季節廻る国の童話 〜企む女王さま達〜
あるところに、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王さまがおりました。
女王さま達は決められた期間、交替で塔に住むことになっています。
そうすることで、国にその女王さまの季節が訪れるのです。
ところがある時、いつまで経っても冬が終わらなくなりました。
冬の女王さまが塔に入ったままなのです。
辺り一面雪に覆われ、このままではいずれ食べる物も尽きてしまいます。
困った王様は眠っていた春の女王さまを起こして言いました。
「フユが塔から出てこないのだ。お前が塔に行ってあの子を説得し、季節の巡りを正常化させておくれ」
○○○○
王様に言われた春の女王さまは、季節を司る塔の下にやってきました。
この塔の最上階で、女王さま達はそれぞれの季節を過ごします。それ以外の時は眠っていて、交代する時は自然と目覚めるのがいつものサイクル。王様に起こされたのは初めてです。
「フユちゃーん、王様がね、お部屋から出てきて、あたしと交代しろって〜」
最上階にある窓に向けて春の女王さまは呼びかけました。
けれど、何も反応もありません。
「うーん、反応ないなぁ。それじゃぁ、フユちゃんが楽しくなって、外に出たくなるようにしてあげるね」
春の女王さまはお友達に呼びかけて集まってもらいました。そうして、集まった人や動物たちに笑顔をむけます。
「みんな、思いっきり遊ぼう! フユちゃんが混ざりたくなるくらい楽しくね!」
みんなでジャンケンをして、塔の周囲で鬼ごっこを始めました。
春の女王さまは小さな女の子。女王さま四姉妹の三女です。
春は出会いの季節というのもあって、初対面の人とお友達になろうといつも頑張っています。だから、お友達はいっぱい。
できたお友達と遊ぶのが何よりの楽しみです。
みんなとはしゃぐのは楽しいものです。
冬の女王さまが混ざりやすいように、たまに呼びかけながら遊び続けます。
声にひかれてか、冬の女王さまが窓から顔をのぞかせました。しかし、部屋からは出てきてくれませんでした。
○○○○
困った王様は夏の女王さまも起こしました。そうして、季節を正常に廻らせてくれるように頼みます。
頼まれた夏の女王さまも季節の塔にむかいました。
一息に最上階まで登り、部屋の扉を叩きます。
「フユ、何をわがままをしている! みなが困っているのはわかっているのだろう!?」
それから、こんこんと説教を始めました。
夏の女王さまは女王さま四姉妹の次女。とても真面目な性格です。それに、何をするにも全力投球。
この時も、熱をこめて三日三晩説教をしました。
けれど扉は開きません。
このままではらちがあかなさそうなので、夏の女王さまは方針転換を決意します。
仲のよい人たちに集まってもらい、春の女王さま達も巻きこんで運動会を始めました。
全力で勝負に挑むというのは清々しいものです。試合後には友情も芽生えます。
熱気にほだされて、冬の女王さまが出てくるのではないかと思ったのです。
運動会の様を、冬の女王さまが窓からのぞきます。そこまではうまくいったのに、外につれ出すにはいたりませんでした。
○○○○
王様はついに秋の女王さまも起こして頼みます。
「あらまぁ、それは困りましたね。うふふ、だいじょうぶ。どうにかなりますよ」
困りはてた王様に秋の女王さまは笑いかけ、それから、知りあいの男の子達に連絡をいれました。次に、お城の料理人に頼んでおかしや料理を用意してもらいます。
手配を終えると季節の塔にむかいました。
塔の下では春と夏の女王さまが塔の上の方をながめています。
「ハル、ナツ、お疲れさま。疲れたでしょう? 食事を用意させたから、すこし休みましょう」
秋の女王さまは二人に声をかけ、料理人に用意してもらった宴の席へと導きました。
そこには秋の女王さまが呼んだ男の子達も来ていて、ほがらかに笑っています。
男の子達は実に個性豊かで、同じような子は一人もいません。春の女王さま、夏の女王さまそれぞれに性格の合いそうな男の子がついて、楽しそうにお喋りを始めました。
秋の女王さまは女王さま四姉妹の長女。実りの秋に収穫されたものを食べることと、恋の季節らしく、人を愛することが大好きです。
食べることと愛することは誰もが好きなこと。
冬の女王さまだって楽しそうな声につられて出てくるだろうと思って、宴を開いたのです。冬の女王さまの男の子の好みがわからなかったので、できる限り色んな子も連れて。
好みの子がいれば、お喋りしたくなって、出てきてくれるだろうと思ったから。
わいわいと宴をしていると、冬の女王さまが窓から顔をのぞかせました。
「フユちゃん、これ美味しいよ!」
「お前も共に味わうといい。姉上がわざわざ用意してくださったものだからな」
春と夏の女王さまが冬の女王さまに呼びかけます。
冬の女王さまは少しだけ窓から身をのりだして……けれど、すぐに窓の陰に隠れてしまいました。
「フユ、食べたいものがあるのなら、お姉ちゃんがすぐに用意してあげるわよ。ほら、だから、言ってごらんなさい」
優しく秋の女王さまは語りかけます。
「そんなごちそう今まで見たことないので、どれもとてもおいしそうです。あの、その……。わたし、たくさんの人は苦手で」
「まぁ、そうだったの? それじゃぁ、この子達は邪魔ね。呼びつけておいてごめんなさいね、あなた達。また秋に会いましょう」
秋の女王さまがほほえむと男の子達は帰っていきます。
