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鉱山の一画

青銅気を作ることにした。

 佐々木さんの言っていた通り、鉱山らしきものがあった。山肌には木々などがなく岩山と言った方がいいほどだ。見た感じ鉱石らしきものが見当たらない。鉱石と言うのは山肌に露呈しないものなのだろうか。そこら辺の知識がないのでよくわからないが、きっとこの世界ではこういうものだろうと割り切ることにした。近くにそれなりの道があったのでそこから中に入ることにした。


 中は天然とは思えないほどに整備されていた。佐々木さんから頂いたつるはしを片手に坑道を進む。少々天井が低く歩きにくいが横幅はそこそこあり、やはり人工的に作られたものだと思われる。となると俺がここに来る前に誰かがこの世界にいたということなのだろうか。まあ今は、そんなことより鉱石を採取することを一番に考えよう。


 自分は鉱石に関して知識がないので、何が銅で何が(すず)なのか見わけが付かない。ただ、取り敢えず周りと雰囲気の違う個所を鶴嘴(つるはし)でかち割り、細かくなったのを毎度おなじみのバックパックに入れ、只管(ひたすら)坑道を進む。今更気が付いたが、今自分は光源となるものを持っていないのだが、なぜか内部が明るい。確かこの世界は、仮想世界と言っていたがまさか不可思議な能力、所謂魔法というやつが使えるのだろうか。そういえばここに来た日、佐々木さんにこの世界でなりたい職業を聞かれた気がする。その時に《ゲーマー》を選んだ結果がこれなのだろうか。まさか自分は魔法使いになれたのではと錯覚してしまう。しかし直ぐにこの説は破綻してしまう。天井に光源となる、松明が付けられていた。自分の魔法使い説こそつぶれたが、この鉱山に誰かしらが寄ったことがあるというのは確かの様だ。


 (しばら)く道なりに進むと、二方向に割れる分岐点に来た。どちらに進もうと、自分の明日は変わらないはずなのに、なぜか片一方に進むと死に直結するような気がした。右と左に分かれているのだが、右側には松明の明かりがない、一方左は松明こそあれど、不穏な雰囲気が漂っている。長考の末右側の道を選ぶことにした。理由を問われれば、答えは出せないが本能的に右を選んだ。結局、長考した意味はなかったようだ。


 仄暗(ほのぐら)い道を進んでいると、この道が延々に続かのように思われる。決してそんなことは無いのだが、人間の心理的に先の見えない恐怖というのは延々につきないものなのだろうと、良く分からないことを思ったその時、悪寒(おかん)が走った。微かにだが物音が聞こえた気がした。それだけでなく、火の粉が弾ける音もする。しかし、目の前に遮蔽物があるのか、明るさはない。これ以上進むことを何者にかに阻まれている気がする。先を見たいという好奇心と、後退しなければ危険という危機回避能力が拮抗(きっこう)している。思案しながらも前進していたため壁に衝突してしまった。大して痛くないのにも関わらず、


「痛っ!」


と、声を出してしまった。もし、人生で一度だけ時間を戻せる能力が使えるなら間違いなく今使うだろう。勿論、向こうにいる存在はこちらを認識し、何かしら話し合っているようだ。つまり二人以上向こう側にいることになる。


「#&$*+$%#$*」


 此方に話しかけているようにも思えるが、何と言っているのか分からない。ただ、見えない存在に果敢に話しかける姿を見ていると、友好的な人なのだろうと推測できる。或いは、とんだ馬鹿野郎、転じて天才か。なんにせよ、幾らが友好的な存在だとしても、言語の違う相手に対して下手に応答してはいけないだろう。成るべく足音を立てずに後ろに下がる。最早、鉱石採取どころではない。今は一刻も早く、命を持って佐々木さんのもとを帰らなければ。


 徐々に揺らめく光が近づいてくる。向こうも恐る恐る前進しているのか中々姿を現さない。一向に、見えない恐怖は続きもどかしい。愚策かも知れないが、あえて自ら姿を晒すのも有りかとも思い始めてきた。暫くの睨み合いの末、お互いが姿を認識した。それと同時に、


「お主、邪獣(じゃじゅう)では無いようだな。どこのクニの坑夫だ?」


 知らない単語を連発されても返答に困るだけなので止めて頂きたい。そんなことは一旦よそに置いておいて、何故か、彼らの言っていることが理解できる。俺の前にいる人達は、背が低く割と小太り、かつ立派な髭が生えていて、自分のいた世界のアニメなどではドワーフと呼ばれている種族と同じ感じだ。


