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11 『万能人種』と『魔王』


「たああああああ!」


 ジオの連撃、しかしどの拳も〝魔王〟には当たらない。

「きゃきゃきゃ、まるで野生の獣だな」

 拳は空を切り続けた。しかしジオは休む間もなく拳打を放つ。


 ジオの猛攻はどれくらい続いただろうか。

「ふむ、体術はなってないが、速さは中々のものだ」

 結局、一撃も当たらないまま〝魔王〟は後方へ下がって距離を取った。

 まずいわね。〝魔王〟にはまだ余裕が見てとれる。


「前のドラゴンのときでも思ってたけどよ、アイツの攻撃って全部大振りなんだよな。当たればすげー威力だけど、予備動作がデカイから避けるのはそこまで難しくない」

 〝十剣(じっけん)〟が闘いの状況を冷静に解説する。

 魔法使いである私から見れば、大振りだろうがなんだろうが、あんな猛スピードの攻撃を躱し続けるのって相当な技量だと思うけど……。ヒューマンの達人にしか分からない領域なのかしら。


「さっきから逃げてばっかり! 卑怯だぞー!」

 あまりのカラ振りに、少年はイラついている。

「なんだと? まさか貴様……当たりさえすればどうにかなるとでも思っているのか?」

「うん」

「きゃーきゃきゃきゃ! これは笑わせてくれる」

 上を向き高らかに笑う褐色の少女。ゆっくり頭を下げると、そこに満面の笑みがあった。

「いいだろう打ってこい。身の程を教えてやろう、きゃきゃきゃ」


 〝魔王〟は昼間の戦いで、レベル4である魔石巨人を屠ったジオの攻撃力を見ている。

 それを踏まえても余裕ってこと……?


「断る!」

「きゃ?」

「抵抗しないヤツを殴れるもんか!」

 アンタってどんだけ真っすぐなのよ!

「貴様……、儂を愚弄するか……」


「おいおい、アイツ〝魔王〟をおちょくってんのかよ……」

 タイガが呆れた声で言う。


「僕が言ってるのは、お前も攻撃してこいってことだ!」

「よかろう! ならば地獄をみせてやる」

「うん、かかってこい! 僕が相手になってやる(・・・・・)

 ブチ!

 少女は血管がハチ切れそうなくらいの怒りの表情を露わにする。

 ちょっと! 〝魔王〟をあんなに怒らせちゃって大丈夫なの!?


 瞬間、〝魔王〟が視界から消える。ほぼ同時にジオが後方へ大きく吹っ飛んだ。速すぎて何も見えない。

「がはっ……!」

「ほう、よくガードできたな」

 防御に成功したのか、吹っ飛ばされながらもジオは両足で着地する。

「だが、地獄はこれからだ!」

 また消える〝魔王〟。

 右往左往ジオの体が飛んでいき、衝撃音だけが鳴り響いている。

「すげえ……なんてスピードだ……」

 その高速の動きがタイガには見えているようだった。


 ドン!

 ジオが背中から地面に叩きつけられ、その衝撃で地面が割れる。


「ぐうう……」

 血だらけのジオ。

 ボロボロのジオ。

 かろうじて立ち上がる。

「いてててて……」

「くだらんな。そしてつまらぬ」

 〝魔王〟はあえて手を止めている。先ほどの怒りは発散できたのだろうか。退屈そうな表情を見せていた。

「はあ……はあ……今度はこっちの番だ!」

 突進していくジオに対し、少女は避ける素振りを見せない。

「たああああああ!」

 ドンッ!

 相変わらずの衝撃音が、辺り一帯に木霊する。ジオの大きく振りかぶった一撃が、ついに〝魔王〟を直撃した。


 だけど……


「そんな……」

 〝魔王〟は微動だにせず片手でそれを止める。

「分かったであろう? 貴様と儂の力の差が。冥府から出直してくるがよい」

 〝魔王〟の反撃の拳がジオの腹部を直撃した。

「うわあああぁぁぁぁ――」

 その一撃は、はるか後方へジオを吹っ飛ばし、木々を薙ぎ倒して森の中へ彼を消し去っていった。。


「「ジオ!」」

 私とタイガが叫ぶ。


「ふむ、思ったよりは重いパンチであったな」

 〝魔王〟は受け止めた掌をペロリと舐める。まるでジオの攻撃を味見しているかのような所作だった。

 なんていう膂力なの……あのジオがまるで子供扱いだなんて。このままじゃ……全滅する!