その横で、秋の女王さまは春の女王さまに大きなバスケットを渡し、夏の女王さまにはたくさんのふわふわした布を持たせました。
「お姉ちゃん、重いよ、これ」
「でしょうね。でも、あなたじゃナツの荷物は持てないでしょう? 塔の上までだから頑張ってちょうだい」
「姉上、この大量の荷物はなんなのだ!? 説明を」
「いいからいいから。さぁ、塔を登りましょう。フユ、今から私達三人だけ上に登るから、扉を開けてね。ああ、部屋には入らないし、あなたに出てこいとも言わないから安心してちょうだい」
コタツ机を持った秋の女王さまは妹達の背を押し、塔を登りはじめました。
最上階の部屋の扉は開いていて、壁に半分隠れながら冬の女王さまが秋の女王さま達の方を見ています。
「きちんと扉を開けていてくれたのね、フユ。お姉ちゃん嬉しいわ」
笑みを浮かべた秋の女王さまは、持っていたコタツをドスンと置きました。上から夏の女王さまに持ってきてもらった布団を被せ、春の女王さまからバスケットを受けとります。
「あの、アキお姉さま、これは?」
部屋から冬の女王さまが尋ねてきました。
秋の女王さまはコタツの一辺に座り、バスケットの中身を出していきます。
「あなたが大勢は苦手って言ったから、姉妹水入らずでお喋りしようと思って。フユが人見知りだなんてお姉ちゃん知らなくてごめんなさいね」
コタツの真ん中にはみかんカゴが、湯呑みには熱々の緑茶が注がれていきます。
春と夏の女王さまもコタツに入りました。
「ほら、フユ。あなたもお座りなさい。これなら部屋から出ないでコタツに入れるでしょう?」
まだ誰も座っていない辺に湯呑みを置きながら秋の女王さまが言いました。
その辺は、最上階の部屋の扉ぴったりのところにくるように置かれています。秋の女王さまの言うとおり、これなら部屋から出ずにコタツに入れます。
冬の女王さまもおずおずとコタツに入りました。
「私達は姉妹なのに、こうして全員そろって顔を合わすのは初めてだな」
「そういえばそうね。私達は担当の季節以外では寝ているから。ナツとフユには季節の変わり目に会うけど、ハルに会ったのは初めてね。かわいい妹に会えてお姉ちゃん嬉しいわ」
みかんをむき、お茶をすすりながら四人はお喋りします。そうしていると、
「あの、今回はわがままをしてすみませんでした! わたし、寂しくて」
冬の女王さまが突然頭を下げました。
「どういうことかしら?」
他の女王さま達は目を丸くします。
顔を上げた冬の女王さまは涙目です。
「冬は人も動物も植物も眠りについたり家にこもったりで、わたしはいつも一人。それが寂しくて」
喋っている途中で、冬の女王さまは言葉に詰まってしまいました。
冬の女王さまは女王さま四姉妹の末っ子。寂しがりやな引っ込み思案さんです。
「誰にも寂しいって言えなくて、でも、誰かに会いたくて。塔にこもれば困った人達がわたしを連れ出そうと来てくれるんじゃないかと思って」
えんえんと冬の女王さまは泣きだしてしまいました。
他の女王さま達は困ったように口をつぐみ――最初に口を開いたのは夏の女王さまでした。
「そんなことを一人で悩んでいたのか」
「冬なんていらないんです。みんな、わたしの季節が近づくと嫌がるし」
「えー! 冬がなくなっちゃ困るよ! 冬がないと、春にお花をさかせられないもん!」
「え?」
予想外の言葉を言われて、冬の女王さまは目をぱちぱちさせます。
そんな冬の女王さまの頭を、秋の女王さまがなでなでしました。
「そうよ、フユ。冬はね、みんな、春に備えてゆっくり休んでいるの。お休みの時間がないと疲れちゃうでしょう? あなたの季節にゆっくり休めるから、春には花が咲いて、夏は太陽が降り注いで、秋に実りが得られるの。いらない季節なんてないのよ」
ちょっとだけ泣き止んだ冬の女王さまに、秋の女王さまは顔をよせにっこり笑います。
「冬の間あなたが寂しくないように、お姉ちゃん、縫いぐるみを作ってあげるわね。こーんな大きな、熊の縫いぐるみ」
「それじゃぁあたしは、冬にも起きている子達に、冬でも塔にも遊びに来てって頼んでおくね」
「私は皆が冬を恋しく思うよう、特別に暑い日を作ろう」
春と夏の女王さまも顔をよせ、にっこり笑いました。
冬の女王さまが他の女王さま達を見回すと、三人とも笑顔でうなずいてくれます。
「フユ、我慢はしなくていいのよ。寂しくなったらまた塔にこもっちゃいなさい。お姉ちゃん達会いにくるから」
お茶を継ぎ足しながら、秋の女王さまがそんなことを言いだしました。
冬の女王さまはびっくりです。
「でも、そんなことをしたら」
「なに、ほんの数日季節が乱れるだけだ。特に困るほどでもないさ」
夏の女王さままで平然としています。
「わーい! またみんなでお茶できるんだ。楽しみ!」
春の女王さまはひたすらに楽しそうです。
それから、四人の女王さまは、王様に内緒で悪だくみの約束をしました。
悪だくみといっても、大それたことではありません。
寂しくなったら、ちょっといつもより長く塔にこもって、他の女王さまに会いたいと主張しましょう。というだけのものです。
寂しくなくなった冬の女王さまは喜んで部屋を出ました。代わりに春の女王さまが入ります。
こうして、国には春が訪れました。
○○○○
季節の廻りがいつもと違う時。
それは、乱れている季節の女王さまが他の女王さまに会いたいと主張している時かもしれません。
だから落ち着いて、ちょっと乱れている季節を楽しみましょう。
次の季節は必ずやってくるのですから。