プロローグ
その部屋に一人の老人がいる。
白髪白髭の老人。
その髪と髭は余りに長く、そしてだらしなく床まで届いている。
だらしないのは身に纏っている衣服も同様。
元々は白色であろう薄茶色のローブに身を包み、老人は勢いよく語り出した。
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ようこそ!
ここは魔法栄える大陸、エクトカ=シンマ。
今から語るは、一人の魔法遣いの冒険譚。
最強の魔法遣いの称号である〝大魔導〟を目指す者。その物語。
ん?
なぜ急にこんな話をするのか?
ワシは何者なのか?
じゃと?
ふむ。まったくその通りだ。
ワシのことはそうだな……語る者とでも呼んでくれ。
ただのしがない年老いた魔法遣いじゃよ。
語る理由は一つ。
君が魔法に憧れているからだ。
君が今まで生きてきた世界に魔法はないだろう?
魔法はすごいぞ!
燃え盛る炎を出し、風を呼び、大地すら隆起させ、空を自由自在に飛び回ることもできる。
まあ似たようなことは、君らでも機械を使えばできるだろうがな。
だが、君らに天候を変えることができる機械はあるかね?
言葉を発せず意思を相手に届けることは?
一瞬で遥か別の場所へ移動することは?
そして……死んでしまった生命を蘇らせることは?
そう、魔法とは奇跡の力なのだよ。
もっともそんなことが出来るのは、ほんのひと握りの遣い手なのだけれどね。
そして断言しよう。
この物語が終わったら君も魔法遣いになれると!
ほっほっほっ、たしかに君は魔法が遣えない。
今はな。素養がないからだ。
だが、魔法は誰でも遣うことができる。
全ては『信じる』ことからじゃ。
とは言っても話は長くなる。
この場所にはワシの話以外にも面白い話は山ほどあるだろうし、部屋から出て別の話を求めてもいい。
聞きたくなかったら聞かなくてもいい、眠くなったら眠ればいい。
全ては君が決めることだ。
どれ、休み休み話していこうか。