「【第二階級雷魔法(エレクロト):思電伝(ン・シー)】」

 私の額から、ぐにゃぐにゃに曲がった針金のような1本の電気が伸びていく。それはそのままタイガの額に接触した。

 

 (タイガ? 聴こえる?)

 (うお! なんだこりゃ!?)

 (心の声で会話ができる魔法よ。詳しく説明している時間がないわ。このまま戦っても勝ち目はない。ジオはまだきっと生きてる……連れて逃げるわよ)

 (……悔しいが賛成だな。でもどうやって逃げる?)

 (私の魔法で目くらましと時間稼ぎをする。その隙にアンタはジオを担いでそのまま逃げて)

 (お前はどーすんだ?)

 (私は〝天才〟よ。〝魔王〟相手でも逃げ切るだけならきっとできるわ。川の上流で落ち合いましょう)

 (分かった……絶対に来いよ?)

 (こんなところで死ぬ気はないわよ。それより目を瞑ってて。魔法の巻き添えをくらっちゃうから)


「さて……次はお前たちか」

 〝魔王〟が私達に視線を移した。

 

 【第二階級雷魔法(エレクロト):思電伝(ン・シー)】は思念伝達の魔法。対象の相手と、弱電気信号を通じて繋がることができる。

 他者に会話を聞かれないこと、さらに会話よりも素早く意志の疎通ができることが利点の魔法だった。


「行くわよ! 【第一階級光魔法(リヒト・モ):瞬眩光(メント)】!」

 前に突き出した右手の掌から、まばゆい光が発出される。

「く!」

 〝魔王〟は両腕で顔を覆った。ダメージを与える魔法じゃない。閃光による目くらましの魔法だ。


「今よ、走って!」

「おう!」

 ジオが飛ばされた方向へ駆け出すタイガを見送り、私は次の詠唱に入る。


「次はこれよ! 【第一階級闇魔法(ドゥンケル):闇濃霧(・ミスト)】!」

 反面、次は左の掌から暗闇の霧を発現させていく。〝魔王〟周辺を闇が覆いつくした。

 光からの闇。

 連続使用することで、それぞれの目くらまし効果を引き上げる私のコンボ魔法だ。


「きゃきゃきゃ! 相反属性の魔法をこうも素早く発動させるとはな! 褒めてやろう小娘」

 薄気味悪い笑い声が、闇霧の中から聞こえてくる。

「褒美に儂も見せてやろうとするか。本当の魔法というものを」

 ――〝魔王〟の魔法ですって!?

 まずい!! 私は急ぎ、魔法盾(シールド)を作りだす。

「【第三階級光魔法(シャッダ・):封魔光盾(リヒト)】!」

「滅びよ……【第七階級光魔法(フンケルン・):殲滅白輝発星(デストロイ)】」


 まさかの第七階級魔法!?


 闇の霧がかき消され、球状のまばゆく光が、辺り一面を照らす。

 音なきその光は、360度全方位を破壊してい――



 ……



 ――きゃーきゃきゃきゃきゃ……



 少女の笑い声が聞こえる。


 【第七階級光魔法(フンケルン・):殲滅白輝発星(デストロイ)】。

 自身を中心に放射状に伸びる殲滅光が、周囲を粉々にしていく上位魔法だった。

 初めて目の当たりにした第七階級魔法が、こんな超攻撃的魔法なんてね……


 私は倒れた状態のままで彼女を確認する。恐ろしいことに、彼女は私の遥か下斜め方向、つまり球状に抉れた地面の中心地に立っていた。

 おおよそ30メートルの高低差はあるだろうか……なんという破壊力。その威力はジオの禁呪を彷彿とさせる。

 徐々に全身に痛みを感じ始めたその時、私は気付いた。左目に違和感を感じる。全く視えないのだ。おそるおそる手を伸ばし、そこに触れてみるとべっとりとした感触が伝わってきた。残った右目の視界で確認すると私の手は真っ赤に染まっている。

