魔力を秘めた少女
登場人物
ハルナ:どこにでもいそうな女の子。普通そうに見えて実はその内に膨大な魔力を秘めている。
その街はその日も平和でした。
通りを行き交う人々全てが楽しく過ごしている訳ではありませんでしたが、少なくともその街でしばらく前に見られたような危機的事態には陥っておらず、概ね平和と呼べるような様子でした。
しかし、その平和を嘲笑うかのように新たな脅威が目覚めつつあったのです。
その街の地下奥深くにある未知の空間。そこに闇の力が集まっていました。そしてその日、それらの闇の力が具現化し、怪人達が誕生したのでした。
強大な力を持つ五人の幹部と、それよりもさらに強大な力を持つ二人の大幹部。
そして闇の力によってその空間は瞬く間に地下神殿へと姿を変えていきました。
その次の日、ハルナはいつもと変わらないごく普通の生活を送っていました。
学校に行って、授業の内容を聞き流し、休み時間には友達と旬なアニメやゲームについて話し、その日は部活の無い日でしたのでゲームの攻略を行うべく真っ直ぐ家に帰る……つもりでいました。
平和な昼下がり、街の通りに突如として魔方陣が出現し、闇の幹部の一人であるソリーサが姿を現しました。
通りにいた人々は怪人の出現に驚愕しました。
「さて、遊んでみるとするか。ハアッ!」ソリーサの魔法により無数の下級怪人ファミリアが召喚されました。
ファミリア達が通りにいた人々を襲い始め、通りは瞬く間に混乱に包まれました。
ハルナは黙々と自転車を漕いでいました。
道路の右側を渡って向かいから来る自転車とぶつかりそうになったり、後方を確認せずに左折ようとして車に撥ねられそうにもなりましたが、いつものことなので特に気にしませんでした。
しかし、自分を撥ねそうになった車に突如として怪人が飛びついた光景には驚きを禁じ得ませんでした。
「バケモノ……!?」自転車を止めてハルナが言いました。
その車の運転手は突然の事態に混乱し、その車はファミリアを屋根に乗せたまま暴走して別の車と衝突し、爆発しました。
「そんな……!」ハルナは自転車から降りてその場から走り出しました。
本来ならば自転車に乗って逃げた方が早くその場を離れることが出来たのですが、その時のハルナにはそれが最善の選択のように思われていました。
そしてハルナはソリーサのいる場所に辿り着きました。
「……!」ハルナはその場の光景に言葉を失ってしまいました。
ファミリア達によって通りにいた人々は全員倒され、誰一人として立っている人間はいませんでした。
「ん……?獲物が迷い込んできやがったか……。」ソリーサがハルナに気がつきました。
「……!」ハルナは恐怖で何も言うことが出来ませんでした。
「チッ……ザコか……。」ソリーサは言いました。「これ以上ザコを狩っても面白くねえ。テメーのことは見逃してやるから安心しな。尤も、その時が来ればこの世界諸共テメーら全員滅びちまうんだけどな。クククククククク……!」
ソリーサがファミリア達を引き連れてその場を去っていきました。
ハルナは目に涙を浮かべながらガックリと地面に膝を突きました。そしてそのまま項垂れてすすり泣きました。
そこへ一匹のネコがハルナの元に近寄ってきました。いえ、厳密に言えばその存在はネコでは無いのですが、その容姿はまさにネコそっくりでしたのでここではネコと表現しておきます。
「泣かないで。」そのネコがハルナに言いました。
「……?」ハルナが顔を上げて声の主を確かめました。「えっ……?」
「元気を出して。」そのネコが言いました。
「う、うん……。」先程の体験もそれはもうハルナにとって衝撃的なものでしたが、ネコに話し掛けられることもまたハルナにとって予想外のことでしたのでハルナは悲しむことをすっかりと忘れただただ呆然としていました。
「あなたは……?」しばらく呆然としていたハルナがようやく口に出せた言葉がこれでした。
「ボクはカーター、妖精さ。」そのネコ、カーターが答えました。
