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とある幻と白々日記

作者: 式十

 珍しく人に見せられる日記になりそうなので、ここに載せる事にする。だが、こんな事を言って信じてくれる人がいるとは思わない。

 これを見る人には、頭のおかしい人間の夢とでも思ってもらう事にしよう。


 全ての始まりは、非常につまらないモノであった。

 昨日のオレは、「帰ったら雪かきを頑張ろう」と考えていた。母さんや父親が帰ってきた時に、少しでも車を入れやすい様にしたかったのだ。

 しかし。

「……ねぇぇ……」

 雪かき用のシャベルを買おうとあちこち歩き回ったが、シャベルはおろか雪かきさえ無かった。

 それなのに、手袋をした両手には、売れ残ったか何かで安くなっていたゲームのカセット……が入った袋と、コンビニで買った白い傘が握られている。

 朝から降りっぱなしの雪は一向に止む気配を見せず、激しさを増すばかりだった。

「だあぁもう、困ったなぁこりゃ……」

 人がいないのをいい事に、オレはぶつぶつと独り言を言いながら真っ白な道を歩いていた。

 背負ったリュックサックが異様に重く感じる。長靴に雪が入り込むせいで、一歩歩く毎に足取りが重くなる。どこへ行こう、と考えてオレはぶんぶんと首を振る。頭から雪が落ちた。

 売っていそうな場所は片っ端から見て回ったじゃないか。もうオレのやる事と言ったら、この重たい身体をひきずって帰る事しかないだろう。

 嫌だなぁ、とぼんやり呟いて、曲がり角を曲がる。せっかくバス代ももらったんだから、素直にバスで帰れば良かったと後悔した。


 そうして車の通りが激しい道路を縮こまりながら歩き、田んぼと畑だらけの農道に辿り着いた。

 昔はここをよく歩いていたが、久しぶりにやってきても懐かしむ気持ちは今のオレには無かった。

「白い」

 どこが道路でどこが耕地なのか見分けが着かないぐらいに、雪が積もっていた。

「見えない」

 雪の勢いもますます激しくなり、数m先の景色さえ白く濁って見えない。


「つれぇ」

 何より2時間近く雪が深い道を歩いていたせいでオレの足は非常に重くなっており、乳酸大分泌祭を始めそうな勢いだった。

 それでも挫けずに歩いた。

 目に雪が入っても、視界がほぼ白に閉ざされても、ただひたすらに歩き続けた。


 そして体力も無ければ頭もないオレが強行突破を試みてどうなるかと言うと……

「あ゛」

 当然ながら、倒れる。

「なんでだ……なんで、曲がり角が見つからねぇ」

 曲がって車道を抜けさえすれば懐かしい家々と灯りが見えてくるハズなのに、曲がり角が見つからない。あるのはただひとつ、雪だけだ。

「こんの、ド畜生が……」

 ゆっくりと起き上がって、身体についた雪を払う。そしてまた、歩く事にした。


 しかし歩いても歩いても、やっぱり曲がり角は見つからない。

 かくなる上は、このまま朝を待つしかあるまい……と武士みたいな言葉が浮かんだその時だった。

「えっ……マジかよ!?」

 謎の人影が見えた。しかも、そいつは今までオレが歩いてきた一本道ではなく、曲がった後の道を歩いていたのだ。

 オレは少しでもその人影に近づこうと、歩くスピードを速めて引き返す。

「……やったぜ。これで曲がれる!!」

 程なくして曲がっていく足跡を発見し、迷いなく進んだ。人影にも、走る力が残っていれば、2分ほどで追いつけるんじゃないかと思うぐらい近づいた。このまま行けば、車道に出る。車のライトで明るくなったら、あの人影が年寄りなのかおっさんなのか分かるだろう。

 胸の中に希望の火が灯るのを感じながら、ずんずんと雪をかき分けていく。

 そしてもうすぐ車道に出ると言う時、オレは思わず声をあげた。

「い、いねぇ……!?」

 ふと目を離した隙に、人影も足跡も、形骸を留めず消えていた。振り返っても、一人分の足跡が今にも消えそうになりながら残っているだけだ。

 人影の代わりとでも言うのか、しゃあっと解けた雪を巻き散らしながら、車が走っていくのが近くに見える。

 今までオレが見ていたのは、何だったんだろう。幽霊か、雪男か。UMAか。それともただの幻か。


「……何にせよ、ありがとうだな……本当に……」

 白い煙と一緒に、そんな言葉がオレの口から溢れ出た。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 人影の正体が何にせよ、道を導いてくれたのですから、優しい心を持っているんだろうなと思います。
[良い点] 「オレ」のつぶやき。ぼやきは人間の摂理ですよね。 [一言] 式十さん、はじめまして。「つぶらやこーら」と申します。いわゆる不思議な体験ものですね。彼らは弱者にやさしく、強者に容赦がない、判…
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