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男と毛玉と未知の出会い

暇つぶしに書いたので初投稿です!

なろう厨のみなさんは優しいって聞きました!

ありがとうございます!(初手感謝)

 遠くに見えるアンゴラ山脈に連なる山々は、飽きることなく今日も雪化粧を施しており、我が家から辺境の村まで続く道なき道にも、うっとうしいほどの雪がつもっている。

 短くも激しい、冬の間の暇つぶしである木工作業にもそろそろ飽いてきた。ということは、遠くないうちに冬も終わるだろう。

 王都では白く美しい木目と軽くも堅い材質から高級品として扱われる、王白銀とも称されるユキシロの木。その木を削って作った小物を売りに行く準備をしなければならない。

 重い腰を上げ、納屋にあるはずの縄と籠を取りに向かう。いちいち寒い外に出なければならないような家を建てた自分に苛立ちながら、玄関の戸を開けて外に出た。

 歩いて3歩、隣接する納屋に向かうために必要な歩数である。壁をぶち抜いてしまえば、こんな面倒なことにはならないだろうに、と内心思うのだが、納屋には畑仕事で使う肥料もあり、それらが放つ臭いがどうしても気になるので踏ん切りもつかない。

 労力と快適性を天秤に掛け、快適性に傾いた天秤は、今もってそのまま仕舞ってある。

 つまり諦めろ、ということだ。

 そんな益体もないことを考えている間に、納屋に着く。空は曇天。今にも雪が降りそうな気配に気が滅入る。

 その男、辺境の村人からは敬意を込めてシフと呼ばれている男は、戸を開けるために伸ばそうとした腕を止め、足元を見る。雪の色に紛れて今の今まで気づかなかったが、何か、いる。

 

 小さい、白い、毛玉。見たままでいえばそうなる。いや、しかし、まさか。

 アンゴラ山脈の麓にある、大樹海ソウバイ。その大樹海の浅い方にあるシフの家で見ることはほとんどないといってもよい、大樹海の覇者。白い怪物、オッソ・ルベド。


 の、子どもらしき毛玉。


 大樹海ソウバイにおいて、白い毛並みをもつ生物は意外にもオッソ・ルベドのみ。短い冬では、白は保護色足り得ないのだろう。

 いや、そんなことはどうでもいい。子どもがこんなところにいるのは不自然だ。親はどこだ? 近くにいるのならば逢わないように逃げなければ……。ヤツは気性が荒いわけではないが、冬場はマズい。

 じりじり、とゆっくり後ずさる。耳を研ぎ澄まして気配を探る。なにもいないことが感覚的にわかるが、全く安心できない自分がいる。

 せめて家に入りたい。丸腰の現状では為すすべが……、無いわけではないが、手札は多い方がいい。

 ……あと2歩が遠い。忌々しい。内戸を拵えておけばこんなことにはならなかったろうに。いや、それはそれで奇襲を許すことになるのか? 今更だな。

 あと1歩。もう少しだ。後ろ手に扉を開ける。ゆっくりと開く。もどかしいがやむを得ない。

 あと半歩。ここまでくれば後は体を滑り込ませるだけだ。

 わずかに気が弛んだ。弛んでしまった。

 チラと後ろにある玄関を確認し、視線をオッソ・ルベドの子どもに戻す。いない。

 ハッとして、体を家の中に滑り込ませる。入り口に立てかけてあった直剣を掴み、鞘から抜き放つ。肩から転がり、膝立ちになりながらも体勢を整え、剣を正眼に構えて入り口に相対する。

 背後に気配。速い。前方に飛び、左下に剣を薙ながら振り返る。ソレはヒョイとかわし、そのまま顔面に飛んでくる。右手、間に合え!


 べちょ。


 シフが突き出した右手を空中でひらりとかわし、顔にくっついた白い毛玉。もとい、オッソ・ルベドの子どもは、シフの顔を嬉しそうにペロペロ舐めまわす。敵意はない様子だ。

 敵意がないことを悟ったシフは、剣を再び構えて耳をすまし、周囲の気配を探る。端から見れば間抜けな姿だが、シフはそれどころではない。

 オッソ・ルベドの成体は戦闘力が高く、並の人間ではとても敵わない。しかし、大樹海の深部が生息地で人里に降りることもなく、気性が荒すぎる訳でもないので、他のケモノに比べて被害報告は殆ど無い。素材目当ての狩猟者が、大怪我を負うくらいである。

 だが冬場は餌が少ない。飢えたケモノはなんであろうと凶暴化するものである。


 ぴちゃぴちゃとオッソ・ルベドの子どもが顔を舐めまわす音がこだまする中、とりあえず脅威はないと判断し、毛玉の首辺りを掴んで引き離す。

 つぶらな赤い瞳でこちらを見つめてくる毛玉。なぁに? とでもいいたげな表情に、シフは少し脱力する。

 「なんなんだ、おまえさんは」と、疲れた様子でつぶやくシフ。当然返る言葉などない。

 オッソ・ルベドはケモノである。お伽噺ではあるまいし、しゃべるなんてことはない。


 「んー、わかんない!」


 そんな明るく元気な声が室内に響き、シフは混乱で頭が真っ白になる。

 何気なくつぶやいた言葉に返事がある。とっさに毛玉を結構な勢いで投げ捨てたことを非難するのは酷というものだ。

 「ふぎゃん!」とどこか可愛らしげな声を上げる毛玉に、恐怖を覚えるシフ。

 慌てて手に持った剣を正眼に構えて、毛玉と相対する。幸いに背後が玄関である。逃げようと思えば逃げられるだろう、と考えたところで、先ほどの俊敏さを思い出してその考えを捨てる。

 荒れ狂う心臓を抑えようと呼吸を整える。そして毛玉の様子を伺う。

 「うぅ、痛いよう」と声を上げ、頭を抱えてうずくまる毛玉。幻聴ではないことに愕然とした思いを抱えながらも、警戒を怠らない。

 「何者だ?」

 静かに問い質すシフ。ケモノに話しかけるというおかしな現実にめまいを覚えそうになるが、ぐっとこらえる。

 「あやまって!」

 「……?」

 突然、声を荒げる毛玉にもうどうして良いかわからない。混乱の極地である。

 「わるいことしたらあやまらないといけないんだよ!」

 続けざまに吠える毛玉に、その見た目からどうやって声を出しているのか、と現実を蔑ろにし始めるシフ。しかし、どうやら謝罪を求めているらしい。話し合いで解決するならその方がいいな。

 そんな麻痺した思考から「……すまん」と一言、声を絞り出す。剣は構えたままである。


 「いいよっ、ゆるしてあげる!」と嬉しそうな声を上げる毛玉に、どこか泣きそうな表情の大の男。場は混沌とし始めているが、シフはこれだけは聞いておかなければならないと、質問をする。


 「なぁ、おまえさん。親は?」 


 

 

親はいません(ネタバレをしていくスタイル)

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