「妖精……?」ハルナが言いました。
「古来より存在する超自然的な魔力を持つ存在さ。そんなに数も多くないし、普段は人前に姿を見せたりはしないんだけど、今は非常事態だから……。非常事態には非常手段も認められるってね。」カーターが言いました。
「はあ……。」ハルナは未だ呆気に取られるばかりでした。
「事ここに至っては最早のんびりと理解を促している余裕は無い。ボクからの頼みを簡潔に話すよ?」カーターが言いました。
「うん……。」ハルナが答えました。
「既に知っていると思うけど、闇の力が世界を滅ぼそうとしている。でもボクもこの世界の住人としてこの世界を滅ぼされるワケにはいかない。そこでキミに闇の力からこの世界を守って欲しいんだ!」カーターが言いました。
「えっ……?ええっ……!?」辛うじてカーターの言葉を理解出来たハルナは驚きながら恐怖によって再び目に涙を浮かべました。「ムリだよ……そんなこと……。さっきだってちょっと漏らしちゃったのに……。うう……!」
「大丈夫、キミなら出来る!キミには魔力があるんだから!」カーターが言いました。
「魔力……?」ハルナが言いました。
「そう、人智を超えた神秘的な力さ!」
「えっ……?」
「人間は多かれ少なかれみんな魔力を持っている。とは言うものの多くの人間はそれ程の量の魔力は持っていない。でもキミは違う。キミはスゴい量の魔力を持っているんだ!そう、闇の力に十分対抗出来る程の魔力をね!」
「ウソつき!私に魔力なんてあるワケ無いよ!だってこれまで魔法なんて使ったこと一度も無いもん!今の私から溢れ出てるのは絶望の涙だけ!あと鼻水……。」ハルナが鼻をすすりました。
「魔力を持っていてもそう簡単に魔法は使えたりはしないさ。せいぜい気分がノッてる時にちょっと運が良くなるくらいだよ。ホラ、良いことが重なったりすることってよくあるでしょ?」カーターが言いました。
「悪いこともよく重なることがあるけど、それも私の持つ魔力のせいだったりするの?」
「いや、今の話はボクの仮説に基づいた話で、実際のところ魔力と運との因果関係はまだ証明はされていないんだ……。」
「……。」
「とにかくボクが言いたいのは、ボクがキミに力を貸せばキミは魔力を使って闇の力と戦うことが出来るってことさ!」
「本当にそうなの?この私が……?」ハルナの心に一筋の希望が生まれました。「この私に世界を救えるの?」
「うん!」カーターが腕輪を召喚してハルナに渡しました。
「これは……?」
「マジカルチェンジャー。一定以上の魔力を持つ者を戦闘に適した姿へと変身させるアイテムさ!」
「変身……!?」
「そう。変身をすることで運動機能が飛躍的に上昇し、さらに身体が受けるダメージを魔力で肩代わりすることが出来るようになるんだ。」
「えーっと……要するにダメージを受けた際にHPが減る代わりにMPが減るような感じかな?」
「まさしくその通り!人間の体は脆いものだけれども、魔力が残っている限りキミの体は傷付かない!」
「おお!」ハルナが感嘆の声を上げました。
「でも気をつけて。体は傷付かなくてもそれなりに痛みは感じるし、所謂スーパーアーマーの効果は得られないよ。」
「つまり、攻撃を受ければ仰け反るし、場合によってはダウンしちゃうこともあるってことか……。」
「そう。どうやらこの説明の仕方が分かり易いみたいだね。」
「うん、そうみたい。」
「とりあえず今は早くアイツを阻止しなくちゃ!詳しい説明は戦いながらで良いかな?チュートリアルを行うよ!」
「うん!」ハルナが立ち上がってマジカルチェンジャーを装着しました。
「あっ、えっと、チュートリアルって言ったけど、場合によっては死んじゃうかも知れないから気を抜かないでね。」
「えっ……!?ああ、うん……。」ハルナが少しだけ気を落としました。
「まあ、大丈夫さ!キミなら出来る!」カーターが言いました。
「ホントにそうだと良いんだけど……。」
