1.孤独の箱庭
《遥か昔、神の国【アナザ】には〈クロノス〉と呼ばれる女神が居た。彼女は諸悪の蔓延る【アナザ】を自ら離れ地獄の真上の無に、自らの身体を基に大地を、涙を基に海を、髪の毛を基に草木を、そして最後に自分自身の姿を基にヒトを生み出した。
それに気付いた【アナザ】の王は怒り、〈クロノス〉を魔術により分離させ、憎しみの心を持つ片割れを〈アレクト〉、愛の心を持つ片割れを――》
『アナザ神話第一集:創造史』翻訳:田中正吉
一九五六年 雷玄出版より引用
彼女――代鷹深冬が朝華ノエルと出会ったのは現在から約十年前に遡る。深冬が小学校二年生の時、ノエルは転校生として彼女の前に姿を現した。名前から分かる通り、ノエルとはハーフであった。父親は日本人で、母親はフランスのとある企業の令嬢であった。
ハーフであるという事は当然外見も日本人とは異なる。髪の色は白銀に輝き、彼女の宿す瞳の色は深紅であった。肌も他の者とは一段と白く映っていた。――人間とは醜いものであり、一つの同じ共通点を持つ集団の中に、彼らとは異なった別の者が入り込めば、当然の様に『異端』として扱い、関わることを避け、視界に映らない様にしてしまう。当時のクラスメイト達もその事象に当て嵌まり、銀髪に赤目といった異端な姿と名前を持った彼女を無視し、除け者にしていた。
そんな『大多数のクラスメイト』とは違い、深冬はノエルと関わることを選んだ。『いじめられている子を助ける』と言った大それた正義感からではなく、単なる彼女への好奇心からであった。ノエルは一体どんな性格で、どんな考えを持っていて、どんな夢を持っているのか……。十歳もいかない少女にしては少し大人な判断であったが、それは孤独の檻に入れられていたノエルを救う事になったのだ。
昼休みに端の席で絵本を読むノエルに深冬が話掛けた事から二人の関係は始まった――。
それからというものの、彼女たちは常に二人であった。給食の時間も、休み時間も、修学旅行の班も、進学した中学も……二人は無二の親友となっていった。