5.輪廻の果て
―朝。
カーテンの隙間から差し込む光を眩しく思い、漸く深冬は目を覚ます。そして大きく伸びをした。昨日必死の思いで家に帰り、そのままベッドに倒れ込んでからこの時間まで泥の様に彼女は眠っていた。深冬はスマホに手を伸ばし、時間と日付を確認する。
【12/24 sat 10:30】
「…………」
昨日、豹変したノエルを見てからというものの、深冬は何の感情も湧いて来なかった。ただ在るのは、虚無感のみであった。四度目の十二月二十四日が訪れようとも、それは変わらなかった。
この後の行動は何時もと変わらなかった。リビングに行き、兄と会話を交わし、部屋に戻り補修の準備をしてから高校へ向かい、世界史の補修を受け、ミニテストを解答し、後者を出ようとする。
当然、校門には彼女が、ノエルが立っていた。
深冬は、校門へ一歩一歩近付く。それに気付いたノエルが、此方を見て笑みを浮かべながら小走りしつつ手を振りながら向かってくる。
「……! 補修終わったんだ深冬。待ってたよ」
その表情は、昨日見たあの笑みを感じさせない、純真無垢なものであった。もしかしたら昨日見たノエルは夢だったのかもしれない、と深冬は思った。何時もの、無邪気で見ていて微笑ましくて子供っぽい可愛さのノエルが居るんだ、と――。
刹那、ノエルは強く深冬の腕をぎっちりと握った。身震いする深冬。彼女は、恐る恐るノエルの顔を見る。
「――もう二度と、逃がさないからね……?」
そう言って微笑むノエルの瞳には、狂気が満ち溢れていた――。
ノエル(のえる/Noel/Noël)
――名詞/(フランスにおいて)人名
・意味
①(フランス語で)クリスマスの意
②(アナザ神話において)アレクトと対になる神の名称。異常な愛の持ち主であり、一度愛した者を必ず自分のものにする神として知られる。