聞こえる。

 それは男の子の声だった。

 

 逃げ遅れた子?

 いけない!

 このままじゃ殺されてしまう。

 

「あ! 闘ってる女の人がいる! おーい、大丈夫ーー?」

 声のする方向へ視線を移す。50メートルほど離れた広場に彼は居た。視界に飛び込んできたのは、大きな鋼鉄手甲(ガントレット)装備の格闘士(ファイター)…なのかな?

 ひょっとして冒険者? それにしては幼い。

「ちょっと待っててねー! 今助けるからー! よ、っと!」

 駆け出す少年。速い!

 少年は『あっ!』という間に、私とドラゴンの間へ割り込んできた。同時に右手を大きく振りかぶる。


「せーのっ!!」

 

 ドンッ!!

 

 なんと、少年は出会い頭にドラゴンジュニアを殴って吹っ飛ばした! あの巨体が宙を舞う。明らかにドコレさんの拳撃より威力が上だった。

 中空で慌てて翼をはためかせ、態勢を整える幼竜。自身に何が起こったのかよく分かっていない様子だった。

「な……! なんなのコイツ……!」

 あのスピード、あのパワー。ヒューマンに違いはないが、それにしてもこんなに凄い子供は見たことがない。

「へへ! こんにちは!」

 少年は屈託のない笑顔を見せる。近くで見せるその顔はやはり幼い。年齢は13~14歳くらいだろうか。身長も私と同じくらいで、キレイに整えられた黒い髪が特徴的だった。

「もう大丈夫だよ。アイツは僕がやっつける!」

 驚きの一言を放つ。ドラゴンをやっつける……? 上級(ハイクラス)4人がかりでも無理だったのに……できるワケがない。

「アンタ……何者なの? 冒険者?」

「ううん、なりたいんだけどさ。冒険者試験は昨日落ちちゃったんだよね」

 残念そうな、ちょっと拗ねたような表情を見せ少年は答えた。

 試験に落ちた……? これだけの実力を持っていて?

 私はハッ!とした。

 昨日のギルド受付嬢との会話を思い出す。

 

『そう言えば先ほど登録試験を受けに来た冒険者が、ちょっと変わっていたんですよ……』

『登録試験時、明らかにヒューマンだったんですが希望登録職種が魔法使いだったんですよね……』

『その志願者は【格闘士(ファイター)】の出で立ちをしていました。ヒューマンの冒険者試験も圧倒的な実力(・・・・・・)で合格したんですけど』


 コイツが、その【魔法使い志望の格闘士(ファイター)】だ――


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