農業(仮)問題
家を建てた。
塩を天日干しするために家屋建設時に出た木材の端くれを用いて、なんとなくの木枠を作った。これに塩を入れお天道様のもとに晒す。幸いにもこの地域は雨があまり降らないようなので、直ぐに海水が蒸発することだろう。
さて、これからどうしようか。家も建てたし、海水も汲んできて干している。最早やること無くねえか。あー。衣服の問題があるか。仮想世界に送られる時に着ていた服を未だに着ている訳だがそろそろ匂いがきつくなってきた。しかし、服を作る能力など有るはずもないので、この服のままでいいかもなんて思っていたりしている。何をしていいか迷っているときは取り敢えず佐々木さんに頼る。
「なあ、佐々木さん。これから何したらいいんですか。もうやること無いような」
「それ本当に言ってます?もし本気なら、1回殺してもいいですか?」
「も、もちろん冗談さー。でもほら、俺がやると順序が変になるというか。おかしくなるというか」
「なんの話しをしているのか分かりませんが、先ずは安定した食料の確保に努めましょう。畑なんか作ったらどうですか?」
畑か。確かに忘れていた。いつもならスーパーで買ってくるだけなので、なんか新鮮な気持ちだ。しかし、種がない。ああいうのって種まいて暫く待って生えてくる的な感じだよな。
「それでは、畑を作りたいと思うのですが種とか苗とかってどうすればいいんですか」
佐々木さんは大きな溜息を一つついてから、渋々口を開いた。
「あなたの職業はゲーマなんですよ。この世界に近い内容のゲームがあるじゃないですか。それ同様に草でも刈ってれば種が出るんじゃないですか」
それって完全にマイ〇ラだ。いよいよこの会社の目的が分からない。何故、俺をこの世界に送ってきたのか、何故何も無い状態から開拓をしなければならないのか。疑問は解消されないが今はこの中で生きるしかないと腹を決め草刈りを開始する。とはいえ、一度草刈り自体はしたことがあるので結果は見え見えだ。所詮この世界はマイ〇ラでは無いので簡単に手にいれることは出来ない。一応結果を報告しつつ、佐々木さんはに意見求めると、亜種を倒したらどうかと言われた。確かに初日に亜種を倒すとアイテムが手に入ると言われた。現によく分からん木の苗を手に入れたし。けれど、今亜種を倒せど確実に種が手に入るかと言えば、そうではないだろう。亜種1匹を倒すにも相当骨が折れるというのに。さてどうしようか。今のところ名案は2つある。1つは、己の力がないのであれば頭脳で勝てば良い戦法。要するに、罠を仕掛ければいいのだ。そこに上手く亜種を誘導し仕留める方法。木材の断片を鋭利に加工し、掘った穴の中に入れる。高度な落とし穴こそ作れないが、牛亜種は目が悪いことは把握済みなので、何とかなるだろう。2つ目としては武具に頼ること。拳で勝てないなら、武器を作れば良い。しかし、木刀では仕留めるのに時間が時間が掛かりすぎてしまうのが問題である。ただ、一度作ればわざわざ相手を誘導する必要もなく楽といえば楽だ。さて、どっちをとるか。
「佐々木さん、度々申し訳ないんだが、1と2どっちがいいと思いますか?」
「どっちでもいいと思います。好きにしてください。私、今忙しいので」
塩対応だなと思いつつ、何をしているのか見るとどうやら石を打ち付けているようだった。見入っていると、遂に割れ中から黒曜石が露出した。現実(仮想世界だが)の黒曜石は割れやすいんだなと知った瞬間である。確か、黒曜石は石器時代とかに使われてたんだっけ。だからなんだって話だが。・・・。いや、これを使えばいいんじゃないのか!黒曜石は確か肉を切り裂ける程に鋭かったはず。これを長い棒か何かの先に括りつけ、槍見たくすればいいのでは?これであればコスパもよく、長持ちもし、かつ微力でも倒せるのでは?