「おい、お主私の声が聞こえているのだろ。…。貴様()しかして殲滅者か。ならこちらも徹底抗戦する。覚悟しろ」


 そう言うと、矢庭に(ふところ)から短剣を取りだし、いかにも悪役がやりそうな剣先を舐める動作を行った。


「隊長!それ舐めたらまずいやつですよ!おい二番、解毒剤の準備をしろ。そこの坊主、大人しくしてねーと、首を飛ばすぞ」


 脅されているはずなのに、全く恐怖心を覚えない。一連の流れを見なかったことにして、帰ろうとした。まあ、結局腕を引っ張られ、喉元に木剣の矛先を向けられた。あくまで木剣だったので素手で振り払い、逆に鶴嘴(つるはし)を向ける。すると、どうか帰らないでくださいと懇願され、さらには奥の部屋へ招待されたので大人しくついてくことにした。彼らに案内された部屋は正方形にくりぬかれた小空間だった。部屋の中央には薪が克明(こくめい)に置かれ、部屋の隅には人数分の木の葉で作られた簡易ベッドが置かれていた。


 先ほど自滅していった隊長が戻ってくるまでの間、残りのドワーフから彼らについての様々な情報を聞いた。彼らは自らを「ジェニオ」と名乗った。彼らはもともとこの鉱山の遥か南東にある、「グラシヲ」というクニの生まれらしいが、出来損ないと言われクニを追い出され逸れどわー…ジェ二オらしい。どうやら追放当初は仲間が10人ほどいたようだが、基本的に鍛冶にしか興味のない彼らは生きるすべを知らず、一人また一人と死んでしまったようだ。そして今では5人にまで減ってしまったそうだ。普段はこの周囲の鉱石を採掘し、外に出て獣、俺からすれば動物に当たるものを倒し生活を営んでいるようだ。勿論本業である鍛冶師としても生活しており、実際に見せて頂いた。目利きこそできないものの、今自分たちが使っている武器よりは断然切れ味の良さそうな品物だ。


 どうやらここにいるジェニオ達はフレンドリーらしく、ドワーフのような堅苦しい印象はない。話しやすいし何より、見ず知らずの、もしかすると敵国のアサシンかもしれない相手に対し、自分たちの辛い過去を包み隠さず話してくれていた。それだけでなく、彼らが今朝獲ってきた肉類を焼いてくれた。


「ところでお主はなぜこの鉱山に来たのだ?ここは死山(しざん)と呼ばれ、基本的に我々以外が立ち入ることは殆どない。多くのクニはここに来ることを禁止している。となると、お主ここ周辺のクニの生まれじゃないな。なして此処に居るのだ?」


「そうですね。俺はここから数キロ先にある川縁(かわべり)に居を構えています。最近、西の方向から十騎ほどの騎馬兵が接近しているらしいので、武器を作ろうという話になったのです。何で作ろうか検討した結果、青銅で作ろうということでここに来た次第です」


 向こうが嘘偽(うそいつわ)りなく話してくたのだから、自分も正直に話すのが筋だろうと思い、虚言の無いように話した。ただそれだけでなく、あわよくば同情を買い、武器を作って欲しいというのもある。


「おい、坊主。その話は本当か?もし坊主が良ければ我々の武器を買ってはくれぬか?」


「隊長!体調はもう大丈夫なのですか?」


 若干の洒落(しゃれ)に笑みがこぼれかけた。隊長は自分の思惑通り武器の提供を提案してくれた。勿論彼らにも生活があるのでお金は掛かるようだが。


「ではそれでお願いします」


「坊主、なかなか話がはえーじゃねーか。さて、どの素材のをお望みで?」


「そうですね・・・。青銅のってありますか?」


「セイドウ・・・?聞いた事のねえ素材だな。それはどんなやつだ?」


 恥ずかしながら、自分も青銅に関してはあまり知識がない。ただ、銅と錫を高温下で熱すれば出来上がるってことくらいしか・・・。でもまぁ、青銅って言うくらいだから青いはずだ。それと青銅器は硬いってことは知っている。


「色は青色で、割と頑丈なものです」


「青色・・・。それならついこの間作った気がするな。おい、一番持ってきてくれ」


 一番と呼ばれた男は難色示さず、青い剣を取りに行ってくれた。渡されたそれは確かに青く、丈夫そうでで、切れ味が良さそうだった。これに対価を払うとしたら、1万くらいになるのだろうか。そこら辺の相場はよく分からないが、困っている人がいたら助けよう精神で割高な料金払おう。


「その剣、一本1万円でどうでしょうか?もし納得いかないようであれば倍以上でもしますけど・・・」


「エンとはなんだ?もしかして、坊主のクニで流通してる硬貨とかか?それなら申し訳ないが我々は金銭を持たないので、物品での取引を願いたいのだが。」


 よくよく考えてみれば、自分たちもお金を持っていない。危ないところだった。このままことが進み、では交換しましょうってなった時に、お金を用意できていなかったら・・・。物品でとなると何がいいのだろうか。牛肉、鶏肉、魚・・・。自分が渡せるようなものはこれくらいしかないが、これらはきっと彼らも獲ってきているだろう。そう言えば、最近塩を作ったな。もしかしたらこれなら喜んでくれるのではないだろうか。