「とにかくヤツを追いかけよう!」カーターが走り出しました。
「待ってよ……!置いてかないで……!」アキナがカーターを追って走り出しました。
近くの通りを無数のファミリア達を連れたソリーサが歩いていました。
人々はソリーサ達の姿を見てただただ逃げ惑うばかりでした。
「そうだ人間共!もっと恐れろ!もっと震えろ!破滅がお前達を待っているぞ!」ソリーサが叫びました。
「そこまでだ!」カーターが駆けつけました。
「ん……?妖精だと……?」
そしてハルナが駆けつけました。
「テメーは……!」ソリーサが言いました。「まさか……テメー……!?」
「……。」ハルナがブレスレットを見つめました。
「準備は良い?ブレスレットに指を添えて変身したいと念じるんだ!そうすればキミは変身することが出来る!」カーターが言いました。
「うん……!」ハルナが身構えました。「変身!」
次の瞬間、マジカルチェンジャーから「Change!」の電子音声が発せられると同時にハルナが魔法少女へと変身しました。
「これが……私……?」ハルナが言いました。
「うん!キミこそがこの世界を救うヒーローさ!」カーターが言いました。
「フッ、少しは楽しめそうになってきたじゃねーか!行け、ファミリア共!」ソリーサが叫ぶと同時にファミリア達が一斉にハルナに向かい始めました。
「行くよ!」ハルナが叫びながらファミリア達に向かって走り出しました。
ハルナは華麗なパンチやキックで次々とファミリア達を次々と倒していきました。
「武器を召喚するんだ!」カーターが言いました。「念じることで武器を召喚することが出来るよ!」
「うん!」ファミリア達に囲まれながらハルナが体勢を整えました。
「マジカルブラスター!」ハルナが大きな拳銃を召喚しました。
ハルナが歩きながら周囲にいるファミリア達を次々とマジカルブラスターで撃って倒しました。
「マジカルブラスターは高い威力を持った弾丸を撃ち出すことの出来る魔法の拳銃さ!トリガーを引きっぱなしにすることで魔力を蓄え、より強力な弾丸を撃ち出すことも出来るよ!」カーターが言いました。
「うん!ハアッ!」ハルナがジャンプしてファミリア達から離れた位置へと移動しました。
ファミリア達が一直線にハルナに向かっていきます。
ハルナがマジカルブラスターを構えました。魔力を蓄えることでマジカルブラスターの銃口から光が漲り始めました。
「ん……?」ソリーサが言いました。
「マジカルブラスト!」ハルナが大きな魔法弾を撃ち出しました。
その大きな魔法弾がファミリア達に直撃すると同時に大爆発が起こってファミリア達が全滅しました。
「やった!」ハルナが喜びの声を上げました。
「うん!」カーターが言いました。「良い戦いぶりだったね!でも戦いの際には常に気をつけて。魔力が無くなったら変身も解除されて無防備な状態を晒してしまうことになる。戦闘中に失った魔力は時間が経てば元に戻るけど、一定以上の魔力を失うと回復速度が下がって回復により多くの時間が掛かるようになる。常に魔力の残量には気を配ってね。」
「うん、分かった!」ハルナが言いました。
「フッ、随分と楽しませてくれるじゃねーか!」ソリーサが言いました。
「次はあなたが相手?良いよ!相手になってあげる!」ハルナがマジカルブラスターを構えました。
「ハッ、テメーの相手はオレじゃねー!コイツだ!」ソリーサが街中に巨大な魔方陣を出現させました。
「アレは……!」カーターが言いました。
「何……!?何が出てくるの……!?」ハルナが言いました。
「出でよ、魔獣ノテュラ!」ソリーサが叫ぶと同時に魔方陣より怪獣が召喚されました。
「おっきなバケモノ……!」ハルナが言いました。
「ハッハッハッハッハッ!テメーの相手はこのノテュラだ!果たしてテメーにノテュラが倒せるかな?ま、せいぜいこのオレを楽しませろ!ハッハッハッハッハッハッハッハッ!」ソリーサが言いました。