「佐々木さん、それ下さい!俺それ欲しいです」
そう言うと佐々木さんはにこやかな笑顔を見せたあと少々お待ちを、と言って作業を再開した。佐々木さんは器用なのか30分程で作り終えてしまった。しかも槍の形にしてだ。あとは任せたと槍を俺に渡して寝てしまった。まぁ、いいか。早速亜種狩りに出よう。
物欲センサーって怖い。全く亜種がいない。さっきから牛や羊、馬、熊などとは遭遇しているのだが、亜種はいない。夜行性なのだろうか。今はまだ、午後3時くらいだと思われるので種まきは最低でも明後日だろう。折角、急いで槍を用意したというのに。
そろそろ日が暮れる。矢張り亜種は夜行性のようで、日中は見受けられなかった。本当ならもうしばらく粘って倒したいところだが、佐々木さんを夜に1人にしておくのは男としてのプライドが許さないので、大人しく帰ることにした。
拠点に帰ると、佐々木さんが焚き火をし、肉を焼いて待っていた。しかし、よくよく見ると一人分しか無かった。理由を尋ねると、どうやら今夜は帰ってこないと思っていたらしく用意していないとのことだった。
彼女曰く、手ぶらで帰ってくる奴がどこに居るんかということらしい。すると唐突に佐々木さんがじゃんけんをしようと言い出した。もし俺が勝ったら肉をくれるらしい。
一方で俺が負ければ朝まで帰ってくるなということだった。ここはリスクを侵さず、ここに居たいのだが、やらないといけないらしい。渋々やると運の悪いことに負けてしまった。
負けたので潔く闇世の中へと飛び出したのはいいのだが、早速命の危機に晒されている。ただいま、5頭の熊亜種に囲まれている。先程一体だけはなんとか倒したが、感触としては槍を用いても5頭を同時に相手にするのは不可能だ。この状況を打破できるものは無いかと周囲を伺うが特になさそうだ。仕方ない、死を覚悟で地道に1頭ずつ殺すしかないな。
その後、彼を見たものはいなかった。なんて言うのは冗談で、2頭倒し種らしきものを落としたので拾い、命辛々逃げてきた。この日はあまりにも疲れてしまったので寝ることにした。
翌日、川の近くに畑となる土地に線を引き囲い込む。種植える前に先ず土を耕す必要があるため、創作台で鍬を作った。その後、亜種から落ちたよく分からない種を植える。後は成長を待つのみ。
最近動物が活発に行動するようになった気がする。初日こっちの世界に来た時、熊は疎か牛さえいなかった。それが今となっては色々といる。ここ数日は肉がメインではあるが食料に困ることは無くなっきた。今日も今日とて狩りに行く。
狩りを終え帰ってくると、佐々木さんが火を炊いて待っていた。今日の昼食・夕食はなんと、熊肉だ!現実世界では高級肉として売られているやつだが此方の世界では自分たちの生活を脅かすやつの肉だ。有難くその命を頂く。これがこの世界の摂理だ。ついでに皮を剥ぎ鞣す。現実世界では鞣したことなんてある筈もなく、正確には鞣せてはいないのだろうが、気にしたら負けってやつだ。だから、今は取り敢えず水につけて洗い、焚き火の火に近づけているだけだ。
夕方、まもなく5時を過ぎようとしていた頃(もちろん体感でだが)我々の仮自宅のある方向から轟々という音ともに地が揺れた。そしてその方向から佐々木さんが深刻な形相でこちらに走ってきた。
「小路さん大変です。家が、・・・家が崩れました!」
あまりにも突然の悲報であったので、佐々木さんの言葉を理解するのに数秒要した。
「えっ、それってかなりまずいのでは。両方ともですか」
「あ、いえ小路さんのだけです。私のは異常なしです」
と言うと何故かピースサインをしてきた。頭に疑問符を浮かべていると、笑いを堪えながら、
「まぁ、木も干していないですし、時間短縮の為に色々と省きましたからね。何れこうなると思っていましたよ。しかし、予想以上に早くて驚きました。所謂欠陥工事ってやつですかね」
最後の方は、耐えきれずに笑みを浮かべていた。何がそんなに楽しいのか分からない。こっちとしては今日の寝床を奪われ、命の危機すら感じているというのに。今日一日徹夜して、明日のは昼間ゆっくりと寝るか。てことで、おやすみ。
最後までお読み頂きありがとうございます!
欠陥工事って怖いですよね。誰の身にも起こり得てしまうこと。こうなってくるといよいよ疑心暗鬼になってしまいます。
今回は日にちをずらしての投稿となりました。申し訳ないです。次回も恐らく日曜日になると思います。
それでは、次回もお楽しみにしていてください!