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思わぬ移動法

青銅器って青くないんだって!

 当分の食糧確保ついでに佐々木さんの頼み事である蔦を探しに出たのだが、蔦は案外簡単に見つかった。というか、全体的に木が生い茂っている言わば、森・林が多く見られた。ひと昔前には、見られなかった光景だ。ひとしきり木の実を集めて帰った。


 家に帰ると佐々木さんが数十本もの石の穂を作り終えていた。俺が採取しに行っていた時間はたかだか1時間ほどだ。幾ら何でも手際が良すぎる。彼女はある意味で上層部から派遣されてきた存在。だからある程度能力値が高いのだろうか。不審に思っていると、


「何か腑に落ちないことでもありそうな顔をしてますね?どうかしましたか?」


 佐々木さんは勘が鋭い。何でも俺の心はお見通しか。


「いや、あまりにも作業が速いもので…」


「あー、そんなことでしたか。それなら創作台と技量のおかげてすよ。前にも1度お話したと思いますが、創作台は使用頻度に比例し、精密さ・効率が上がっていきます。私は諸事情ありまして、かなりの精度の物を短時間で作ることができるだけです。なので小路さんも、積極的に使用すればそれなりに出来ますよ」


 とは言ってくれたものの、自分はもとより不器用な方なので細かい作業は自分の汚点が顕著に現れるので嫌いだ。しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。生死がかかっている状況なのだ。四の五の言わずに不慣れな作業する。今与えられている任務は、棒と石の穂を蔦で結わう作業だ。正直こんなの創作台を使わずとも作れるだろうとたかを括っていたのだが、案の定自分の技量では結わうことは出来なかった。創作台のお陰で幾許かは楽になっているが、それでも創作台を使わずに同じ作業をしている佐々木さんと比べても、相当の遅れをとっていることが分かる。


 なんとか自分の目標分を終わらせた頃にはもう日はほとんど落ちており、微かな光を頼りに食事をとる。遠くの方で亜種が吠えているのを除けば、近くを流れる川の音しか聞こえてこない。改めてこの空間に意識を向けると、現実世界では聞こえ得なかった音が聞こえる。更には、自然と視線は上にいく。現実世界では、文明の利器に頼り堕落した生活を送っていたが、今では今までの生活が嘘のようにさえ思えてくる。実際最近では服を捨て裸でいる。流石に女性の前で下半身を出すわけにはいかないので下は履いているが…。


 さて、森林の方から煙が経ち始めて4日程経った今日、佐々木さん曰くXDayだそうだ。いよいよ来る。十騎ほどの群をなした騎馬兵どもが。今日のためにひたすら罠を張り、簡易的ではあるが剣術もジェニオたちから教わった。彼らもこの戦いに人生をかけている。


「宮坂さん。そろそろ騎馬が来ます。作戦通り所定の位置について着いてください。基本的にはそこで息を鎮め、隠れていてください。私が合図を出したら剣を抜いて脅してください、特に脅威を感じないのであれば殺さずに縄で腕を縛ってください。捕虜として私たちの発展の手伝いをしてもらいます」


 なかなかに物騒な指示に身震いしてしまう。それに今回張った罠はあまりにも古典的なものであり、成功する未来が見えない。しかし、足掻きもせずに殺られるのは情けない。未来はやってくるものでは無い。自分で手繰り寄せるもの。この戦い?に勝ち美味い肉を食う明日を想像し己を鼓舞する。自分の持ち場に着き、ジェニオ達から貰った剣を見つめその時を待つ。暫くすると上流の方から地面が揺れ始めた。とうとう騎馬兵がやってきた。自分の存在を気付かれないよう息を潜める。先程まで持っていた剣を傍らに置き、自作の槍に持ち替える。徐々に轟々という音と共に砂埃がハッキリと見えるようになってきた。いよいよだと、柄を強く握る。


 騎馬兵の姿が見えた時俺は大いに驚いた。彼らは俺が想像していた以上に等速直線運動しながらやってきたのだ。1寸の狂いもないほど真っ直ぐに…。当然馬の足元に蔦が張ってあってもよけることなく引っ掛かり、落とし穴に埋め込まれた針山に突っ込んでいった。この針山は佐々木さんの綿密な計算によって人体に損傷を与えない角度、深さ、長さになっている。まあ、そんな高度な計算ができるはずがないとわかっているのだがこれ以上の詮索はよしておこう。さて、先頭が突如として倒れたので後方も急ブレーキをかけたが、どうやらこちらの世界でも慣性の法則というのは働くようで後方は玉突き事故を起こし、混乱状態であった。そこに便乗する形でそれらに向かい矢を投擲(とうてき)する。その数俺と佐々木さんとの合わせて50程。空から降ってきたように見せ掛け、我々の位置の特定を不可能にし、攪乱(かくらん)させる。そのすきに背後から剣を用いて脅す。相手はあまり忽然として襲われたものだから硬直していた。あまり剣を振るうことなく決着はついてしまった。長時間かけて作った手錠もどきを使うことも無かった。


「お手上げだ。まさかここに刺客がいたとは。我々の命は好きなようにしてくれ」


 彼らは早くも降参をしてしまった。いや、まあ無駄な犠牲なく終えられたことはよかったのだろう。しかし、もう少し緊迫した状況に身を置きたかったというのも本音だ。とにもかくにも今はこの捕虜の説得が大事だ。俺らはこの捕虜を殺すつもりはないしできれば対等に接したい。あわよくば彼らが住む町と交易をできたらなと思っている。


