やはり塩は大事なようだ
男性陣が行ってしまった。その間も開拓を続ける。
そらから俺らはひたすら資材集めや食料確保を続けた。軽く一か月は経っただろうか。だいぶ家屋を増築でき、かつ主食となっている肉にも余剰が生じ始めた。
そこで僕らは肉を薄く切り、軽く塩水に晒し天日干ししている。幸い雨が降らないので、容易にストックを増やせそうだ。
また、増築する過程でムラから北東(勝手に海側をそう呼んでいる)にあった林を新たに植林場と称し、整備をしている。林床には木の実のなる優良な草木が存在する。
その中の一つに、大きさは親指の爪程度なのだが、淡い赤色で艶のある可愛らしい実がある。
それでは早速一口。
・・・。
噛んだ瞬間柑橘系の酸味、甘味が広がったが、それも束の間渋みが口内を支配した。
なるほど観賞用か。
美しいものには刺がある。とはまた違うのかもしれないが見た目で判断してはいけないのだな。
家屋が満足に増築できたので改めてムラの住人を集める。ジェニオ達もすっかり引越しを終え(そもそも、物はほとんどなかったが)ムラの一員に編入されている。
今後の発展計画について話し合う。最関心事として、カルザスの戦況について上がった。
残念ながら帰国組が行って以降音沙汰はない。当然現代とは違い、郵便制度や電話等といった連絡手段は無い。
ただ彼らの帰りを祈ることしか出来ないのが心苦しい。
「と、取り敢えず私たちが出来ることをしましょう」
残村隊長のマーズさん(先程急遽決めた)が沈んだ空気を転換してくれる。皆が口々に賛同の声を上げる。士気が高まったところで、
「えー、皆さま一先ず家屋づくりと食料調達お疲れ様でした。家屋に関しては一旦完工とします。また、食料に関しては引き続き、僕と隊長らと共に行います」
「それについて一ついいか」
隊長が聞いてきたので話を振る。
「我々が獣討伐に使っている剣なんだが、刃毀れが酷くてな。修繕するにも材料がそろそろ…」
なるほど確かに、最近切れ味が落ちていた気がする。
一般的なゲームであれば性能が変わらず耐久値のみ減っていく仕様だが、この世界はより現実に近いのかもしれない。
となると鉱石堀にも出かけなければならないのか。
「その件了解した…」
少し物思いにふける。今日は別件で会議を開いたのだが思わぬ提案であったのだ。今後の生活にかかわる一件なので最優先して対処したい。
一人で悩んでいても仕方ないか。せっかくこの場を設けたのだ話すべきだろう。
「実は今回収集したのは塩不足が深刻化しているからなのだが、隊長の案を優先しようと思う」
そう言い切って、周囲の顔を見たら国が滅んだ時並みの絶望した表情をして固まっていた。
そう、人数が増え食料消費量の増加に比例し当然、塩の消費量も増える。
それに加え、肉を保存をするために塩水に潜らせるのだが、一応再利用を試みているが一定数は肉に絡みつくので減ってはいくだろう。
ただ、塩などある意味で嗜好品なので、落ち着いてから解決しようと思っていたが…。
この様子では、素材集めと並行して海水を汲みに行く必要がありそうだ。
幸い海までの距離は往復で一日かかるかどうかと言った感じだ。徒歩にしては近いと言えるだろう。
しかし、これから先も頻繁に訪れることを考慮すると、移動手段の見直しが必要だという結論に至った。
そこで発明、と言ってしまうのはおこがましいが筏を提案した。 恐らく海にまで行くのは多容量のバックパックを保持している俺であることは間違いなく、それに加え数人を連れていく形になるだろう。
これらを踏まえるとある程度の大きさの筏を用意しなければならない。手作業では慣れない作業が含まれることを加味すると、数日はかかるだろう。
他にやらなければならないことがあるのでこちらだけに時間や人員を割くことは出来ない。
そこでだ、僕が所有する無敵アイテム、作業台君の出番である。
木を数本こり、なるべく縦横比のバランスの良いように並べる。そこに林から持ってきた蔦を置く。ただ置くだけでいいのだ。それだけで作業台が自動で組み立ててくれる。
しばらく時間がかかったが無事に完成した。
早速川に浮かべ、慎重に乗ってみた。一人なら大丈夫そうだが、二人以降は少し強度が足りないように思える。さすがに危険を冒すわけにはいかない麻うえに、今回は実験的な意味合いも兼ねているので、僕一人で行くことにした。
その間に残っている人には、麻縄を編んでもらうことにした。これは次回以降の強度の強化を目論んでのことである。佐々木さんが指導してくれるらしい。これなら心置きなく船出できそうだ。
理想と現実は必ずしも一致しない。そんなことはわかっていたことではないか。
僕は一寸法師のごとく、桃のごとく川を流れていたのだ。それはそれは優雅であった。コントロール権こそ相手側にあったが、まさに魚と水の関係だった。
しかし、その関係も簡単に破綻してしまった。そう、壊れたのだ。筏が。下流付近であったこと、川が浅かったことが不幸中の幸いといったところだ。濡れたまま海に到達し海水を樽に汲む。今回は大目に樽を持ってきた。
帰りは水路は使えない――筏の有無にかかわらずので、陸路をたどることになる。一度行った作業だったこともあり、日帰りといっても過言ではないほど時間短縮ができた。これも偏に今は無き木船さんのおかげだ。
次の日から俺らは少し、休暇を取ることにした。ここ数か月あまりにも多忙を極めていたので、さすがに疲労困憊状態だ。たまには一日家の中でだらけることも必要である。
思い返せば、この世界に来てから、安心しきって平日を過ごしたことなんてなかった気がする。
……。
やはり頭は今後のことをしきりに考えている。しょうがないね!