 ああ……左目はもうダメか……。

 そう実感した途端に激痛が左目を襲う。目を強く抑えながら悲鳴を上げようとしたが、うまく声が出ない。

「かは……ケホケホ……」

 咳込むと赤い飛沫が地面を汚した。内臓もやられているようだ。

 安全マージンとした距離は確保していたはずなのに……魔法盾(シールド)が間に合わなければ、おそらく即死していただろう。


 暗闇の霧の中、周囲には光精霊(ウィルプ)がほぼない状態で……第三階級魔法の私とほぼ同じタイミングで第七階級の詠唱を終わらせるなんて……。

 なんて……バケモノなの……


 あのジオを赤子扱いするほどの膂力。

 第七階級魔法を難なく扱う魔力。

 これが魔族。


 これが――〝魔王〟。


 絶望的な状況に、私は渇いた笑い声を上げる。

「あは……あはははは……」

 なんなのよ……これ……完全に万能人種(ハイブリッド)の上位互換じゃない。

 あはは……ベリー、残念だったわね。

 勝てるワケないわ。アンタだって勝てやしない。


 畜生……!

 こんなの……誰にも勝てやしない!


「マァーフォォォー!!」

 遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえる。これは――ジオの叫び声だ!

 振り向くと、遥か後方にタイガに抱えられたジオが居た。


 嘘……? なんで逃げなかったの?


「すまねえー! コイツがどうしても戻るって聞かねえもんだから戻ってきちまった!」

 続いてタイガが叫ぶ。

「それによー! あんなすげえ魔法見ちまったらオレも気になっちまってよー!」

 結局、私のパーティメンバーは心配性だってことね。……困ったことに有難いわ。


「つかうぞぉぉぉ! いいかぁぁぁー!?」

 再びジオが目一杯の声で私に尋ねてくる。

 ――そうね、アンタにはまだソレ(・・)があった。私も声を振り絞って叫ぶ!

「いいわよぉぉー! ぶっ放しなさいー!」

 掠れながらの精一杯の喚声に、ジオは満面の笑みを見せ両手を掲げた。


「おおおおおおおおおおお!!」

 夜の森の中、大量に発生していた闇精霊(シェイデル)が彼の周りに集まっていく。精霊(エレメンタル)の渦は広範囲に動き出し、様々な動きを見せていった。

 あっちでは螺旋、こっちでは回転、あっ反転や結合もしてる。ああ……いつ見ても凄くて、美しい詠唱だわ。

「なんだ? この期に及んで何をする気だ?」

 クレーターの中心で笑っていた〝魔王〟も、上方にある精霊(エレメンタル)の挙動に気付いたようだ。ひと足でクレーターを脱け出した彼女は、ジオの詠唱を目撃する。


「おおおおおおおおおおお!」

 禁呪の詠唱完了までもう少しかかりそうだ。だけど〝魔王〟は驚いているのか、邪魔をする素振りを見せないでいる。

「魔法? 莫迦な! アイツはただの人間ではないのか!?」

「魔族の王も、ヒューマンとマーカーズの人種のことは認識しているみたいね。でもお生憎さま……アイツは特別(・・)なのよ」

 王様に皮肉を言うが返事はない。少女は少年の詠唱に魅入っていた。

「おおおおおおおおおおお!」

 ジオの詠唱は間もなく終わる。


「それになんだあの詠唱は? 儂でも見たことがない魔法……だと!」

 〝魔王〟でも知らない魔法ですって? ジオの使う禁呪は最近できた魔法ってことなの?

「へへ、当たり前だ! コイツはお師匠さまが開発した魔法! お前たち魔族に対抗するための魔法だ!」

「なんだと!?」


「くらえぇぇぇ! 【禁呪:涅重(クラフォー)圧天落伏(・ルシュベア)】!!」

 上空に掲げた魔法使いジオの両手が、勢いよく下に落とされた。


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