「俺たちは君らを殺すつもりはない。まあ、とりあえず適当に座ってくれ。今日は疲れたろ。ゆっくりしろ」


 取り敢えず、久しぶりに火を起こしキャンプファイヤーをみんなで囲む。昨日捌いておいた鹿肉を焼きそこに我らがアイドル塩をかける。あまりの美味さに顔を綻ばせる。佐々木さんも俺と同じように、笑顔を見せている。俺らのあまりにも平和的な姿に度肝を抜かれたのか捕虜たちはお互い、目を合わせあっている。そんな姿を食料が欲しいのだろうと勘違いした俺は、焼肉(味付けは塩)をあげる。すると彼らはますます驚いた表情をした。もう何が何だかわからなくなったので直接聞くことにした。


「おい、お前らさっきから後方ばかり気にしてどうした?もしかして、援軍が来ているとかか?それならば今直ぐに止めた方がいいと思うぜ。俺らはまだ秘密兵器を残しているからな」


 と、念の為虚勢を張っておく。無論秘密兵器などあるはずもなく、本当に援軍が来ているのだとしたら白旗を上げるのは俺らの方だろう。


「いや、我々はただ驚いているのだ。我らが来た国では敵国に捕まったら死ぬ、と教わっている。だから我々も死を覚悟していたのだが、共に火を囲み肉を分け与えてくれる御二方を不思議に思っていただけだ」


 捕まったら死ぬって物騒だな。でも、歴史の授業でやったっけか、捕虜になったものの待遇はかなり悪いと。時代によっては食を与えられなかった頃もあったとか…。まぁ、俺らも捕虜にすると言ってはいたが、どちらかと言うと先導者として受け止めた部分が大きい。


「なるほどなー。お宅もなかなか大変なようで。ところでこの肉食えよ。美味いぞー」


 最初は我々はタダ飯を食らうわけにはいかないと断っていたが、俺がほれほれ食えよ、と執拗いものだから仕方なくと言って肉を食った。


「な、何だこの肉は!!!!美味い、美味すぎるぞ!何の肉なんだ、これ。今まで食ったことがないような味だ」


「これは鹿肉だ。あのー角が2本びょびょーんと伸びたやつ」


 すごく幼い言葉使いになってしまった。それでも伝わったようで、

 

「なるほど。ここの地区では鹿を食うのか。勉強になったな」


「それと味付けは塩だ」


 ただ、塩と言っても伝わらないことはジェニオ達で学習済みなので現品を見せる。彼らはこの塩を訝しげに見たあと、改めて肉を見た。勿論かけた塩は水分によって溶けてしまい、肉にかかった塩を見ることは出来ない。その事を不思議に感じているのだろう。

 

「なるほど。振りかけると無くなるものなのか。これはさぞ高いのであろう。我々のようなものが頂いてもいいのか?」


「そこまで高価ではないだろう。簡単に生成できるし。そもそも俺らはお前たちを隷属化するつもりは毛頭ない。寧ろ俺らに協力をして欲しいのだ。俺らはまだここに来たばかりで右も左も分からない。だからお前たちから色々と聞きたいのだ」


 そう説明している間にも彼らは肉を頬張っていた。どうやら焼肉(味付けは塩)は好評のようだった。そこで俺はすかさず、


「そこでだ、お前たちもリーダーに報告することもあるだろうし、この塩を持って帰って俺たちのことを説明してくれ。向こうの都合が合えば俺らがそちらに向かおうと思う」


 彼らは口々にそうだ、報告せねばと言った。報告には3人で行き、残りの7名はここに残ると言ってくれた。その後はお互い自己紹介をした。この騎馬兵の先頭に立っていたのがリーダーのキャロレッド。彼の馬を殺してしまったことは謝っておいた。キャロレッドは特に怨言を言うことも無く、敵軍の戦力を削ぐことは至極真っ当な事だと言っていた。彼は右頬に刺傷が残っており、髪を立たせているのですぐに分かる。そして、常にキャロレッドの傍らにいるのが、シャーレ。華奢な見た目とは裏腹に剣術の腕の立つ男だ。あとは頭の切れる、ワイズ=ロジャ。彼は何か粘土板のようなようなものを常に抱えている。この隊最年長のマルシア=ロゴス。その他は、マーズ、シュライド、リヨサイズ、クルシアーニ、シド、ハーレド=ジョイズ、と名乗った。皆それぞれ特化しているものがある。

 

 凡そ国に攻め入る為の編成ではない。だいたい、10人という少人数で降伏させようなんて見積もりが甘すぎる。もしかしたら、他になにか目的があるのだろうか。いや、第一この先にあるのは海だ。キャロレッド達の国王の意図が見えない。この少隊で戦争に勝てる国は余程弱小でないとならない。しかし、そんな国にわざわざ攻め入る必要はあるのだろうか。考えれば考える程、疑問が疑問を呼んでくる。


 ひとまず、夜も深けてきたので寝ることにした。自宅で、寝ることも考えたがキャロレッド達が寝床を襲うことを懸念し、共に寝ることにした。結局最後まで信用しきれず眠ることが出来なかった。

最後までお読み頂きありがとうございます!


投稿頻度が低くて申し訳ないです。


今回は、奇襲回です。と言っても、すぐ降参してしまいましたが。何故すぐ降参したか。もしかしたらわかる方もいると思いますが、詳しいことは次回書きたいと思います。


それでは次回もお楽しみに!

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