人魚姫。~悲恋とかチョー無理~
出だしは普通です。
昔々、海の底には人魚達が楽しく暮らしている国がありました。
これは、そんなとある人魚姫のお話です。
海の底で楽しく暮らしていた人魚の姫は好奇心が強く、地上の国にも興味津々でした。
ある夜、海の上から音楽が聴こえて来たので見に行くと、豪華絢爛な船の上でパーティーが開かれていたのです。
船から聞こえて来る音楽を聞いていると、人魚姫には不穏な気配を感じました。
「あれ?なんか…マズい?」
すると、嵐が来てあっという間に船が転覆してしまったのです。
海に投げ出され、波に呑まれる人々。
そんな人間達を放っては置けず、人魚姫はできる限りの救助活動をして海へと帰りました。
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それから数日。
人魚姫はどうしても地上へ行きたくなりました。
そして、暗く深い海の奥底へ住む魔女の下を訪れたのでした・・・
「こんにちはー。魔女のおばちゃんいますかー?お願いがあるんですけどー」
「誰がおばちゃんよっ!誰がっ!?」
訪れた魔女の家から出て来たのは妙齢の女性。それも、なかなか綺麗なヒトでした。
「おねーさん誰?あたし、魔女のおばちゃんに用があるんだけど?」
「だから、私がその魔女よ」
「えー?嘘だー。魔女はおばあちゃんだってみんな言ってたしー。おねーさんみたいに若いヒトだって、あたし聞いてなーい」
「え?わ、私、若い?」
「うん。おねーさん」
「そ、それで?なんの用なのかしら?」
「おねーさん、すごい魔女なんでしょ?」
「ま、まあ?一応私は魔女だけど?」
「お願い、おねーさん。あたし、地面の上を歩いてみたいの」
「地面?それって、人間になりたいってこと?」
「できる?おねーさん」
こうして、人魚姫は人間になる薬を見せてもらうことになりました。
「これが、人間の足が生える薬よ。副作用として、声が出なくなるのと、歩く度に針が突き刺すような苦痛があるわ」
「あはは、ヤだなねーさんってば。あたし、痛いのとかツラいの、我慢とかチョー無理。甘やかされて育った現代っ子だよ?」
「え?や、王子に惚れたんじゃないの?二百年だか三百年だか前の、あなたの曾々祖母さんだか、曾祖母さん辺りの妹?が、当時の王子に一目惚れしてこの薬飲んだのよ」
「あ、それ知ってる。ヤバいご先祖様の話でしょ。一目惚れして家飛び出した挙げ句、自殺?とか、チョー重くない?マジ無いわー」
「え?じゃああなた、なにしに来たの?」
「だからー、海の上の国?地面とか?歩いて観光とかしたいワケ。ねーさんにもお土産買って来るしー。だから、ね?副作用の無い薬か魔法がいいの。おねーさんマジ綺麗だし、すっごい魔女なんでしょ?」
「ま、まあ?副作用を軽くすることはできなくはないわ。けど、それだと丸一日くらいしか人間になってられないわよ?それでもいいの?」
「副作用って、どんなの?」
「軽く音痴になるわね。足生えてる間は」
「それくらいならOK。ってか、思ったより軽っ!ちなみに、どれくらいの音痴?」
「そうねー・・・人間で言うと、あんまり上手くないオペラ歌手くらい?ほら、人魚って種族特性で誰でも超絶歌上手いじゃない?」
「確かに」
「あ、言い忘れてたけど、聞くに耐えない程の超絶クっソ音痴でゴミクズ音感になる代わりに、数十年間人間になってられる薬もあるわよ?今まで、誰一人として選ばなかったけど」
「マジで?足痛くて声出なくなるより断然そっちのがいいじゃん」
「私もそう思うんだけど、音痴になるより、痛いの選ぶ人魚のが多いのが事実なのよ。理解に苦しむわ」
「あたしも、理解できない」
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こうして、軽く音痴になった人魚姫は地上観光へとくり出しました。
「わ、歩くって変な感じー。面白い」
砂浜を歩いていると、どこかで見たような青年が人魚姫を凝視して向かって来ます。
そして、言いました。
「あなたは、あのときわたしを助けてくれた方ですねっ!是非もう一度お会いしたかった!」
「え?誰?」
「驚かせてしまい、申し訳ありません。実はわたしは、この国の王子です」
「あ、そう」
「・・・知りません?わたしのことを」
「あたし外国人。そんなの知らない。OK?」
「そうでしたか・・・」
「で?」
「ど、どうかわたしと結婚してください!嵐の猛烈な荒波にも負けず、夜の海からわたしを救い出してくれたあなたの勇気と愛情に感動しましたっ!ですからどうか」
王子様が砂浜に跪いて言いました。
「は?マジで言ってンの?素面?頭大丈夫なワケ?初対面って言うか、一応会うの二回目?だけど、プロポーズとか無いわー」
「っ…なら、どうしてわたしを助けたんですかっ!?あなたはっ?」
「ンなの、とっさに体が動いたからに決まってンでしょ?とっさのことだから、好きも嫌いも、計算も打算も無いわよ。現に、助けたのはアンタ一人じゃないし」
「え?」
「ンじゃ、バイバーイ」
王子を塩対応であっさり振った人魚姫は、颯爽と街へ歩いて行きました。
美味しいものを食べて、あちこち観光をして、大量の買い物をして帰りました。
めでたしめでたし。
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「おねーさん、お土産買って来たよー!」
「きゃー、ありがとー♪」
「ところでおねーさんさ、なんでこんな辺鄙なとこに住んでんの?」
「ああ、人魚って、基本的には楽天的な種族なんだけど、周期的に悲恋にハマる個体が出て来るのよ」
「マジで?あたし、悲恋とかチョー無理」
「私も。そういうの嫌いなの。だからわざとこんな辺鄙なとこに引っ越したのよ。ここに来るまでに頭冷えればいいなって思って。そしたら、見事に来るヒトが激減。数百年に一人くらいのペースでしかヒト来なくて、かなり暇なのよねー」
「え?おねーさん・・・実は幾つなの?」
「ふふっ・・・やぁねぇ?女に年齢聞くもんじゃないわよ?」
読んでくださり、ありがとうございました。