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死活問題

動物亜種を軽々しく倒してやったぜ。

朝洞穴を出た。それからどのくらいの時間歩き続けたか。気が付けば東の空に昇っていた日は自分の上をいつの間にか通り過ぎ、西に傾き始めていた。未だに川は見えない。昨日聞こえた音は幻聴だったかもしれない。

……。喉が渇いた。幾らリンゴの水分があるとは言えど、甘みが余計に唾液を枯らしていく。腹も減った。栄養が足りていないので、貧血を起こし幾度も倒れかけた。そろそろ定住できるところを探さないと。流石に死ぬ。数歩歩いたところで何かにぶつかった。咄嗟に、


「すみません」


と謝った。意識が朦朧としていたこともあり、人類が自分一人であることを理解していなかった。気が付くのはこの数秒後。


慌てて周りを見た。人型の亜種が居た場合直ちに逃げなければ、即ち死。しかしそこにその姿は見られなかった。代わりに牛が居た。初めての生き物。早速殺しに行く。牛は避けることもなく、無抵抗のまま死んだ。しかし昨日とは違い、直ぐに光の粒子となって消えることは無かった。多少のタイムラグ的な概念が有るのかもと思い、暫く様子を見ることにした。


ふと見上げた空は何処までも青く澄み切っていた。ここの空は一見変化の無いように見える、けれど実は移ろいでいる。空の青さは薄くなり、そしてまた濃くなる。空の観察が今の俺の最大の楽しみである。時々牛の死体を気にしながら過ごすこと、約30分。突然牛の死体が有るところに空から一筋の光の柱ができた。あまりの眩さに目を細めざるを得なかった。数秒の後、光の柱は消えた。死体の所に駆け寄ってみると死体は消え肉が落ちて──いなかった。ここまで待った甲斐なく、無情にも跡形もなく消えていた。まるでこの世界が俺が食事することを拒んでいるようにも思える。ただいつまでも尾を引く訳にもいかないので、歩を進める。


何日歩き続けたか最早分からない。只々只管(ひたすら)に歩き続けた。夜になれば手ごろな洞穴に身を潜め夜が明けるのを待つ。今日だってそうだ。一日歩き続け洞穴に身を潜める。当初の行き先からは大分遠くまで来てしまった。1度戻ろうかとも思った。何もない世界とは言えど、丘陵や低い山くらいは有る。だからある程度方向は絞れることには絞れる。けれども今、戻ったところで利点は無い。今はただ前を向き続けることしかできない。バックパックの中のリンゴの在庫を確認する。あと5個。早く川を見つけなければ、水分が枯渇する。取り敢えず、2個食べる。


外はいつも通り晴れていた。また歩き始める。足取りが重い。疲労困憊で足もとが覚束(おぼつか)ない。視界が少し(ぼや)ける。一度目を擦りリフレッシュする。するとどうだろうか、目の前に川が流れているではないか。一応周りを警戒する。こんなところで亜種に襲われて死んでしまっては今までの苦労が全て水の泡だ。ここで異変に気付く。川の向こう岸には濃い霧がかかっている。その他の地面を除く4面は暗黒な空間が何処までも広がっているようだった。多少の不信感もあるがそれ以上に生命の危機を感じている。急いで川に向かう。近くによると橋があることに気が付く。完全に人工の物だ。しかし今はどうでも良い。水を飲むために手を器型にし、いざ飲もうと水を汲もうとした時、後ろから声を掛けられた。


「お兄さん、何をしておるんじゃ?」


恐ろしく後ろを振り向く事さえ出来なかったが、亜種であることは間違いない。慌てて逃げようとして危うく川に落ちそうになった。


「ああ、慌てるでない。川に落ちては大変なことになりますよ」


と、気を使ってくれる。しかし、油断は出来ない。気を抜いた時に襲ってくる可能性もある。警戒心強めの俺に対し、声の主は


「案ずるでない。儂はお兄さんを襲うつもりは無い。少々気になってしまってな」


そこで初めて後ろを振り返って見た。立っていたのは普通のおじいさんだった。杖をつき、背を丸めている。到底襲えるような姿ではないことを確認し、少し、警戒を解く。と言っても完全には解いてはいないが。


「俺はここ数日真面に水を飲めていなかったので、川を探していました。やっとの思いでここに辿り着き飲もうとしていたところです」


「そうかい、そうかい。それは辛かっただろうに」


「ええ、本当に死にそうでしたよ」


久しぶりに人と話した。ここに来る途中、佐々木さんに何度か話しかけたが返事が返ってくることは無かった。


「だけどねお兄さん。ここの水を飲んでは行けないよ。今は辛いかもしれないけどあの橋を渡ればお兄さんも楽になれる。ほら、前を見てごらん」


促されるまま向こう岸を見た。先程までかかっていた濃いきりは晴れ良く見えた。そこには祖父母と父の姿があった。顔に血色こそ無いが皆幸せそうな顔をしていた。そこに導かれるかの様に足が進む。今の自分に理性は仕事していない。遂には橋の前にまで来ていた。ふと橋の欄干を見た。そこには”三途の川”と書かれていた。目には映っているが頭では理解できていない。橋に足を踏み入れようとしたその瞬間頭上から水滴が落ちてきた。


目が覚めた。いつの間にか寝ていてようで、変な夢を見ていたようだ。夢で良かったと安堵しつつも、こんな夢を見たことへの恐怖心もある。間もなく死ぬのだろうか。今日こそ本当の川を見つけなければ。そう思うや否や洞穴を飛び出した。外は雨が降っていた。約1週間生活して初めての雨。恵みの雨とはこのことだ。口を開け空を見上げる。傍から見れば間抜けに見えるかもしれない。しかし幸運なことにこの世界に人はいない。だから恥じることは無い。口に入ってくる量は極少量だが、渇き切った口内には充分であった。これで今日も一日頑張れそうだ。


雨のお陰で今日一日で随分遠くまで歩くことが出来た。轟轟と水の流れる音が聞こえる。今回は幻聴ではなく鮮明に聞こえる。それから500メートルほど歩いたところに川があった。遂に発見した。歓喜のあまり思い切り飛び込んだ。水も大量に飲んだ。暫くはここを拠点としよう。


今回も読んで頂き有難うございます!


実際人間がリンゴ数十個だけで生きるとして何日生きれるのでしょうか?

少し気になります。やれと言われたら全力で拒否しますけどねW


今部で拠点地探しは終了し、次回からは開拓していきますよ(多分W)


それでは次部もお楽しみに!

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