ノテュラが周囲の建物を壊し始めました。建物の周囲では瓦礫が降り注ぐ中人々が逃げ惑います。
「くっ……!」ハルナがノテュラに向けてマジカルブラスターを構えました。
「待って!」カーターが言いました。
「えっ……?」ハルナがマジカルブラスターを降ろしました。
「巨大な相手には巨大ロボットを使うんだ!」
「巨大ロボットって……あの……?」
「うん!」
「どうやったら巨大ロボットを出せるの?」
「さっきまでと同じ、念じれば良いのさ!本来ならば巨大ロボットの召喚には膨大な量の魔力の生贄が必要になるんだけど、自分の場に巨大戦力が存在せず相手の場にのみ巨大戦力が存在する時、ボクの用意した巨大ロボットは生贄無しで召喚することが出来るんだ!」
「何だか良く分かんないけど、とにかく念じれば良いんだね!」ハルナが構えました。「召喚!巨大ロボットマジカンダー!」
ハルナの叫びに応じてマジカンダーが召喚されました。
「おおっ……!」ハルナが驚きの声を上げました。
「さあ、コックピットに乗って!」カーターが言いました。「魔法でコックピットまでワープすることが出来る!」
「うん!」ハルナがマジカンダーのコックピットへとワープしました。
「ハルナ、聞こえる?」コックピット内にカーターの声が響きます。
「うん、聞こえるよ!」ハルナが答えました。
「念じながら操縦桿を動かせば巨大ロボットを自在に動かすことが出来る!」
「分かった!」
マジカンダーとノテュラが対峙しています。
ノテュラが口から炎を吐き出しマジカンダーを攻撃しました。
マジカンダーの周囲が炎に包まれました。
「リストバルカン!」ハルナが操縦桿を動かしました。
マジカンダーが両腕に備えられている機関砲を片方ずつ撃ってノテュラを攻撃しました。
機関砲から撃ち出される魔法弾を受けてノテュラが怯みました。
マジガンダーを包んでいた炎が消えました。
「このまま一気に押し切るよ!」ハルナが操縦桿を動かすと同時にマジカンダーが両腕を前に突き出しました。「ラスティング・バースト!」
マジガンダーの両腕から絶え間無く魔法弾が撃ち出され、ノテュラに致命的なダメージを与えました。
そしてマジガンダーが攻撃を止めると同時にノテュラは倒れてそのまま爆発しました。
「やったー!」ハルナが喜びの声を上げました。
「フッ、やるじゃねーか。今日のところはオレの負けってことにしといてやるぜ。ククククク……!」そう言い残してソリーサが姿を消しました。
夕陽がマジガンダーを照らす中、ハルナとカーターが近くの建物の屋上で話しています。
「見事な勝利だったね。」カーターが言いました。
「うん。」ハルナが言いました。
「キミには魔力だけじゃなくてバトルの才能も備わってると思うよ。これからも世界を守る為に戦ってくれないかな?」
「う~ん……どうしようかな……?」ハルナが困った様子で答えました。
「えっ、ひょっとしてこの流れで「無理」って言う可能性があるワケ……!?」カーターがわざとらしく驚いた様子で言いました。
「そりゃああるでしょ!死ぬかも知れないんだよ!?」ハルナが言いました。
「でも、もし誰も戦わなかったらどの道みんな終わりさ。」カーターが言いました。
「確かにそうだけど……。」
「ボクもボクに出来る最大限のサポートをするよ!だからお願い!」カーターが真剣な面持ち言いました。
「そこまで言われちゃ、しょうがない……。よし、やるよ!もしまたバケモノが出てきたらやっつけてみせるよ!」ハルナが言いました。
「ありがとう!えっと……。」
「私の名前……?ハルナ。呼び捨てで良いよ。」
「ありがとう、ハルナ!」カーターが言いました。「ちなみに、ボクの名前は……。」
「ネコタロウ?」
「違うよ!」カーターがツッコみました。「ボクはカーター。妖精のカーターだよ!」
「よろしくね、カーター!」ハルナが言いました。
「うん!」カーターが言いました。
こうしてハルナの戦いが始まったのでした。