ヘンゼルとグレーテル。~今どき木こりは流行らない~
グレーテルが逞しいです。
逞しい女の子は書いてて楽しいですね。
前の話より、ちょっと長めです。
昔々、あるところに貧しい木こりの家族が暮らしていました。
家族四人、食べて行くのもやっとという日が続いていたある日の夜中・・・
「このままじゃあ、家族全員飢え死にしちまうよ」
木こりの奥さんが言いました。
「それなら、どうすればいいんだい?」
旦那さんがたずねます。
「森に子供達を置いて来るのさ。そうすれば、あたし達だけでも飢え死にしなくても済む。四人で食べ物を分けるより、二人で分けた方がいいだろう?」
この奥さんは後添えで、二人の子供とは血が繋がっていません。
「そんな・・・子供達を捨てるというのか?」
「誰もそんなことは言ってないさ。ちょっとの間、森に置いて来るだけだよ。運が良ければ戻って来る。森は食べ物も豊富な筈さ。二人が帰って来るまでにお金を貯めて、それから迎えに行ってやればいいのさ」
奥さんはそう言って旦那さんを唆し、翌日。子供二人を森へと置き去りにさせたのです。
「いいかい?ここで動かないで待っているんだよ。奥の方で木を切っているから、終わったら迎えに来る。それまで、どうか待っていておくれ」
旦那さんはそう言い残し、とうとうヘンゼルとグレーテルの兄妹を森の奥深くへ置き去りにしてしまいました・・・
※※※※※※※※※※※※※※※
「はぁ・・・やっぱりこうなったか。どうする?グレーテル」
ヘンゼルは妹へ聞きました。
「ん?とりあえず、サバイバルするしかないんじゃない?」
「お前、逞しいな・・・」
「ま、伊達にあの継母のイビリに耐えてないわ」
「え?お前も、虐められてたのか?」
「まあね。ご飯作んの以外、家事全般させられてたの。働く量にしてはご飯も露骨に少なかったし。ンで、あのババア、父さんや兄さんに内緒で、一人でたくさんご飯食ってたわ」
「・・・あ~、あれだな。俺らには、お前が食料を多く食べているけれど、育ち盛りだから責めないであげてね。だとか言ってたんだが・・・出て来て正解か」
「そうなんじゃない?どうせあのまま家にいたって、いつか殺されてたかもしれないし。それなら、自分の意志で出てく方がまだマシでしょ」
「じゃあ、帰るのは無しってことでいいか?」
「うん。まあ、とりあえずは、今夜の寝床確保?」
「・・・俺はお前の予想外の逞しさに驚きだよ」
「夜ご飯はこのお弁当。腐る前に食べないとね。朝ご飯はには、なにか食べられる物探すとして・・・」
「まあ、食い物には困らないだろ。この森、木の実やらキノコは豊富みたいだからな」
「狼が出る代わりに、ね?」
「焚き火にするか、木に登ってやり過ごすか…」
「登る木、探しといて。兄さん」
「わかった。じゃあ、食料探索開始。なんかあったら、大声出せよ?」
「OK」
こうして、ヘンゼルとグレーテルが逞しくサバイバルをして数日が過ぎました。
※※※※※※※※※※※※※※※
ヘンゼルとグレーテルが食料を探していると、赤いずきんを被った二人よりも少し年上の女の子がどこからか歩いて来て、二人に言いました。
「あら、こんなところに子供がいるなんて珍しいわね。どうしたの?迷子なら、お家に送ってあげるわよ?」
「え?」
「あの、お姉さんは誰ですか?」
ヘンゼルが女の子へ聞きます。
「あたし?あたしは・・・赤ずきんって呼ばれているわ。この森の奥に住んでいるおばあちゃんのお家に行く途中よ」
「この森に、人が住んでいるんですか?」
「ええ。そうよ」
「熊や狼がいて危険なのに・・・」
「大丈夫よ。おばあちゃんは、とっても腕の良い猟師なの。ところで、あなた達。おばあちゃんのお家に行って後なら、送ってもいいけど、どうする?」
ヘンゼルとグレーテルは、森に置き去りにされたことを赤ずきんに話しました。
「それは大変だったわね。とりあえず、おばあちゃんのお家に行きましょう」
ヘンゼルとグレーテルと赤ずきんの三人は、森の奥深くにある赤ずきんのおばあさんの家を目指して歩き出しました。そして・・・
森の奥深くに、ぽつんと建つ一軒の小さな家。
「さあ、着いたわ。ちょっと退っていてね?」
「「?」」
ヘンゼルとグレーテルの二人は首を傾げます。
「おばあちゃーん。あたしよ、赤ずきん」
「開いてるよ。勝手に入りな」
「はーい」
と、ドアを開けた赤ずきんを狙う銃口。ヘンゼルとグレーテルは、驚きに声も出ません。
「猟銃は?」
「深い森へ分け入るレディの嗜み」
「よし、入りな。けど、赤ずきん。なんだい?その子達は」
「あ、おばあちゃん。あのね、この子達・・・」
赤ずきんは、森に置き去りにされた兄妹のことをおばあさんへ話しました。
「ほう。それは大変だったね。まあ、ご飯でも食べな。話はそれからだよ」
おばあさんと赤ずきんは、森を彷徨ってお腹を空かせた二人にご飯を用意してくれました。
「わあ、お肉だ!いつ振りかしら?」
「ありがとうございますっ!?」
「いっぱいあるから、ゆっくり食べな」
「「はいっ!!」」
※※※※※※※※※※※※※※※
「さて、アンタ達。これからどうしたい?」
二人がご飯を食べた終えた後、おばあさんがおもむろに言いました。
「え?」
「いきなり聞かれても困るだろうけどね。こういうことは、案外さっさと決めちまった方がいいものさ。家に戻りたいなら止めはしない。だが、これだけは言っておくよ。アンタ達を捨てた親は、もう一度、アンタ達を捨てるだろうよ」
おばあさんの言葉に、ヘンゼルとグレーテルの二人は、コクンと頷きます。
「家に帰るか、街に行くならアンタ達二人を、赤ずきんに送らせるよ」
「ええ。任せて。おばあちゃん」
二人は、家に帰ることはもう諦めています。かといって、街で暮らしたこともなく、街に行ったことさえありません。二人は困ったように俯くのでした。
「そういえば・・・おばあちゃん」
困った様子の二人を見て、赤ずきんが言います。
「なんだい?赤ずきん」
「新しいお弟子さん、欲しくなぁい?ここから少し遠い森のことなんだけど、最近、狼さんや熊さん、鹿さんなんかが少し増えているって聞いたの。何年後かには、おばあちゃんも駆り出されることになるかもよ?」
「へぇ。そいつは面倒そうだね。なら、今から弟子を育てるのも悪くない」
「さて、おばあちゃんは弟子が欲しいみたいだけど、あなた達はどうしたい?」
「ま、今どき木こりは流行らないからね」
「そうね。今どき、木を切るだけの木こりは流行らないわ。同時に木を植えて育てなきゃ、森も減って行くだけだもの」
「「弟子にしてくださいっ!!」」
二人は、赤ずきんとおばあさんに頭を下げて言いました。
「よし、みっちり鍛えてやるから覚悟しな」
「「はいっ!!」」
こうしてヘンゼルとグレーテルの二人は、赤ずきんのおばあさんの弟子になりました。
数年後、腕の良い兄妹のハンターが活躍していると噂になりましたとさ。
めでたしめでたし。
読んでくださり、ありがとうございました。
一話目の赤ずきん、早くも再登場です。