翌日からは普段通りに開拓を続行した。まずは改めて畑の整備を行う。
というのも、衣服といい縄といい、今後の生活において麻が重要になると思ったので栽培面積を広げることにした。
それと長いこと放置していた、未知の植物だが、数週間前に白い小さな花を咲かせていた。今では三日月型の小さな房ができている。
もしかしたらこれは期待出来るかもしれない。
暫くは単純作業を行う日々になりそうだ。麻縄制作チーム、狩りチーム。あとはジェニオ達には鉱山で採掘をしてもらっている。
各チーム人数が限られているため順調とは言いきれないがそれでも確実に発展はしている。
……。
…………。
1週間後。南西方向――カルザス方向に土煙が上がっているのを確認した。ムラ中が歓喜した。ついに帰ってきたのだ。
国王の収集により向こうへ行ったのは計6名。帰村したのは半数の3人だけだった。リーダーのキャロレッド、ロジャ、シュライド。
それでも無事に帰って来たのだから笑顔で迎えるべきだろう。
「おかえり」
最初の出たのがこの言葉だ。彼らにとってはカストラは故郷ではないのに。それでもキャロレッドは笑顔で
「ただいま」
と、一言。
どうやら辛勝といったところらしい。ただ、隊長が献上した剣が一役かい勝利したというのだ。それ故にどうやら向こうの国王がジェニオたちを表彰したいということだった。ついでに俺にも来てほしいということなので、同行することにした。
今日は皆でキャンプファイヤーを囲む。いつかこの場に酒を用意したい。特別な祝い酒を。
そのためには、麦か米、あるいはブドウを入手しなければ。カルザスはそれなりの大国だと思うし、今度の面会で交渉をしてみるのもいいかもしれない。
その夜、皆が寝静まったころ僕は密かに佐々木さんに会いに行く。あまりの忙しさに有耶無耶になっていたことを尋ねるためだ。先ずは他世界の人との交易の件だ。佐々木さんがこちらの世界に来た時点で、制限が撤廃されたのだが未だに交易経験はない。
ので、色々聞いてみた。
「貿易しようにもこの世界には商品となるものがないですよね?この世界にしかないもの、とは言いませんけど農作物くらいはないと……。」
ですよね。当たり前の事を言われてしまった。小規模の村においても干し肉くらいしかないのに他国へ売るのはもってのほかだ。
「それと一つ疑問なんですけど、ほかの人との交易は物々交換とかなんですか?」
「基本的にはこちらが管理する共通の仮想通貨によって取引を行います。自国の売り物に対しこちらで質、量を品評し、一定の通貨を差し上げます。ただしこちらはこちらの世界では流通しませんので、こちらの世界では別途貨幣を製造する必要がありますよ」
なるほど。いかにせよ、農作物(畑)と貨幣(鉱石)の整備をする必要があるということか。やることは山積みだが、まずは明日の謁見で信頼を勝ち取り、継続的な資源援助を要請することが今後の発展に大きくかかわってきそうだ。
最後までお読みいただきありがとうございました!
また一年ほど空けるというねw
ほんと毎度のことながらすみません。次回は早くとか言っときながら空くのだが今回は本当になるように努力しますので今後とも何卒よろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに!!!!