「では、塩と交換するのはどうでしょうか?これなら多少譲れます」


「シオ?またまた知らないものが出てきたぞ。シオというのは服の一種か?服ならとてもありがたいな。」


「いえ、服ではなくて調味料、つまり食べ物です。ちょうど今、持ってきているので味見してみますか?」


 何故か運良く持っていた塩を1つまみずつ渡していく。最初こそ全員、得体の知れない白い粉に困惑していたが、隊長が食べたことを皮切りに皆食べ始めた。勿論、一番最初に出た言葉は「しょっぱい」だった。この感覚はどうやらこっちの世界も同じようだ。


「こんなん食えんぞ。辛いぞ、辛い。坊主は毎日これを食べているのか?」


「まぁ、これはそのまま食べるものでは無いので・・・。これは先程も触れたように調味料というもので、味付けをするものになります。もし宜しければ、肉を少々下さい」


 ジェニオ達が一瞬目配せし、肉をくれた。それを焼き、塩をかける。あれ?塩って最初にかけるものだっけ?まぁ、いいか。でも確か、高級店とかではヒマラヤ岩塩とかをあとがけしていた気がする。焼き終え塩を(まぶ)した肉をジェニオたちに渡して食べてもらう。


「な、なんじゃこれはー!うまい、美味いぞ。肉が、肉じゃないみたいだ!」


「う~ん、美味しい!これは魔法の白い粉だ!」


 皆口々に塩を評価した。ただ、魔法の白い粉て・・・。危ないやつみたいだ。恐らくこの世界にはこういう(たぐい)のものは無いのだろうが。


「なあ、坊主。坊主がいいのであればこの塩と言うやつとこの剣を交換してくれないか。量は少なくて構わない」


 土下座までされてしまった。寧ろ、塩だけでで剣をくれるのであれば、こちらとしてもありがたい限りだ。


「お椀1杯分の塩しかないのですが、これだけでもいいですか?」


「そ、そんなにくれるのか!それはもらいすぎじゃ。いや、でも塩は大量に欲しい・・・。そうだ一番、秘剣を持ってきてくれ。これを渡すときが来たようだ」


 一番さんが持ってきたのは鏡面加工したかのように磨かれていた剣だった。一回は剣を受け取ることを拒否したが、隊長さんがどうしても頑なに押してくるので、ありがたく貰うことにした。


「そうだ!もし坊主が良いのなら、一つお願いが有るのだが聞いてくれるか?」


 ・・・・・・・・。




 日が東?(方角がわからないので。)にあった頃にこの鉱山に入ったはずが、気が付けば月が東に出ていた。外では亜種が咆哮を上げていた。ここから、数キロの間は亜種の行動に細心の注意を払って帰宅しなければならない。いつもなら、鬱陶しく感じられる亜種警戒も今日は、ジェニオたちのお陰で若干高揚とした気分で帰路に着ける。それに加え、少し前までは街灯のない夜道に戦き歩いていたのだが、今日はジェニオから借りた松明の煌々とした明かりに安心する。


 幾ら明かりがあるとはいえ矢張り亜種の遠吠えを聞くたびに体を震わせてしまう。幸いにも道中、周囲に亜種が姿を見せることは無く、無事我が家に帰ってこられた。新築のドアをノックし佐々木さんに開けてもらう。佐々木さんが眠気を誤魔化すように目を擦り立っていた。


「おかえりなさい、小路さん。ずいぶん遅かったですね。収穫はありましたか?」


 改めて佐々木さんを見るとなぜかドギマギしてしまう。今まで無意識的に目をそらしていたので、あまりまじまじと顔を見たことがなかったが、恋愛ゲームに出てくるヒロインのような可愛らしい顔立ちをしていた。それよりも今は今日の報告の方が先だ。


「ああ!大収穫があったよ!」

最後までお読みいただきありがとうございます。


今回出てきたNPCは「ジェニオ」です。容姿はドワーフそのものなんですけどね。何故名前を変えたかって?それはなんかベタな種族名をつけたくないという謎プライドが・・・。


因みに「ジェニオ」と言うのはイタリア語で天才という意味です。色々な候補がある中で天才を選んで理由は・・・特にないです。でもまあ、天才って割と阻害されがちというか一目置かれる存在と言うか。あくまで自分の印象なので、一概にとは言えませんけど、ハブられることがあるように感じます。そういう面から、付けたということにしておきましょう。


今回はあとがきが長くなりましたが、ここまで読んできただき本当にありがとうございました。


それでは次回もお楽しみに!

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